第137話 別れの前夜?

 ユウ姉ちゃん達が部屋を出ていくのを見送り、バタンと戸が閉まり俺とアンラだけになった。


「なんだ? 赤色の宝石は要らねえのか。まあ要らねえならアンラ、もらっておけば良いぞ、俺も宝石は全部お前にやるよ」


 寝台の、俺が座ってたところにあった皮袋をアンラの前に移動する。


「あっ、やっぱりちょっとだけ残してくれ、アイツらの土産に何個かあれば良いからよ」


 そう言い適当に手を突っ込み一握りずつ取り出し、小さい皮袋をクロセルに出してもらって色んな宝石をまとめて放り込んでおいた。


『はぁ、アンラ、ケント様はまだまだ成長が足りないようだ、今は我慢しておけ』


「はぁ、そっか、でも嬉しいのは本当だし、私はどうにもやられちゃったみたいだから待つことにするよダーインスレイブ」


『うむ、気長にな』


 皮袋の口を縛り、クロセルに収納を頼んでっ時に、ダーインスレイブとアンラがなんか話してたようだが、聞き逃しちまった。


「あっ、そういや買い物できなかったな、まだ開いてるか?」


「暗くなってるし、閉まっちゃってると思うよ~。ねえケント~、ユウ達ももう大丈夫そうだし明日の朝に買い物して次の街に進んじゃおうよ」


「おう、そのつもりだ、ユウ姉ちゃん達だけでも十分ダンジョンにもぐれるだろ――」


『ちょっと! あなた達何するの! 入ってくるなぁー!』


 突然、隣の部屋からユウ姉ちゃん達の騒ぎ声が聞こえてきた。


 ドタンバタンと騒がしく、俺はアンラと顔を見合わせ頷き合うと、寝台の上に広げてあったお宝を収納して部屋を飛び出した。


 出てすぐ右の部屋がユウ姉ちゃん達の部屋だ。

 そこにはナイフを出したおっさん達が部屋の前に五人、中でもドタンバタンとしてる。


「テメエら何してやがる!」


『ケント覚醒してください! この者達はレイスに取り憑かれています!』


 鞘付きクロセルで一番手前にいたおっさんに斬りかかる。


 ギン! と上段からの斬り下ろしを逆手に持ったナイフで受けたが――ボキンと音が聞こえそうなほど受けた腕が曲がるはずのない方向に曲がった。


「しっ! はっ!」


『声も上げないなんてさー、えい!』


 俺が部屋の前にいた五人を相手にしている内に、アンラは姿を消したのか、ユウ姉ちゃん達の部屋を覗き込み、ダーインスレイブを抜かずに鞘付きで手に持ち部屋へ飛び込んだ。


『アンラ怪我すんなよ!』


『ほーい、まかせてっ! ほいっと! てりゃっ! 魔道具は無いけど、取り憑かれて眠りヒュプノスは効かないかもだから、ちょっと痛いよ~、たぁっ!』


 中はアンラに任せて良さそうだが……コイツ、あの牢屋にいた奴か? なんで外にいるんだ?


「ギャハ♪ ツヨイ、ギャ♪ ショウカン、シャ、ツカマエル、ギャギャ♪ ムリ――」


「ギャギャギャギャとやかましいんだよ! だりゃっ!」


 っと、んなこと考えてる場合じゃねえ。

 四人の腕や足の骨を折り、最後に牢屋にいたヤバそうな奴に向かって鞘付きのクロセルで攻めるが、バチンバチンと手のひらで剣の軌道を読んで、外側へ叩いて反らしやがる。


『罠師として一人でダンジョンへ行ってただけはありますね。体どころか精神まで完全に乗っ取っていますから、人の身の限界まで動かせるのでしょう。ケント、油断は禁物ですよ』


「ちいっ! 分かってんよ! だりゃっ!」


 何度も斬りつけていて分かったことがある。


 振ると弾く。突くと間合いを取る――どちらもギリギリ届かないところまでだ。


 なら、ちと驚かせてやる――。


「だぁぁぁりゃりゃりゃりゃぁっ!」


 上下左右から連続で斬り付けていく。


「ギャギャ、カベニ、オイツメ、ギャ、ムダムダ」


「そうかよっ! だぁぁぁりゃぁっ!」


 バチンバチン、弾かれ反らされ、人とは思えない動きで跳びしゃがみ、当てられら気がしねえが、追い詰める。


 そして壁ギリギリまで追い詰めた――。


「ムダムダ、ギャハギャハ」


 ――が、また体を入れかえられ、奴の背後に壁がなくなった。


「ギャギャギャハ」


「なに笑ってんだよっ!」


 また同じように壁際に追い詰めながら、念話でクロセルに頼んだ。


『ふふ、なるほど。戦いながら考えた作戦としては中々のものです。分かりました! 上手く合わせます!』


 俺はクロセルに、魔力をどんどん込めながら切付け追い詰めていき、後数回でまた体を入れかえるだろう立ち位置で、渾身の力を込めて胴体の真ん中に向けてクロセルを突きを出す。


「ギャハ、ムダムダギャァァァ!」


 奴は突きを出した瞬間、突きと同じ速度でまっすぐ後ろに飛んだ。


 いつもなら、着地したところで数センチ届かず止まるはずだった剣先が、奴の腹に食い込み、後ろの壁に押し付けてやった。


 魔力で剣を伸ばす技を使い、鞘をぶち当ててやる作戦は、クロセルのお陰でこの戦いの間、鞘が抜けないようにしてもらっていたんだが、突いて、切っ先が止まる瞬間に、鞘を外してもらい、鞘を押し出すように剣が延び、奴の腹にくいこんだって訳だ。


 いくら俺の剣を見切っていても、剣を伸ばした分、奴も間合いを読めなかったってことだ。


 ふうと、息を吐いた時、壁に押し付けられた奴の頭が四つに見えた――いや、三つ首の犬だと!?


『ケルベロスです! 今ですケント! 魔力の刃で切り裂きなさい!』


「おっしゃ! 大人しく浄化されやがれ! だりゃぁぁ!」


 剣を引く勢いで鞘を抜ききって、体をぐるりと回転させ、もう奴から前足が出たしたところ、三つの首めがけ、横薙にしてやった。

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