第146話 ドワーフのおっさん

 いかついドワーフの笑う声だけが聞こえるギルド。


「なぁ、ドワーフのおっさんは怖がられてんのか? 確かに顔はいかついがそれだけだろ? なんか悪さでもしてんなら俺がこらしめてやるぞ」


「ケント、こらしめるんならさ、この人のお店見てからで良いんじゃない? 良いのあるって言ってるし」


 一応身構えながら笑い声の止まったドワーフのおっさんをじっと見る。

 アンラにも言われてプルプルと震えるおっさんは、くわっと目を見開き怒鳴り付けてきた。


「悪さなんぞするか! この街一番の腕を持つワシを悪者扱いしよって!」


「じゃあなんで恐れられているんだ?」


「よく暴れてるんじゃない~」


 プルプル震えていたが、今度は首を振り、はぁとため息。


「まあ良い、恐れられているのとは違う。ワシがこの街の領主の師匠だからじゃな」


 話を聞くと、このドワーフのおっさんは、本当に街一番の腕どころか大陸一、鍛冶の弟子も数知れず、鍛冶をしている者で、知らない者はいないほどで、ここの領主もやはりドワーフで鍛冶をしていて、やはりこのおっさん弟子らしい。


 まあ領主の師匠なら恐ろしいってより、畏れ多い方だから遠巻きに見てるんだな。


「そんなスゲエおっさんに俺達の選んでもらえんのか?」


「うむ。最高の物を選んでやろう。『ハンマー亭』の裏にある工房だ、すぐそこだからついて来い」


 そう言ってドワーフのおっさんは、ズシンズシンと音が鳴ってるんじゃねえかと思えるほどのゴツい体を、ギルドの出口に向かって進めた。


「はぁ~、しかしいかつい顔でデカいドワーフだな。行くかアンラ」


「そんなスゴいドワーフなら良いの見つかるかもね。あっ、置いてかれちゃう、行こうケント」


 手を引くアンラについて、ギルドの出口に向かうんだが、冒険者達は信じられないって顔で俺達が進むのにあわせて顔を動かし、出口を出て、おっさんに追い付くため少し早足になった時――。


『『嘘だろおいぃぃ!えぇぇぇぇぇぇ!』』


 なんか、一気に騒がしくなりやがった。


 料理宿『ハンマー亭』の横にある、ドワーフのおっさんがギリギリ普通に歩けるくらい狭い路地に入り、十数メートル進んで路地を抜けると、途中からも聞こえていたが、鉄を打つ音が微かに聞こえてきた。


「へえ、もっと騒がしい音が聞こえると思ってたんだが、静かなもんだな」


「だね~、防音されてるみたいだけど、なんで消音にしないんだろ?」


 確かにその通りだな。

 宿の真裏で夜まで打つ奴がいたなら、これくらいの音でもやかましいって思うだろうな。


「わざと防音にしておる。まわりから鎚を振るう音が聞こえたなら、負けるかと鍛冶に力が入るからな」


「へえ、言われればそうか、サボっててまわりからこの音が聞こえたら、焦りもしそうだしな」


 とか言ってる間に、ハンマー亭の真裏にくっついて建ってる家の前に。


 見た感じは普通の家にしか見えない。

 音が聞こえてきている家には剣や縦の絵が描かれた看板がかかっていてすぐに分かるが。


 ……うん、普通の家にしか見えねえ。


「ん、鍵はどこじゃ……おっ、あったあった」


 扉の鍵を開け『入ってこい』と店には見えない家に俺達は顔を見合わせて、軽く頷きあった後、入口をくぐった。


「「すげぇへえ~」」


 入ってすぐだ、そこには剣や槍、斧に弓と武器が並べられ、その横には盾に鎧、兜。

 ところ狭しとはこの事だろう。

 それに、鎧の下に着るような、いや、そのままでも多少の攻撃だったら耐えられそうな革で補強された服なんかも置いてある。


「どうだ? 中々の物だろう。だがこれらは弟子が造った物だ、ワシが造ったものは二階だ、ついてこい」


 そう言って、よく崩れねえなと思える階段を、ギシギシと軋ませながら上って行く。


「はは、階段が悲鳴をあげてるぞ」


「私達なら十人乗っても大丈夫そうなのにね~。でも、弟子でこれなら師匠の物はもっと凄そうね」


 階段の手すりをツンツンとつつくアンラ。

 俺も思わず触って揺すろうとしたが、ビクともしねえ。


 ……うん、頑丈そうだ。


「何をしとる、早く上がってこんか」


 ついてきてると思ったら、まだ一階にいる俺達に気付き、少し待ったようだが待ちかねて呼んだようだ。


「行くか」


 俺達は階段を上り、二階につくと、まっすぐ廊下が十メートルほどあり、扉は左右と一番奥に一つあるだけだ。


 おっさんは向かい合ってある扉の前で待ち、俺達が上がってきたのを見て、奥へ歩きだした。


 それに追い付くよう小走りで廊下を進み、おっさんが扉に手を掛けると同時に追い付き、俺達はその扉をくぐり部屋に入った。


「「すげえ!うそっ!」」


 もう見ただけでその存在感を無視できない剣が真ん中に一本だけある部屋だった。


「くくっ、凄かろう。だがこれは売り物ではない。ワシ用に造った剣だからな。悔しいがお前達は剣はいらんのだろう?」


 おっさんは俺達が背負うクロセルとダーインスレイブを見てそう言う。


 ダーインスレイブの見た目は、まあ業物に見えなくもないが、クロセルは本当に普通の剣にしか見えない。


 それを見ただけで、分かるんは目利きがすげえってことだ。

 その目利きのおっさんは『武器以外はこっちだ』と、奥にあった扉に向かった。


 俺はどんな物があるのかワクワクしながらアンラの手を取り、おっさんの後に続いた。

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