第8話 神剣

 司教のおっさんの言葉を聞いたアシアとエリスは、心配そうな顔で俺を見てくる。


 いや、考えようによっちゃこれ、冗談抜きに司教のおっさんの言う通りじゃないのか?


 努力すりゃあ良いだけじゃん! どうせ俺は冒険者になるつもりだったんだからな。剣もまだまだこれからだし、努力すりゃ魔法も使えるんだろ? なら問題ねえ!


「おいおい聞いたか? 孤児の野郎は『努力』だってよ、アシア、エリスもそんな奴の事はもう放って、俺達とパーティー組もうぜ。二人ともこの俺様、聖騎士のガズリーの従者にしてやる」


 ガズリーの野郎は、たの二人を後ろにつけて、俺達の前に立ち塞がってきやがった。


「そうだそうだ! ガズリーが聖騎士で俺が魔法騎士、ダムドも重騎士だ。それに魔法使いのエリスと韋駄天は素早さだよな? 斥候とかできるんじゃね? どうだ? 最高のパーティーが組めるだろ?」


 後ろに隠れてた一人が前に出てきてガズリーの言葉に合わせてきた。


 確かにパーティーを組むなら良い組み合わせのスキルだがよ、俺が思うにガズリーはリーダーには向かないと思うぞ、まだコイツがリーダーの方がマシかもしんねえな。


「い、良い、考えだな。も、もう一人、お、女の子、い、入れたら、オラ達と、数があうだ」


 コイツはコイツで一歩下がって隠れてしまってるじゃねえか……。


 ってかよ、なんだよそれ、冒険は遊びじゃねえんだぞ、馬鹿げた事を言うじゃねえか、数合わせで女を入れるとか、危なすぎんだろ。


 やつらの動きを見ながらそんな事を考えてたらアシアはやつらをにらみながら俺の横に来て、指を指して反論しだした。


「お断りね。私は冒険者パーティー組むならケントと組むわ。あなたの従者? そんな物お金をもらっても嫌だわ」


「私もそうですよ。組むならケント君と組みますからあなた達のパーティーには入りません」


 おっと、エリスまで同じようにアシアの横に立って、同じように指差した後良い放った。


 だがよ、俺は一人で冒険者をするつもりだぞ? アシアは店を継ぐから冒険者はできねえし、エリスん家も機織りの仕事があるだろうが。


(ケントまずい事になってるよ~、洗礼してスキルが発現した途端、あいつらにとりついてるレイスの力が膨れ上がったわ)


 アンラの言った通り、三人に引っ付いていたモヤモヤが形を取り出して、二体は目玉にコウモリみたいな羽が付いている。


 ガズリーの野郎についてるやつはちっせえ人の形なんだが、肌の色が紫の気持ち悪いバケモンになりやがった。


「「な、なんだコイツは!ヒィー! ま、魔物!」」


 とりつかれていた三人も気が付いたのか、腰を抜かしたようにその場に尻餅をつき――。


きゃー! ケント!きゃー! ケント君!


 ――ちっ! アシアとエリスも気が付いたようだ。二人は抱き合いすくんでしまったのかその場から動けないでいる。俺は自然に体が動き、バケモンと二人の間に立って背中から剣を抜いて構えた。


「ま、魔物ですと! 護衛の皆さんお願いします!」


「「はっ!はっ!」」


 司教のおっさんと一緒に来ていて、洗礼の時は後ろにいた白いローブを羽織った護衛の四人が、前に素早く出ると一人は剣を抜いて一気にバケモンに向けて走り出した。


「魔物め立ち去れ! はっ!」


 白銀の剣を横薙ぎに振るい三匹のバケモンをやっつけた、と思ったが、動きが早く避けてしまった。


「ギャー!」


 四人の内一人が、目玉の奴に噛みつかれた。


 一メートル近い大きさの目玉の魔物は、体の真ん中からパカッと裂け、ギザギザの歯が何本も剥き出しで護衛の一人に迫っていった。


 目玉の口を開いた姿に身が固まったのか、護衛は動く事ができず、迎え撃つこともできず、肩にガブリと噛みつかれ、そのまま肩の肉を喰い千切った。


 床にのたうちまわる護衛を見て怯んだ残りの三人は腰が引け、どんどん後退していきやがる。


「くそっ! 護衛のおっさんが死んじまうぞ! お前ら仲間を助けろよ!」


 俺は背中の剣を抜き、のたうたまわる護衛に、さらに噛みつこうとしている目玉に向かって渾身の力を込め、おもいっきり上段から剣を振り落とした――!


 ――ザシュ!


 ゲギャァァァァァー!


「なんだこの力は! どんどん溢れてくるぞ! ならこのまま全部やっつけてやるぜ! おりゃ! おーらおらおらおらっ!」


 真っ二つになった一匹目の目玉を蹴飛ばし、床に座り込んでいる三人、ガズリー達の上に浮かんでいる目玉と紫の奴に連続で切りつけてやった。


 ザシュ! ザシュ!


 ゲギャァァァァァー!

 グボォォォォォォー!


うわぁぁぁぁー!ひぃぃぃぃー!


(はぁ、それじゃあ死なないわよ、神剣を解放しなきゃ。今度は二回目なんだからしっかりしなさいよ)


 アンラの言った通り、最初に切り裂いた目玉がくっつき、今度は護衛じゃなく俺の方へ飛んできやがった。


「くそっ! うがっ!」


 横っ飛びに避け、床をゴロゴロと転がり、その勢いのまま立ち上がると、昨日切って、エリスに巻いてもらったハンカチから包帯に巻き直した物を乱暴にほどいて剣を握りしめる。


 痛みがあるから血は少しくらいならにじんでいるはずだ。


「······呪文なんだった! 忘れちまった!」


(あのね『契約は永遠。代償は我が血と命。我に従え』だけど――)


「そうだった! 契約は永遠。代償は我が血と命。我に従え! うおぉぉぉぉー!」


(――まあ良いけどさ、契約は永遠なんだから何度もって、あれ? まだ神剣に名前つけてないじゃない? ケント~神剣に名前つけなさ~い。じゃないと力が使えないよ~)


「何っ! んなの先に言っとけ! な、名前――って急に思いつくかぁー!」


(あはは······完全に忘れてたわ~。呼びやすい名前で良いんじゃない?)


「く、くそっ! おりゃ! ちょっと待ってろ! ってか教会に住み着いてる猫の名前しか出てこねえ! 仕方ねえ! アイツはクローセだから――せい! 神剣の名前はクロセルだ! 神剣クロセル! うおぉぉぉぉー!」


 慌ててつけた名前だが上手く行ったようだぜ! おっしゃー! 神剣からまた昨日みたいに力が流れ込んできたぞ! 今度は身構えていたから体も動く!


「うおぉぉぉりゃぉぁぁー! 今度こそくたばりやがれ!」


 ザシュ! ザシュ! ザシュ!


 一匹に一撃ずつ叩き込み、真っ二つに切り裂いてやった――なにっ!

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