魔王様はVtuber

伊可乃万

第1話『魔王様、Vtuberを目指す』

異世界を支配していた魔王である某、ハーラル・ヴィガンスは、ある日突然やってきた半端ない勇者に袋叩きにされた。

 そして城を明け渡し、今は勇者が新たなる魔界の王として君臨しているに違いない。某は遅れて駆けつけてきた一人娘のフラルをつれて、娘の助言で異次元の穴を作り、最後の魔力を振り絞り、勇者の絶対に来れないであろう、とある人間界へと逃げてきた。

 しかし、人間界での某の魔力は、魔界の100分の1。戦闘能力は、普通の人間と大差ない。せいぜい見た目が若く美しく、身長が190あることぐらいだ。我が愛しの可愛く賢い一人娘、フラルは、やってきた人間界の事を探るため、魔法を使って人間界の学生の制服とやらに着替え、既にこの新世界を探索している。某はというと、公園のベンチに座って号泣している。


「なんで勇者あんなメッチャ強いん? 勇者えげつないって。ありえへんやん。あんな強力な攻撃で死ぬほど痛めつけられて、よくわからん大魔法使われたら、メチャ痛いやん。しかも嫌いなおたまじゃくし見せてきて、泣かすやん? そんなん誰だって勝てへんやん? ウチもう嫌や。魔界には、帰りとうないでぇ・・・」


 年がいもなく大粒の涙を流し、泣き言を言ってはいるが、今はそんな場合ではない。某の戦いは、まだ終わっていない。娘はまだ若い。某が養わないといけない。ここは地道に、糞みたいな人間界、日本という国で、まずは仕事を探すとしよう。


 赤いマントを羽織り、公園というゴミの集まる場所を出て道を歩いていたところ、大通りの掲示板に、警備員という、謎の職業の求人広告があった。恐らくは警備兵と似たようなものであろう。それならば、この某にも出来そうだ。某はさっそくその警備会社というところに突撃した。


 会社の中に押し入ると、中の愚民達が身構えている。マント姿の私を訝しげに見ている。ここは落ち着いて、某の目的を語るとしよう。

 

「邪魔するぞ。某の名前はハーラル・ヴィガンス。魔王だ。貴様ら人間どもに、特別にこの某を雇わせてやる。ありがたく思え」

「あの、あなた。・・・失礼ですが、お名前は?」


 某に接近してきた、制服を着た年配のもやしのような体の男が、さっそく軽く侮辱してきた。名は名乗ったであろうが。しかし、ここで怒ってはいけない。


「・・・今、申したであろう。ハーラル・ヴィガンスである、と」

「あの、失礼ですが、どこの国の出身です?」


 この童が。馬鹿なことを言う。魔王なのだから、異世界の魔界から来たに決まっているだろう。もういい、怒る。


「この、たわけめっ魔王が魔界以外に存在すると思っているのかっ」

「あの、失礼ですが、少し真面目にお話をしていただけないでしょうか? 私達も仕事中で、困りますんで。面接希望なら、予約を後日取って下さい」

「真面目も糞も、某は大真面目だ。貴公こそ、恥を知るがよいっ魔王が来てやったんだぞっ予約など必要ないだろう!」

「もっ申し訳ありませんが、今忙しいんで。本日のところは、お引取り下さい」

「ふふふ、そんなことを言ってもよいのか? 某の自慢の魔法、ギブミーダイナマイトメガトンフラッシュダイナマイトフラッシュギブミーチョコレートを見せてやろうか?」

「・・・いいから早く出て行けっ警察呼ぶぞ、この野郎っ」

 

 この制服童、突然態度を豹変させてきた。本当に某の大魔法、ギブミーダイナマイトメガトンフラッシュダイナマイトフラッシュギブミーチョコレートを食らいたいのか? 泣いても知らないぞ?

 

「警察? 何だそれは? 呼べるもんなら呼んでみろ。全て返り討ちにしてやる。というか、とりあえず働いてやるから前払いで給料を出すがよい」

「はい言質取った。通報しますね」

「録音しておいたぞっ」

「む? 通報?」


 そして某は、複数名の警察官という連中にあっさり拘束された。両手に枷をかけられ、パトカーという自動車に乗せられ、警察署という牢獄に連れて行かれ、警察官という人間から恫喝紛いの説教を受けた。某は許しを請うために、自らが魔王であることと、異世界の魔界から来たこと、勇者が怖いことを赤裸々に語ったが、警察官という童の人種は一切相手にしてくれず、自称魔王呼ばわりされ、某の事はテレビというこの日本という国のニュースでも報道されたらしい。そして一日牢屋に入れられた。


「本日の午後、自称魔王の住所不定無職、ハーラル・ヴィガンスと名乗る国籍不明の男が、警備会社に押し入り、働かせないと魔法を使う、などと騒ぎ、金品を要求してきたため、恐喝罪として逮捕されました。取り調べに対し、ハーラル容疑者は、某は魔王で魔界から来た、勇者は悪党で怖い存在、等と、終始支離滅裂で、わけのわからないことを口走っているようです」

「全く、・・・最近は、物騒な事件が多いですね」

「時代ですかね」


 悔しい。某は、自称魔王ではない。本当に魔王だ。

 翌日、報道を観たという娘のフラルがやってきてくれて、某のことを心の病気で、家出してきた外国人である、と警察に説明し、そして釈放された。カツ丼という人間界の食べ物がやたら美味かった。


「お父様、無茶は止めて。異世界の常識は、この人間界では非常識。一切通用しないのよ」  

「ああ、理解したよ。我が愛しの娘、フラルよ」


 人間界は、魔王には、とても冷たい。魔界の王であるこの某を、誰も相手にせず、どこも雇おうとしないようだ。こんな状態では、人間界ではとても生活できない。一体どうすればよいのか。


 フラルと電車という乗り物に乗って移動しているとき、娘がとある儲け話を持ちかけてきた。


「お父様、私達が生きていく糧を見つけたわよ」

「なんだとフラル、本当か?」

「ええ。Vtuber、という仕事」

「Vtuber? なんだそれは? 新手の魔術か?」

「いいえ、この人間界のネットで最近流行っている職業の一つ。年齢、性別、人種、職歴問わず、誰でも出来る仕事みたいよ」

「年齢、性別、人種、職歴問わず? そんな夢のような仕事があるのか?」

「夢があるかどうかは解らないけど、今の何もない私達がこの日本で生きていくには、そのVtuberになるしか道はないと思うわ。さっそく伝を見つけてきたの」


 娘は賢い。当然だ。人間年齢にして16歳で、圧倒的な強さで我が魔王軍の最高指令官を勤めていたのだからな。戦闘能力なら某を遥かに凌ぐ。姑息な勇者はフラルが不在のときを狙って魔王城に潜入し、そしてこの某の、この某の、もっとも嫌いなおたまじゃくしを見せてきて、容赦なく叩きのめし、精神的にも嬲ってきた。おのれ勇者め、腹の立つ童だ。あいつだけは、いつか、必ず、殺さない。だって、とても某には勝てる気がしないから。いや、娘ならわからないが、それでは父親の面子が立たない。とりあえず、今は娘の言うとおり、Vtuberというものを始めてみることにしよう。ついでに勇者の居ぬ間にこの人間界を、某の意のままに掌握してやろうではないか、ふふふ。



※はじめに


人間は不思議なもので、真面目なことばかり考えていると精神崩壊しますし、面白いことばかり考えていると、やっぱり精神崩壊します。ギャグ漫画家が精神を崩壊させる、という話はよくありますが、小説書く人にも同じことがいえるでしょう。


最近の私は現在連載中の『悪役令嬢だけがレベルアップ出来るRPG』で、ちょっと真面目なことばかり考えすぎていたので、とことん下らない小説をガス抜きで書いてみたい気分になったこともあり、この話を書きました。


書き始めた以上は、当然完結はさせます。結末も、最終回の構想も明確に決まっています。

この小説の目標は、来年のカクヨムコン提出です。そんなに長い物語ではなく、本格的な更新は来年からになりますので、第一話を読み、少しでも何かを感じてくださった方は、しっかり書いていますので、気長に続きの更新をお待ちください。


第二話以降の更新時期が明確になり次第、近況ノートでキチンと報告しますので、よければ私をフォローしていただけると嬉しいです。


次回は魔王ハーラル様と、その優秀な娘フラルのプロデューサーとなる、最高クラスに頭おかしい女性トップVtuberが登場します。


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