第16話 冒険者初日
そして狙い通り首へぐるりと巻き付いてるモヤモヤのレイスに
「オマケだ、
モヤモヤが薄れて姉ちゃんから離れ、空に向かって浮き上がり消えていく。
そしてオマケは姉ちゃんに吸い込まれ、見えてた青アザや擦り傷があったんだが綺麗に治ってきた――。
おおー! 弱い
「うっし、考えるよりもういっちょ、強い方いくか! ぬぬぬぬ~ん!
練習してデカくなった
(うんうん。ちょい魔力入れすぎだけど、ちゃんと使えるようになったじゃん! 教え方が上手い! 流石よ私!)
「え? なに?
(へ? ちょっとちょっと! 欠損したのを治すのは
あっ、そういやそうだったな。指無いの治らねえかと思いながら気合い、じゃなくて魔力を込めたからか? まあ治ったなら良いよな。
姉ちゃんを見ると、わたわたしながら生えてきた小指を見て、握ったり開いたりしてるし、近付いてきた俺にも視線を向けたりなんだか忙しそうだ。
「あの! これ、どうなったの? 怪我どころか先月の終わりに角ウサギ討伐失敗して、齧られた指まで治ってるんだよ! 教会でも相当な大金を出さないと欠損は治せないのよ!」
姉ちゃんは俺に右手の小指をたてて、目の前にを突き出してくる。
「ん~、俺さ、最近始めた回復魔法の練習したくてさ。ちょうど姉ちゃんが見えたから思わずやっちゃっただけだ。迷惑だったか?」
「ううん。そんな事ない! ありがとう。これならパーティーに戻れるわ」
姉ちゃんはまた小指の生えた右手を見ながらニギニギとしている。
「あのね。噛み千切られたのは小指だけだったの。でも、他の指も動かなくなってさ、武器が持てなくなって、こうやってスライム捕獲したり、薬草の採取しかできなくなったのよ」
「おお、それなら良かったぜ。まあそんな訳だから金とか気にしなくて良いぞ」
(ちょっとくらいもらっておきなよ~、まあ良いけどね~)
姉ちゃんの後ろに回ったアンラは、姉ちゃんが俺の方に振り向いた時、籠から落ちたクリーンスライムを三匹ほど拾い、籠に戻している。
(よいしょっと、ケント、帰るんでしょ? スライム持って帰って宿も取らなきゃならないし、急ぎましょうよ)
アンラの言う通りだな。
ってか宿だよな、あんま金もねえし、安いところ探さねえと駄目だしよ、急ぐか。
(よいしょ、この人に聞いてみたら良いじゃない、よし、落ちたのこれで終わりね)
「あっ、そうか。姉ちゃん良い宿知ってるか? でもあんまり金がねえからよ、できれば安い一人部屋が良いんだけどな」
「何度も言うけど本当にありがとう、本当に助かったわ」
もう一度今度はしっかり頭を下げて感謝をってスライムがまた落ちたじゃねえか!
「そうね、宿なら私が泊まってる宿は安いわよ。それに私が出るから部屋も空くわ」
(もう! せっかく拾ってあげたのに、また落としてるじゃない! まったく! よいしょ、こらしょ、コラコラ逃げるな!)
「ね、姉ちゃんの部屋がなくなるじゃねえか、そんなの悪いだろ」
今度は拾って投げ、拾ってはポイっと籠に放り入れてく。
……ま、まあ良いけどな。
「うふふ。私は元のパーティーに戻れるからね。この手が動くようになったら戻るって言ってあったから、パーティーの常宿に今日は潜り込むから」
笑顔になって、ふらふらしてた姉ちゃんが、しっかり背筋を伸ばしてしてきた提案に乗る事にして、俺達は一緒に街に戻った。
冒険者ギルドでスライムを買取りしてもらい、ついでにソラーレも従魔登録をしてもらったんだが、ソラーレは珍しいスライムだったようだ。
またウサギの姉ちゃんは驚いていたが、クリーンスライム一万匹に一匹いるかどうかのスライムらしく、カウンターに乗せてたソラーレをツンツンとつつきながら教えてくれた。
「そんなに珍しいスライムなのにクリーンスライムよりいっぱいゴミを食べられるだけなんてね」
姉ちゃんも、クリーンスライムを買取りしてもらい、俺のところに来て、ウサギの姉ちゃんと一緒にソラーレをつついている。
「良いじゃねえかいっぱい食べてくれれば、どんだけ魔物倒しても血抜きとか、いらないところを食べてもらえるんだろ?」
「それはそうね。普通なら地面を掘って埋めてしまわないといけないけど、その手間がなければ······私も探そうかしら。パーティーメンバーに相談しても良いわね」
従魔登録も終わり、ソラーレを肩に乗せ、姉ちゃんとギルドを出て来たんだが、ちょっとまっすぐ歩いただけですぐに到着したようだ。
「はい到着~、ここよ。冒険者ギルドが経営してる、ソロ専門の宿なの」
「近いじゃねえか! ってか目の前かよ!」
冒険者ギルドを出て門前の広場を突っ切った所が言ってた宿で、姉ちゃんのパーティーの宿が隣だ······。
姉ちゃんとはそこで別れ、宿に入り、一人部屋一泊、晩飯と朝飯が付いて銅貨三枚······安いじゃねえか、クソ爺に聞いていた大銅貨を払う宿って高級宿じゃねえのか?
飯を食いながら聞いた話だと、体を拭く時に使う水桶は鉄貨一枚で借りられるらしい······だが俺は
「滅茶苦茶すげえ。ソラーレありがとうな」
リュックを床におろして、綺麗にしてくれたソラーレを撫でて気が付いたが結構疲れてたし、飯食って、はらもふくれてから眠くなってきた。
「飯も食ったし今日はもう寝るぞ。アンラはどうするんだ? 本なんか持ってきてねえし、夜営の時は森に入ってたよな?」
「ん~、そうね、街を散歩でもしてこよっかな。ここは二階だけど、窓の鍵は開けておいてくれる? 勝手に出ていって勝手に戻ってくるし」
そう言いながら窓に進むアンラを見送る。
「おう。構わねえぞ、気を付けて行ってこいよ」
寝台と小さな机、と椅子が一つしかない小さな部屋だ。俺は寝台にボフンっと飛び乗って、ぼわっとホコリが舞い上がったのを見てしまった。
すぐに起き上がり、頭の上のソラーレに話しかける。
「なあソラーレ、この布団とか部屋の汚れは食べれるのか?」
「いけるんじゃない?」
窓を開けながらアンラが答えた、まあソラーレは喋れねえか。
飛び乗った反動にも負けず、頭の上に引っ付いてたソラーレは、布団の上にみにょ~んと伸びて降りると、もにょもにょ布団の上を移動していく。
通ったところはくすんだ白から真っ白に変わっていく······おいおい······滅茶苦茶汚れてたじゃねえか。
「ホコリまみれっていうか、あの娘が住んでて布団も交換したのよね? 綺麗に見えてたのに······」
あきれ顔のアンラだが、俺も滅茶苦茶驚いた。
「ま、まあ安い宿だしこんなもんじゃねえの?」
「あはは······じゃあ私はホコリでくしゃみが出る前に遊びに行ってくるね~」
そう言ってさっそく開けてあった窓枠に飛び乗り、いってらっしゃいと言う前に、ぴょんと通りを挟んだ向こうの屋根に飛び上がった。
その後もぴょんぴょん屋根から屋根へ飛びながらどこかへ行っちまう……まあいっか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ん~、何か面白い事はないかなぁ~。おっ、あの大きな屋敷なら本があるかもね~、んじゃちょ~っとお邪魔ちゃいましょう!
んん~? なんだろあれは······アイツらも忍び込むつもりなの?
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