第133話 帰還
「みんなお疲れ、怪我はないか?」
「大丈夫だよ~、ケントも大丈夫だよね?」
「ああ問題ない。クロセル、サイクロプスを頼む、俺達は楽しみにしてた宝箱も出たし、中身を見ようぜ」
三十階層でミノタウロスを倒した時にも出た宝箱が、この四十階層にもボスを倒した時に出たんだ。
それも大きさが倍近くある。
三十階層の宝箱からはユウ姉ちゃん達が使ってるハルバードが七本出たからな。
それよりデカいから、ちと期待も膨らむってもんだ。
クロセルによって消えたサイクロプス。
宝箱に向かう床が血塗れだ……。
するとソラーレが俺から降りて、床を滑るようにして移動しながら床の血を綺麗にしていく。
「おっ、ソラーレ、助かるぜ」
「うんうん。ソラーレはよい子だね♪ ほらほらソラーレが宝箱までの道を作ってくれたから行っくよー」
『ふむ、たまにはソラーレに手柄を渡しても良いか』
ダーインスレイブがこころよく、ソラーレに自分が吸い取りたいサイクロプスの血の権利を渡したのを見届けて、ユウ姉ちゃん達も俺の後から宝箱に向かって進んだ。
近付くにつれ、そのデカさに驚く。
高さが俺の身長を余裕で超えて手を思いっきり伸ばして背伸びしてもギリギリ届かないくらいの高さがある。
横幅はユウ姉ちゃん達が持つハルバードの長さ、二メートルは余裕で超えてる物がだいたい二本分、奥行きが一本分だ。
「しかしよ、デケえよな。まあ、開けてみっか。継ぎ目がちょうど目の高さだから、みんなで押し上げればいけっだろ」
「は~い、みんな~、横に広がってね~」
アンラの言う通り俺が真ん中で、左右に三人ずつ並び、継ぎ目の上に手を添えて、斜め上に持ち上げる気持ちで押し上げた。
開き始めた隙間から、見えたのは金貨に宝石だ。
ちと装備じゃねえのかと残念に思ったが、横のアンラやユウ姉ちゃん達の目は、キラキラ光るお宝に釘付けになっている。
「よし! 勢いづけて向こうに押し開けちまうぞ! せーのっ!」
「「
バコンと宝箱の蓋が開ききり、目の前には箱スレスレまで詰まった金貨と宝石が見えた。
「よっしゃっ! こりゃいったいいくらになるんだ? 一生遊んで暮らせそうだぞ」
「ぬふふふ♪ これだけあれば、酒屋を買い占められるわよ♪ 本も何冊買えるかしらね~♪」
お宝に手を突っ込み、持ち上げるが底が見えないってのはこの事だな。
ユウ姉ちゃん達も目の前のお宝に手を伸ばし、色とりどりの宝石を手に取り、ご満悦のようだ。
結構長い時間宝箱から出しては眺めたり積み上げたりと楽しんだが、クロセルに頼んで全部収納してもらい、四十一階層に入り、適当に魔物を倒して、証拠を集める。
この階層はオーガだ。それも上位種が出てきた。
これまでの階層では出てこなかった魔物だから証拠にはちょうど良いだろう。
数匹倒した後、小部屋を見つけて今夜の寝床にし、明日の朝から戻ることに決めた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
階段の先に光が見えてきた。
帰り道は五日かかったが、行きと帰りで十五日。
外も騒ぎが治まってるだろう。
「眩しいな、やっぱ、外は気持ちいいぜ」
グッと伸びをして、半月ぶりの日の光を浴びる
「ほんとね~。ところでどうするの? ユウ達はもう自分達だけでやれそうだけど」
アンラも同じように伸びた後、いつの間にか手にはお酒が握られていた。
……まあ、良いけどよ、今日は宿を取って寝るだけだしな。
「そうですね、そこそこ強くなったと思いますし、この国を色々旅してみようかな、ケントくんの村にもよってみたいし」
「なんもねえ村だがよ、ちと待ってくれんならダンジョンを作るつもりでいる。それなら楽しめっかもな」
なんて話をしながら乗り合い馬車を捕まえ、宿屋が多い門前広場に向かってもらう。
今回は、前のような催しも無いから三十分で門前に到着した。
冒険者ギルド前の宿屋に入り、上手い具合に部屋も取れ、晩ごはんまでの間に雑貨屋で調味料でも買おうと出掛けたんだが……忘れてた。
「しかたねえな、手紙だけでも渡しに行くか」
「あー、完全に忘れてたね~。手紙渡すだけだし、さっさと渡して買い物行こうー♪」
依頼である手紙をギルドマスターに渡すため、広場を横切りギルドに入る。
少し、夕方の混雑が始まっていたが、受け付けが一つ空いていたため待つこともなく、ギルドマスターを呼ぶように受け付けの姉ちゃんに頼んだ。
「どうした、何か私に用があると――お前達は!」
ギルドマスターは呼びに行った受け付けの姉ちゃんとカウンターまで戻ってきたんだが、なんか面倒なことになりそうだぞ。
「あんたがギルドマスターだよな? これを渡すための依頼を請けた、受け取りの署名はここに頼む」
面倒になる前に先に依頼だけはやっちまおう。
そうすりゃ、後はなんとかなるだろうしな。
「いや、あのな、あのオルトロスってこりゃ――ふむ。手紙は確かに私が預かった。署名か――」
カウンターに出した手紙に視線を落としたギルドマスターは、手紙を封じている封蝋の紋章を見たのか、一緒に取り出した紙に名前を書いてくれた。
署名を確認してからクロセルに収納してもらい、その流れで立ち去ろうとしたんだが、甘かったようだ。
入口に向かって振り向き歩き出したところを、急いでカウンターから出てきたギルドマスターに肩を掴まれちまった……。
そのまま向きを変えられ『奥に行こう』と……。
駄目か、こりゃ逃げられねえな。
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