第126話 修行?

 目に映る事……信じられない。


 ダンジョンの十階層にいるんだが、ユウ姉ちゃん達は、槍など振り回すには邪魔で仕方がない、不規則な間隔で生える木々の間を縦横無尽にすり抜け走り回りながら、森の中では素早く厄介な敵を簡単に、数十匹はいるフォレストウルフの群れを討伐していく。


「なあアンラ、コイツらこれ以上修行する必要あるか?」


「凄いわよね。渡り人って言ってもここまで成長が早いとは思わなかったわ」


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「ひぃぃー! こ、こっち来るなぁぁー!」


「落ち着け! ただのゴブリンだろ! 弱点は人と一緒だ! 怖いなら槍で突き放せ!」


 ダンジョンにはパーティーリーダーとして俺がギルドカードを見せるだけですぐに入ることに成功し、階段を下るとそこは草原で始まった。


『これなら槍も振り回しやすいな。だが、あの槍さばきなら心配することもねえよな』

『だよね~、ちょっと浮かれ気味なのが心配だけど、あっ、ちょうど良いのが、ちょっと遠いけどゴブリンいるわよ~』


 なんて事を言ってたんだが……腰が引け、あの空き地の演武が幻だったんかと思える。


「やーだーこーなーいーでー!」


 なんて言いながら槍をゴブリンに向けて突き出してプルプルさせているだけだ。


 ゴブリン達の方も、困惑してんのかと思える。


 飛びかかろうとはしているんだけどよ、槍が邪魔で近づけねえから仕方なく俺達を取り囲むしかできてない。


 こうしていてもしかたねえから、俺はクロセルを抜き、五匹いた内の四匹を倒してやる。


 倒した後はクロセルが収納してくれっから、足元に残ることもねえから邪魔にもならない。


「五対一だ! 取り囲んでやっちまえ!」


「ううー! スパルタだよー! 生き物なんて殺したことないのにー! え、えいー!」


 へっぴり腰から繰り出された槍は、仲間四匹が消えて戸惑っているゴブリンの胸へ正確に吸い込まれ、ゲキャ!? と声をあげ倒れた。


「ユウ姉ちゃんやったな。ほら次は魔石を取り出すぞ。ナイフを出せ、切るところは――」


 それから初日は姉ちゃんが言う『すぱるた』とかをやることにして、泣いて、吐いて、許しを求めてきても、やらせる。

 まあそれがすぱるたらしいから、遠慮無く厳しくやることにして、休憩を挟みながらも一階層をくまなく回り、全員がゴブリンを倒し、ゴブリンの魔石を取るところまでやらせた。


 血塗れになったのは、ソラーレが綺麗にしてくれたが……目が怖いぞコイツら……。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 二日目からは朝一に軽く一階層でゴブリンを倒して二階層へ。


 まだ目が怖いんだかな……。


 二階層も草原で、ゴブリンはこん棒なんかの武器を持ちを相手にさせ、三階層は角ウサギやボアなどの食える魔物が出だした。


「人形じゃなきゃ、こんなに気も楽なのね。みんな、頑張るよ!」


 目が元に戻った三階層からは、討伐、解体を繰り返し、五階層の岩場があるところで洞窟を見つけ、ダンジョンでの夜営もしてもらった。


 そして数日五階層を拠点に、六階層~九階層を繰り返し行き来していた。


 それから驚いたのは、五人ともに収納のスキルがあったことだ。

 見付けたら倒して収納。後で解体をまとめてやるってのを繰り返し、やっと目を離せるくらい安定して倒せるようになった。


 俺とアンラはそれを見て、先に進むことにした。

 それで十階層のボス、倒せば魔道具を落とすと聞いたオルトロスを何度も倒している。


 一つの胴体に二つ首のウルフ系の奴だ。

 動きは早く、尻尾とたてがみが蛇で、俺の攻撃をうごめき狙いをズラされてと厄介な奴だが、ずらされるんならと、先に蛇どもを刈っていく。


 最後、俺とアンラは直径二メートルを超える二つの首を左右から、息を合わせ同時にクロセルとダーインスレイブで切り落とした。


 ズシン、ズシンと首が落ち、体は足を畳むようにその場で腹這いになる。

 そしていつも通りオルトロスの横に宝箱が出た。


「出た出た~。今度は何が出るかな~」


「楽しみなんだが、こりゃ本当にまずいよな、オルトロス倒して宝箱が出るだろ? んでよ、この部屋から出てすぐに入り直せばまたオルトロスがいるんだぞ? こんなの取り放題じゃねえか」


「でもね~、オルトロスは今のところ一つのパーティーしか倒せてないって言ってたよね?」


 宝箱を開け、魔道具を取り出すアンラ。今度はローブのようだ。


「よいしょっと。それがセシウム王国の騎士団で作ったパーティーでしょ?」


 広げたり、バサバサと振った後、収納してしまう。


「弱いけど魔法防御ね、収納っと。それでさ、ユウ達の修行の合間に私とケントが倒した分だけでもお城の宝物庫にあった数より多いんだし、気にするほどでもないかも?」


「確かに、この部屋の外も魔狼だからここまでは来れるが、オルトロスを倒すのは一筋縄では無理か」


 そして部屋から出るため扉に向かうアンラに続いて歩き出し思ったんだが……。


「なあ、そういや、次の部屋には行ってねえよな。覗くだけ覗こうぜ」


 ダンジョンの外で聞いた十階層のボス、オルトロスを倒せば魔道具が入った宝箱が出るって情報で、セシウム王国の騎士団パーティーも月に一度だけ挑戦して、討伐するそうだが、その先の情報は一つもなかった。


「あっ、それもそだね~。十匹連続で倒して、その後出てきたケルベロスを倒した後に開いたけど、進むの忘れてたよ。まだ時間は余裕だし、行っちゃおう!」


「おう、未探索の階層到達者ってヤツだな」


 オルトロス部屋を出る前に引き返し、部屋の奥にある崩れた壁に向かい、瓦礫を踏み越えて壁の向こうに俺達は進んだ。

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