第80話 気持ち悪い奴との再会

「おい! 止まりやがれ!」


 そこにいたのは、洗礼の時にも絡んできた、一の村のガズリーにジャレコとダムドだった。


 俺は面倒くさいってのもあるし、後ろからも馬車が来てっから、ガズリー達に軽く手をあげて、馬車を止めずに進めてたんだが、奴ら、走って追いかけてきやがる。


「知り合いじゃないの?」


 御者台の俺のとなりに乗っていたセレンが聞いてきた。


 反対側のエリスは『一の村の子達だよね?』と馬車の後ろを覗き込んで、走ってついてくるガズリー達を見て呟いている。


「近くの村に住んでた奴らだから一応顔見知りではあるな。だが真後ろについて来る馬車がいるからよ、すぐには止めらんねえし、もうすぐ予定の店だろ?」


 先を指差すと、見えている店が目的の場所だ、ちょうど一台の馬車が走り出し、俺達が停める場所も空いたようだ。


「あそこなら馬車を止める場所があるからよ、そこで止めるぜ」


 俺は速度を調整しながら大通りの端に寄せていく。


 馬車が一台分空いてるところへ慎重に操作して、綺麗に停めることができた。


「うっし、あんまり乗った事ねえからな、ちと自信は無かったが上手く止められたぜ。ほらみんな、雑貨屋に到着だぞ」


 俺は荷台に乗ってるアシア達にも声をかけ、手綱を御者台に引っかけ立ち上がると、エリスの前を通って御者台から飛び下り、馬を止めておくため、杭から伸びるロープを馬達に繋いでおく。


 これで勝手に動くことはないはずだから、俺は御者台に戻ってエリス、そしてセレンが降りるのを手伝う。


 手を握り、飛び降りてもらったところを抱き止め地面に下ろしてやる。


 二人が終われば馬車の後ろに回り、幌を開け、前の二人と同じようにアシア、プリムを下ろして、最後のテルルを抱き止め地面に下ろそうとしたんだが――。


「おりゃ! てめえ! なぜすぐに止まらないんだ! はぁ、はぁ」


 抱き止めた瞬間に、走ってきた勢いそのまま俺に蹴りを入れたのか、中々の威力で馬車に向かって飛ばされた。


ぐはっ!きゃ!


 やべえ! テルルが馬車にぶち当たる!


 とっさに足を伸ばし、ダンと間に合い馬車で支えるようにできたが、ガズリー野郎! 俺だけじゃなく、テルルまで怪我をすっとこだぞ!


「大丈夫かテルル、どこも当たってねえと思うけどよ、痛いところあるか?」


 怒りを静め、ふうとゆっくり息を吐いて落ち着かせる。


 今はガズリーの事よりテルルの方だよな、そっと地面に下ろそうとしてるんだが、腰が抜けたんか、足に力が入ってないようだ。


「そ、それは大丈夫だけど、驚きすぎて足がガクガクしてちゃんと立てないみたい」


「しゃあねえな、おんぶで良いか? いや抱っこの方がテルルも楽だよな、掴まらなくても良いしよ、ほいっと」


 テルルのひざの裏に手を回して一気に抱き上げる。


驚いたのか『きゃ』と小さく声をあげたが、大人しくしてくれている。


「お、おい! ケント! なんで外れスキルのお前が馬車なんか乗って可愛い女の子を侍らしてんだよ! アシアにエリスだけでも許せねえってのに!」


「は? 何言ってんだお前? それよりまず、馬車はすぐに止められる分けねえんだよ! だから停められる場所で止めただろうが! それから侍らすだと? 俺は冒険者として護衛依頼を請けてんだ! 馬車も借りもんだ! 文句あっか!」


 胸ぐらでも掴もうとしてたんだろう手を伸ばしてきたが、テルルを抱っこしてっからそれもできねえようだ。


 それでも手は引っ込めることもせず、ワキワキと何かを掴むような動きをしながら、唾を飛ばし声を荒げて詰め寄るだけのガズリーと、やっと追い付いてきたジャレコとダムドはひざに手をついて、ぜえぜえと肩を上下させている。


「は? 護衛依頼? 外れスキルのEランクが護衛? は、はは、はははははは! 見たところ抱えている女も冒険者だな……」


 ジロジロとテルルの頭の先から足の先まで見た後、勝ち誇ったように腰に装備している片手剣の柄頭に左手を乗せ『ふんっ』と鼻で笑いやがった。


 ってかそのワキワキ気持ち悪いぞ、何を狙ってんだ?


「新人同士で格上の依頼を請けたって事か……美しいお嬢さん、ケントのような役立たずスキルしか無い、確実に万年Eランクになる者と一緒にいるだけで損です」


 なんか気持ち悪い笑い方をして、左手を胸に当て、王城で見た騎士達のように頭を下げた……が、顔は上げたまま、目は……。


 ああっ! ガズリーの奴、テルルのおっぱいだけ見てるじゃねえか! そのワキワキは揉むつもりかよ!


 俺の腕の中でテルルも気がついたのか『ひっ』と息をのみ、顔をガズリーからそむけ、自分の胸を抱くようにして隠した。


 それでも見えっかもしんねえし、無理やり触ってくっかもだから、体を正面向きから半身にして、ガズリーからテルルの事がなるべく見えねえように隠しておく。


 それでも回り込むように動きながら、ニヤニヤジロジロワキワキと俺の動きについてきやがる。


「ですが僕のスキルはスキルでも、滅多に出ないレアスキル『聖騎士』であり、教会からも認められ、冒険者ギルドに登録して一ヶ月ほどしか経っていないのにDランクになった、ってかケント! なぜ彼女を隠そうとすんだ!」


「ガズリーあのな、嫌がってんの見て分かんねえのか? お前が蹴ったりするから怪我しそうになったんだぞ? それにその目と動き……気持ち悪いからやめてくんねえか?」


 テルルはガズリーの動きとかが嫌すぎたんか、俺の首に抱きつき、ぷるぷると震えている。


「それとこのままじゃ明日村に帰る準備ができねえ、それともまたヤられてえのか?」


「き、きさま! 聖騎士ガズリー様が気持ち悪いだと! ケント! 決闘だ!」


 ガズリーの奴……馬鹿だろ、決闘なんかするわけねえし、てかよ……街中で剣まで抜きやがった、それがどういう事か分かってんのか?


 ダムドとジャレコはオロオロしながらも、ガズリーに言われ両手剣を抜いてしまった。


 だが俺の心配通り、雑貨屋の前は、少しの間に人だかりができ、剣を抜いて騒ぎを起こしているガズリー達を中心に、大通りに丸く囲いができちまった。


(ねえねえ、面倒だし、眠りヒュプノスかける?)

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