第138話 ケルベロス
ズルリと首がズレ、ゴト、ゴトゴトと三つの首が落ちた後、取り憑かれていた男もバタリと倒れた。
その男を踏みつけるようにして首の無い犬の体だけが立っている。
『ケント! まだのようです! 実体化の途中だったようで、まだ落ちた首にも魔力が繋がっています! 動きますよ!』
言われて見れば落ちた首と体の間にモヤモヤがある。
首を切ったってのに、まだ動くんかよ!
「ケント! ソイツを外に蹴りだして! 大きくなっちゃう!」
「なっ!? ちっ!」
アンラが部屋から顔を出して、珍しく焦った声で叫んできた。
アンラが焦るほどの事が起ころうとしてる。
俺は床を蹴り、犬の立つ背後の壁が少し崩れ、穴が開いたところに向けて犬の野郎におもいっきり蹴りを入れた。
ドゴンと首無しの犬は、小さな穴だった壁を大きく崩し、外に出すことに成功した。
「うっし! どわっ! なんだこりゃ!」
飛ばされた体に付いていくように、廊下に落ちていた三つの首が引っ張られるように、大きくなった穴から外に出ていった。
「ケント、こっちは終わったよ。アレ、デカくなるから早く倒しちゃおう。ユウ達はコイツらが逃げないように、ロープで縛っておいてね~」
そう言いながら収納からロープを出して、無事だったユウ姉ちゃん達に渡すと、俺の手を取り宿屋の壁の穴から、門前の広場に向かって飛び出した。
「どわっ! ――なんだありゃ!」
人通りの無い広場の真ん中あたりで、三つ首が引っ付いた犬が立ち上がるところだった。
それは宿屋で見た大きさとはまったく違い、普通の犬の十倍、いや、まだまだ大きくなる途中のようだ。
「よっこいしょ~っと。やっ~っぱりケロベロスだね~、強いよ~オルトロスよりはだけどね」
「おいおいどこまでデカくなんだよコイツ、って見てて良いんか? さっきはあんなに慌ててたのによ」
そう言うとアンラはポリポリと人差し指で頬をかき、可愛いことを言ってくれた。
「だ、だってさ、あそこで大きくなったら宿の迷惑だし、ケントが巻き込まれちゃうかと思ったんだもん」
「はは、心配してくれたんだな、ありがとうよ、ってクローセ? なんで出てきてんだ? 危ねえぞ、大人しくって、おまっ!」
クローセが リュックから顔を出したかと思ったら、俺の顔に体を擦り付けながら、ぴょんと肩から飛び降りると、トコトコとケルベロスに向かって歩きだし大きくなると、尻尾で俺とあんらをふぁさっと撫でた。
「くふふふっ、クローセが出ちゃったかぁ、ケルベロスはもう動けないわよ~、格が違うもん」
「え? 大丈夫なんか? 大きさ負けてっけど……みたいだな、ケルベロスの尻尾が股の間に入っちまってるしな」
大きくなったクローセは、ケルベロスの前にまで行くと、素早い動きでケルベロスが伏せの格好になり、三個ある顔も石畳に付け、怯えたような目でクローセを見上げている。
「なあアンラ、これ、解決か?」
「だね~、クローセは出てこないかと思ってたけどね。まあ、フルフルでも同じ結果だと思うけど……ぷはっ! 寝てたの邪魔されたから怒ってるみたい! ぷふっ!」
流石に夜だが、あれだけデカい音を立ててたら、宿に泊まっていた客もだが、広場に立ってる建物からゾロゾロと見物人が出てきやがった。
そこには冒険者ギルドの冒険者に職員もいるし、広場の中央にいる俺達を見てるんだが、なんとも居心地が悪いな……ってかギルドの職員……怪我してねえか?
っとよそ見してっと、ドゴン、ドゴン、ドゴンと三回、まわりの事なんか気にした様子もなく、大きくなったクローセは、前足で叩き落とすように三つの頭を目にも止まらない速さで叩いていた。
ちと石畳にヒビが入ってっけど、プルプル震えているケルベロスがいて、悠々と向きを変え、帰ってくるクローセ。
大きくなったまま、顔を俺に擦り付けたかと思ったら、スルスルっと小さくなって、今度はスネに体を擦り付けて、ソラーレとフルフルが乗ってない方の肩に飛び乗り、リュックに帰っていった。
「終わりね、ほらケント、ケルベロスが小さくなるわよ~」
「は? どういうこった?」
アンラの言葉にケルベロスへ視線を向けると、みるみる小さくなり、どうなってんのか分かんねえが頭も一つになり、どこからどう見ても仔犬にしか見えない大きさになったと思ったら縮むのが止まった。
「なんだ? 小さくなっちまったが、ケルベロスなんだよな?」
『ケント、二つ選択があるのですが、このまま討伐するか……仲間にするかです』
「え? 討伐か仲間にするか、か」
広場の中央で、ちとひび割れた石畳の上で、プルプル震えている姿を見ると、討伐する気がなくなっちまったんだよな。
だが、ダンジョンで悪さしたんだろ? 確か罠を……どうすっかな。
「おーい、全員縛りあげたよー」
ケルベロスをどうするか考えてると、ロープで縛り上げた襲撃者達を引きずりながらユウ姉ちゃん達がやってきた。
一人が三人ずつ片手にロープを握り、手を振りながらだ。
……いや、ユウ姉ちゃん達、強すぎじゃねえか? 俺でも覚醒してねえとそんな真似できねえぞ。
引きずられている男達は、装備はもちろん、パンツ以外全部剥ぎ取られてっから、引きずられて身体中に擦り傷ができてる。
「なあユウ姉ちゃん達、連れて来てくれたんは良いけどよ、なんてえか痛そうだぞソイツら」
「あははー、最初は私達もそう思ったんだけどさ、よく考えたらこの人達私達を襲ってきたんでしょ? だったら少しぐらい痛い目にあっても良いかなって」
「はぁ、まあ、みんな無事で良かったってことで良いか」
と、俺と喋ってんのに目線が俺に向いてないのに気がついた。
その目線の先には――。
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