第125話 ダンジョン修行の前に

「ケントただいま!」


 廃村の中央広場だったと思う所にワイバーンの革を敷き、その上にウルフ系の毛皮を敷き詰めて、姉ちゃん達を休ませ、お茶を飲ませていたら、トスっと焚き火の番をしていた俺の横にアンラが元気良く着地した。


「おっ、お帰りアンラ。ちと心配したが無事のようだな」


 俺は立ち上がり、頭の先から爪先まで怪我とかしてねえか見て、手を広げ、抱っこをして欲しそうなアンラを抱き寄せて頭を撫でてやる。


「思ったより早かったが何かあったんか? まあ、アンラの事だ、抜かりなく酒と本は根こそぎで、魔道具関係は取り上げてきたんだと思うが」


「もっちろんだよ~、お城ごと取り上げてきたからもう戦争仕掛けたりはできないはずだよ~、くふふふ」


「城?」


 ぎゅっと抱き付いてきながらとんでもない事を聞いた気がする。


 どういう事か、アンラにもお茶を入れて聞いてみる事にしたんだが……。


『アンラのやった事はセシウム王国に住む民の負担を作ったことになりますよ。確かに、城の再建のために貴族から資金を集めるでしょうが、貴族はその資金を税として民から絞り上げることになるでしょうから』


「あ~、そこまで考えてなかったよ~。お宝はもらっておいて、城だけ返してきて方がいい? それと、ダンジョンがあるみたいだから、そこもこの国の収入源だし、魔道具がヤバそうなヤツが多そうだから攻略して潰そうと思ってたけど」


「ダンジョンがあんのか? ってかよ、ダンジョンを攻略すれば潰してしまうんか?」


「そんなことないよ、攻略してダンジョンコアを取っちゃうと潰れちゃうけど、そのまま放っておけば潰れないかな。ふぅ~ふぅ~、んくん、ぷはー」


 熱々のお茶を慎重に冷ましながら飲むアンラを見ながら、言ってたヤバそうな魔道具が出るなら閉じておいた方が良いように思える。


 ダンジョンか、攻略にどれくらい時間が必要なのか分からないが、放っておくわけにはいかねえよな。


「アンラ、そのダンジョンはどこにあるんだ?」


「この廃村から山を下って、少しいったところかな。この村人も、ダンジョンが見つかって、そっちに移動したんじゃない?」


『それが有力です。ここに来る途中に見えたのですが、ダンジョンがある崖下に、小さな町ほどの集落がありましたから』


 アンラの説明不足をダーインスレイブが補ってくれている。


「そうそう、ダンジョンに行くならユウ達を連れていって、修行させられるんじゃない? 渡り人なら強くなるの早いと思うし」


『そうですね、攻略せずとも、あの者達を鍛えるのは賛成です』


「依頼も進めねえといけねえとはいえ、姉ちゃん達もずっと連れて歩くわけにもいかねえ」


 いつの間にか俺達の方を、姉ちゃん達全員が見て耳を傾けている。


「ね、ねえケントくん、私達、この世界で生きていくために戦えるようになった方が良いんだよね?」


「そうだな、普通の人間じゃ元の世界に帰んのは無理っぽいからよ、それに姉ちゃん達は女だからな、狙われやすいから鍛えておいた方が無難だぞ」


「それよりさぁ~、そっちの子達は元気になった? しばらくは追手も来ないとは思うから、今の内に修行しちゃおうよ。ふぅ~ふぅ~、ずずず」


 アンラの言葉に四人は真剣な顔でコクリと頷き、やる気はあるようだ。


 仕方ねえか、十日くらいなら遅れても、依頼の期日には問題ねえしと考えていたんだが、フルフルが肩の上で鳴いた。


『フルフル。良いのですか? ケント、フルフルが街と村をまわるのに乗せてくれるそうです。なので、少々その子達の修行が長引いたとしても、問題ないですね』


「はは。フルフルありがとうな。じゃあよ、急ぎたい気もするが、ユウ姉ちゃん達は今日のところはゆっくり休んで、明日からアンラの言ってたダンジョンに向かおう」


「ありがとうケントくん。依頼もあるのに私達のために時間とってもらって。頑張るね」


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 昨日はユウ姉ちゃん達を休ませて、アンラに酒飲んで良いからと言って護衛を任せ、俺はフルフルに乗り、セシウム王国との国境にある街から十ヵ所も手紙を配ることができ、予定の半分近く手紙を配ることができた。


 まあ、ちと街の人には驚かれはしたがな。


 そして朝、まだ薄暗い時間にみんなを起こしてダンジョンに向かう。


 フルフルがダンジョン近くの空き地まで乗せてくれたから早かったんだが、姉ちゃん達が持つ武器なんだが……なんで槍ばっかなんだ?


「別にお城からもらってきた奴だから良いんだけどさ~、どんなダンジョンか分からないけど、全員槍なんて振り回せなくない?」


「おう。俺もそう思うぞ。長い得物は間合いが広いってところは良いけどよ、詰められっとヤバいからな」


 だが姉ちゃん達はニヤリと笑い、フルフルがギリギリ降りることのできた広さ、直径十メートルもない空き地で、前に二人、後ろに三人で並び、槍を構え掛け声ひとつ――!


 サッと少しだけ詰めてた隣、前後の距離が開いたと思ったら、個々に槍を振り回し始めた。


「おまっ! 危ねえ――ぞ?」


「へえ! ユウ達凄いよ! 槍を振り回してるのに全然隣に当たってないよ!」


 五人は色々と不規則に動き回りながらも、槍を突き出し振り払いを繰り出して切るのに、誰かに当てる事もなく、槍同士が当たることもせず、ブオン、ビュン、シュッと風切り音が聞こえてくるだけだ。


 良く見ると、五人が五人とも、目がひっきりなしに動き、お互いの位置や槍の軌道を見極めているようだ。


 数分間の演武を終えて、息も切らしていねえ。


「こりゃ……教えることってそんなにねえかもな」


「うん。何度か実際に魔物を倒してもらって、修行終わりで良さそうだね~」


 と思ってたんだが……。

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