第93話 冒険者アンラ
村に帰った次の日、ちと寂しがるアシア達を残して早朝リチウム街へ向けて出発した。
数日かけて到着したリチウムで一晩泊まり、次の日、前日に連絡をしてくれたようで、時間をかけず馬車を買ったんだが、そこで驚かされた。
どっかで聞いたことあるなと思ってたんだが、テルル……本名がテルル・フォン・シルヴァン第一王女……王女様だった。
……それにセレンにも驚かされた、名前はセレン・ファン・フィアナランツァ……ギルマスでもある公爵様の娘で公爵令嬢だってことに。
「ほんとに悪かった、まさかそんな事になってるとは、王女様に公爵令嬢様だったとはよ」
そういやお城にも普通にいたし、思い起こせばおかしな事だよな。
「私もまさか知らなかったとは思わなかったわ、私やセレンはもちろん、父や叔父様にも同じ喋り方なんですもの」
「そうね、正体は知っていて普通に喋ってくれるからテルルは凄く喜んでいたしね」
セレンは肘でテルルのわき腹をつつきながらニヤリと笑っている
「せ、セレン! にゃ、にゃにいってりゅのよ!」
「うふふ、顔が真っ赤よ。でも別に良いでしょ? 私もアシア達と仲良くなったんだし、ケントが頑張ればなんとかなるわよ」
馬車屋でテルルとセレンの正体を、たまたまいて口を滑らせたリチウムの後に就任した管理官のお陰で知ったんだが、……なんかを俺は頑張らねえといけねえらしい。
俺が頑張れば喜んでくれるんなら頑張るけどよ。
二人を乗せて馬車屋を後にして、ギルマスの宿に送った後、俺は早速リチウムを出ることにしてる。
目的は次の村に行く峠で魔物が増えているらしいからだ。
リチウムに到着した昨日の夕方にギルドへ行った時、掲示板に新しい常設依頼として貼り出されていたから、早い者勝ちだ。
宿につき、ギルマスの奥さんだった受け付けのお姉さんに二人を引き渡し……なんでか、村を出る時にアシア、エリス、プリムが抱きついてほっぺにキスしたのと同じように二人も抱きついてキスしてきた。
「あらあらまあまあ。二人とも、うふふ、ケントさんは大変ね♪」
「こ、こらお前らあいつらの真似しやがって、離れろ、俺は魔物を倒しに行くんだからよっと」
俺は二人の頭を押して離れてもらい、なんか寂しそうな顔をしてっけど、『王都に行く時土産持ってくからよ』と言ってさっさと馬車に乗り込む事にした。
「ったく、んじゃ俺は出発するぜ、王都には気を付けて帰るんだぞ、ほりゃ!」
ちゃんと挨拶できなかったが、最後は笑顔で手を振ってくれた。
俺も振り返して前を向き、宿屋の敷地を出て先を急ぐことにする。
流れに乗り、ガタガタと石畳で車輪を鳴らし、大通りを門へ向けて走る。
まだまだ昼前だ、上手く行けば予定の魔物がよく出てる付近で夜営ができるはずだ。
「よいしょっと、ねえねえ、私の冒険者登録は?」
(ケントってモテモテね、王女様に公爵令嬢までって……なんだか分からないけど、もやもやするわね)
幌の上に乗ってたアンラが御者台に降りて、荷台に入りながら聞いてきた。
「ん? そうだな、朝の混雑も終わってっ頃だし、どうせ出ていく門の近くにギルドがあるんだ、よってくか」
「うん、それじゃ角は隠しておけば良いし、服は……このままでいいかな? そうだ、今度冒険者用の服を買ってよ」
幌の中に入って姿を現す準備をしているようだ。
「ん? そうだな、いつまでもそれ着てるわけにもいかねえし、買っていくか、門前の広場なら服くらい売ってるだろ」
角を隠して荷台から御者台に出てきたアンラは俺の横に座る。
チラッと見たが、耳の上についてた角は全く見えない。
「ひにゃ!」
手を伸ばして触ってみても、銀色のサラサラな髪の毛の感触しかない。
ふむ、本当に気持ちいいな。
顔は前を向き、手綱を操作しているからぶち当たったり、引いたりはしない。
そこでふと気になった事が、今触っているのは手前だ、向こう側も――よし、こっちもないな。
「ケ、ケント……こんな人通りのあるところでなんて……」
(い、いきなり――こ、これってもしかして! で、でもも悪魔と人間て大丈夫なのかな? でもでも封印解いてくれたし、可愛いとも言ってくれたし……)
なんでかもたれ掛かってきたんだアンラは、おっと、まずは冒険者ギルドだ、ちょうど止めるところも空いてっし。
馬車を止め、なんでかアンラは俺がみんなにしていたように、抱き止めながら降ろして欲しいと言うからその通りに。
ギルドに入り……なんでか手を繋いで……。
受け付けの、今日はおっちゃんが空いてたからそこに向かい、アンラの登録を済ませ、パーティー登録もしてしまう。
「えへへ、私もこれで冒険者か~、まさか私がなるとは思ってなかったけど、これはこれでなんだか良いわね♪ ほら次は服よ服♪」
俺の手を引きご機嫌なアンラの横へ並び、隣り合ってギルドを出た。
次は服だがギルドの横に冒険者用の店があり、冒険者達で賑わっているところに入ったんだが、二階にも続いているようで、一階は武器や防具、テントなどの大物が置いてあり、二階が服や小物があるようだ。
「二階みたいだな、行くぞって、アンラその剣買うんか?」
アンラは店に入ってすぐの樽に刺されている剣の一本を手に取り樽から抜いている。
握っていた手を離して鞘から少しだけ抜くと、じぃ~っと見ている。
「くくくっ、こんなところにあるなんてね……ねえケント、これ買っても良い? 銀貨二枚なんだけど」
「ん~、見たところ切れ味は悪そうだが丈夫そうだな」
お世辞にも良いものとは思えない、黒い鞘も傷だらけで、少し抜いて見える刃も丸まっていて、切れそうもない。
どちらかというと、剣の形をした鉄の棒なんだが、まあ普段アンラは爪で戦っていたしな。
「良いぞ、んじゃ、俺がそれ持つからよ、上で服とか見ようぜ」
「うん、ありがとうケント、この分服は安くても良いからね♪」
俺達は二階に上がり、丈夫そうなズボンや上着を数着ずつ買う事にして、支払いを済ませて店を出た。
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