第31話 お買い物

「おっし、これで良いだろ。おっちゃん、これとこれ、それからこれとこれも買うぞ」


「まいど。女の子に買ってやるなんざ色男だねえ。あわせて銀貨五枚だが、銀貨四枚と大銅貨七枚にしてやろう」


 俺はここにいるアンラとプリムの分も買うことにした。魔物の革を加工して、花柄なんかを刻み付けた模様がある腕輪なんだが、アシアとエリスの分を選んでる時、二人も目をキラキラさせて見てるもんだからよ、しかたねえよな。


「おっ、悪いな、んと、銀貨が四枚と······大銅貨が、ひい、ふう、みい······の七枚っと」


 財布から金を出し、カウンターに並べていく。


「ちょうどいただくな。このままで良いか?」


「おう。ありがとうな」


「そうだ、確かこの辺りに······おっ、あったあった、これはオマケだ、兄ちゃんだけ無いのもあれだろ? ちと、模様が崩れてしまった失敗作なんだがよ、お揃いでつけてりゃパーティーメンバーって感じがして良いだろ?」


 金をしまいながらゴソゴソとしてるなと思ってたら、カウンターの下から出してきた物は、みんなの幅一センチより少し太めの腕輪で、模様は魔狼が刻まれている。


「中々格好いいじゃねえか! 良いのか?」


「おう。もらってくれ、そのかわりまた買いに来いよ」


「おう。そん時はまた頼むぜ、ありがとうな」


 五つの腕輪を受け取り、とりあえずプリムに渡して店を出る。


「ほい、これはプリムのだ」


「はわー、こんなの私初めてです。花柄が可愛いです」


 両手で受け取ったプリムは店を出て、歩きながら空に向けて掲げてから左腕に『うんしょ』と言いながら手をこじ入れた。


「そうなんか? んでこれがアンラの分な」


「うんうん、中々良いじゃない。どんどん私に貢いでも良いのよ、まあ、私が嵌めても普段は姿を消してるから回りには見えないんだけどね」


 アンラは片目を閉じて柄を確かめてから左腕に嵌めてもそんな事を言う。


 まあ、角生えてっし、いきなり見たらまわりの人は驚くだろうな。


 俺もニコニコしてる二人を見た後、少し太めの腕輪を左腕にねじ込み、魔狼の柄が格好いいな、とか思いながら、通って来た路地より一気に人通りが増えた大通りに出て冒険者ギルドに向かう。


「そろそろ査定も終わっている頃かな? いったいいくらになるのか私の物じゃないけどドキドキしてきましたよ」


「そうね、ワイバーンは結構な値がつくと思うわよ、亜種と言ってもドラゴンの仲間みたいなもんだし、金貨どころか大金貨まで届くかもね」


「マジかよ! そんなになるんなら、馬車を買って、修行の旅に出るのも良いな」


 そんな夢物語を話ながら冒険者ギルドに到着すると、流石に夕方だ、冒険者であふれかえっている。


 受け付けの列に並んで待っていたんだが、カウンターの奥にいたギルマスのおっさんと目が合い、立ち上がると、手招きしながら応接室を指差した。


 なるほどな、結構な金額になるだろうし、別の部屋で渡してくれるみたいだ。


 順番待ちの列から離れ、先を行くギルマスについて行くと、そこは応接室で、中に入り、ソファーに進められるまま座る。


 おい······アンラはなにを棚あさりしてるんだよ! って酒か! おいおいおいおい飲むんじゃ――ああ……飲みやがった。


(ぷはぁー。中々美味しいじゃない、痛ぁぁー!)


 俺は素早く立ち上がり、お茶の用意で背中を見せてるギルマスに気付かれないようにアンラの頭を小突き、角を持ってソファーにまで引っ張ってきた。


 酒瓶はアンラから取りあげ棚に戻しておいたが、持った感じほぼ空じゃねえかよ、なんとか少しは残ってるみたいだったからバレない……バレるかな。


 クロセル、昨日買った酒を一つ出しておいてくれねえか?


『ちょうど同じ物がありましたので、差し替えておきますね』


 すまねえな。


(ええー! じゃあ私の無くなるじゃん! それより角を離しなさいよ! そこは敏感なんだからね!)


 だったら悪戯するんじゃねえ!


 クロセルが棚の酒瓶を収納して、同じものを棚に戻したのを見てから、アンラをプリムの反対側に座らせ角を離して手を握っておく。


「待たせたな。まあ、まずは飲んでくれ」


 ギルマスはお茶を俺とプリムの前に置き、自分の分もソファー座りながらテーブル自分の分も置いた。


 今まで飲んだ事がない良い匂いのお茶だ、火傷に気を付けながら飲んだが……。


「「美味いな美味しい」」


「だろ? 酒とお茶にはこだわってるからな。よし、ゴブリン、オークで金貨八枚、オークリーダーが三匹だから金貨二枚、ワイバーンだが、一匹はデカい穴が空いていたから少し下がって金貨七枚、もう一匹は傷も少なかったんでな、王都でオークションに出す予定だ」


「オークション! マジかよ! あれだろ、買う奴が値段決めるってやつだよな?」


 ギルマスは報酬書かれた紙をテーブルに置いて、俺達の方に向けながら説明してくれる。


「そうだ。まるまる綺麗なままだ、素材は取れるとして、剥製も良いからな、大金貨三枚にはなるだろう。だから今は大金貨一枚と金貨七枚で、冒険者ギルドとリチウム男爵、この街の管理監からあわせて大金貨がもう一枚だ」


 ギルドマスターは金ピカの金貨と大金貨をテーブルに並べた。


「ほええええ! ピッカピカですよ! 大金持ちですよ!」


「スゲえな、これでさらにオークションだろ? こんな大金になるとは思ってもいなかったぜ」


(ふ~ん。プリムを捨てたおっさんがねえ~、怪しいわ、これって取り返そうとケントは暗殺ギルドから追われるかもね~)


『可能性は高そうですね。来るなら今夜でしょうか……アンラ、警戒をしておいて下さい』


 アンラとクロセルがそんな事を言ってるが……ありそうだな。

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