第147話 凄いのもらったんだが
「ケントケント~、どう? 似合ってる?」
おっさんの剣が飾られていた部屋の奥には、武器の部屋、防具の部屋、衣服の部屋と分かれていて、今は衣服の部屋で服や靴なんかを合わせてもらっている。
「おう。今まで着てたんと同じ黒ズボンに白シャツ黒ベストだけどよ、アンラの体に合わせて詰めたから見違えるぞ」
気に入って、買うとなればドワーフのおっさんが、針と糸をゴツイ指先で器用に寸法を合わせて手直ししてくれるそうだ。
「当たり前だ。服とは着れれば良いという物じゃない、体に合ったものはそれだけで動きを阻害しないからな」
今も喋りながらだがその手は止まらず、今度は俺の服を寸法調整してくれている。
「命のやり取りをギリギリのところでやるならほんの少し腕が上がりにくい、しゃがみにくいなんてのが勝負の分かれ目になることなんて良くあるからな」
「なるほどな、それにこれ、滅茶苦茶丈夫なんだろ?」
「うむ、アトラナートの作り出す糸で編んだ物だからな」
「アトラナート? って確かアトラク・ナクアだよね? よく糸なんて手に入れられたわね、あれって蜘蛛の神よ」
いやアンラ、神様に『あれ』はないだろ……また怒られんぞ。
「うむ、中々手に入るものではないのだがな、近くこの街に銀髪で赤目の小柄な少女が来るからその者に良いものを造ってやれと妻に言われてな」
「ん? おっさんの奥さんはアンラの事知ってて服を造れって言われた? アンラ、お前そのアトラナートって神様になんかしたんか?」
「え? な、なんかしたっけ……」
『アトラク・ナクア様ならアンラよ、大渓谷で倒しすぎた地龍を食べ飽きたとかで、たまたまいたから押し付けるように分けていたぞ』
はは、海で魚取りすぎる前にもそんなことしてたんかよ……。
それに食べ飽きたとか……まったく。
「いや、神ではないぞ? だがワシにはもったいないほど美しい妻でな、八百年ほど前に大渓谷に魔鉱石を取りに行った時、食料が無くなってな、その時助けてくれたのが妻で、それがきっかけで一目惚れして妻になってくれるまで七百年かかったぞ」
あっ、でも、好きになって、そんなに時間かけてでも奥さんにしたかったんだな。
ドワーフのおっさんが神様の奥さんをもらったんか……俺は誰かをそこまで好きになって、奥さんになって欲しくなる人ができるんか……。
ふとアンラの事を見る。
何だかんだでアンラとは上手くやれてるよな。後は村だとアシア、エリス、プリムも仲は良いよな。あっ、テルルとセレンもあんま長くは一緒にいなかったが仲は悪くないはずだ。
「よし、お前の分も手直しした。着てみろ」
「おっ、早いな、どれどれ」
シャツを脱ぎ、ズボンを下ろしたところで気が付いたんだが、六つの目で見られてる。
アンラ、ドワーフのおっさん、それから色黒でアンラと同じ真っ赤な目をした美人な女の人だ。
「誰だ?」
「ん~、あっ、やっぱりアトラク・ナクアじゃん、久しぶり~」
「お久しぶりね、元気にしてた?」
「うん、ちょ~っと神様に怒られて封印されてたけど、ケントに解いてもらったんだ」
「ぬっ、先程からそうじゃないかと思っていたが、二人は知り合いなのか?」
「知り合いと言うほどの付き合いはありません。あなたが食べた地龍の肉を私にくれた者ですね。後、少女に見えて、この者は悪魔です。悪魔としては毛色が多少違いますので恐れることは無いでしょう」
で、みんなで話してっけど、なんで俺を見てんだ……あっ、着替えてる途中だったな。
そのまま三人が話を続けているが、俺の着替えてるのをずっと見てっけど、なんなんだ?
シャツを着てズボン履き、思ったことは、ベルトは付けるが無くてもズレ下がりそうもねえし、こりゃ腕も足も、なんも着てねえくらい動かしやすい。
「おっさん、これすげえよ、流石鍛冶の大陸一と言われるだけあるぜ」
「だよね~、私のも凄く良いもの、ありがとうね、アトラク・ナクアも糸ありがとう、あなたの糸ならそのへんの鉄鎧なんて相手にならないくらいの防御力ね」
「うむ、妻にもらったもので作ったものは、お前達か着た二着と、この国の王に一着作っただけだからな、そう手に入る物ではないぞ」
「そんなもん俺達がもらって良いんか?」
俺がそう聞いた後おっさんと奥さんはいつの間にか寄り添い笑顔になってる。
「ワシ達が一緒になるきっかけをそこの嬢ちゃんにもらったという事だからの」
「そうですね、地龍をもらった時は、少し迷惑でしたが、よく食べるこの人に出会いましたし、それに……あなた達もお似合いですよ」
「にゃっ! にゃにゆってりゅにょ!」
「あら? 違いましたか?」
真っ赤になったアンラがバタバタと手を振るのを見ていると、なんか俺も……なんでこんなドキドキしてんだ?
それに熱でも出てきたのか暑くなってきやがったし……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
服を受け取った後、靴やベルト、さらにアトラク・ナクアの糸を使った服を何着ももらうやくそくをして、後日もらいにくるんだが、いくら言っても金は受け取ってもらえなかった。
そして宿に戻って冒険者ギルドに行くことも忘れて部屋に入った。
寝台にゴロンと寝転がり、その横で収納から本とお酒を出したアンラを見ながら、まだドキドキしている俺。
「なあアンラ、さっきな、俺とお前がお似合いって言われてからよ、ずっとドキドキしてんだ」
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