第7話 洗礼

 礼拝所に入った俺達は、机のところにいる司教様の前に並びにいく。


 アンラ、アイツらのはやっつけてくれねえのか? まあやらなくても俺が後でやってやるけどな。


 三人とも一匹ずつだがモヤモヤが付いてる。


(ん~、神剣の力を解放したケントなら余裕じゃない? 二匹は下位のレイスだし、放っておいてもちょっと調子が悪くなる程度ね~、好きにしたら良いよ~。でもあの真ん中の奴はそこそこ? まあ中位になるかならないかってところかな。今すぐって訳じゃないけど長生きはしないでしょうね)


 おい! ヤベえ奴じゃないか! ったくよ、飯屋のおやじ達のはサクサクやっつけていやがったのに、飽きたのか?


(ん? ただの気まぐれだよ~。あの時は目障りだったからね、今はやっつける気分じゃないもん)


 なんだよそれ、と思いながらも俺達は、司教が待っていた、机の近くに集まる。


「司教のおっさん。これで全員だ」


「ありがとうケント君」


 司教はニコリと笑い、礼を言って小さく頷いた。


「構わねえよ、ほら早く始めちまおうぜ。司教のおっさんムキムキなのに、今日はフラフラしてっからよ、早く終わらせてゆっくりしな」


「くふふ。そうですね、旅の疲れが少しありますので、終わった後少し休ませてもらいますね」


 司教はそう言うと、机に手を軽く乗せ、正面を向いて話を始めた。


「では。おはよう皆さん。今年は六人という豊作の年ですね、昨年も多くて驚きましたが、うんうん。みんな元気そうで何よりです」


 司教のおっさんは、集まってる俺達の顔を一人ずつ笑顔を向けながら見ていく。


 右から左へと首を動かして、見終わると正面を向いて、水差しからカップに水を入れて、一口だけ飲んだ後、机にカップを戻して話を始めた。


「これより皆さんの洗礼を始めます。知っていると思いますが、皆さんの魂にはスキルが宿っています」


 俺の魂にはどんなスキルが宿ってやがるんだ……くそ、待ち遠しいぞ。


「そうですね『剣の才能』や『魔法の才能』が有名です、それを開花させるスキルを私は授かりました。もちろんこのスキルを授かった者はもう一つ違うスキルを授かるので、私も若い時には『弓の才能』で――」


 話長いな、ってかスキルを開花させるのもスキルなんだな。


 けどよ、人のスキルを開花させるだけなのに、冒険者を続けられなくなったら教会で雇ってもらえるのか。


 ······まあ、俺はいらないけどな。


「――おっと、長話になる前に始めましょうか。そうですね、一番左のあなたから。こちらに来て下さい」


「よし! 僕が一番目だ! 司教、良いのを頼む!」


「くふふ。スキルとは神が授けてくれるものです。私はそれのお手伝いをするスキルを授かっただけです。ですから私にお願いするより、神様にお願いすることですね」


「ご、ごちゃごちゃとうるさいな! さっさと僕にスキルを! この後大事な用事があるんだからな!」


 そう言いながらアシアとエリスをニヤニヤしながら見て、俺を睨み付けてきやがった。


 おっし、まとめてシバきまわしてやる!


 そんなやり取りも、ニコニコしながら眺めてる司教のおっさんは何事もなかったように笑ってやがるし、懐から出したのは、透明な水晶玉とそれを置く台······どこから出した? 魔道具か? 水晶玉は俺の顔くらいあるぞ。


 俺が用意した小さなテーブルの上に水晶玉を乗せる台を置いて、その上に水晶玉を慎重に乗せた。


「私がこの水晶玉に手を添えますので、君も同じようにしてくださいね」


「ああ。早くしようぜ! この玉に触れば良いんだろ、去年も見て知ってんだよ! こうだろ、おらよ!」


 司教のおっさんが水晶玉を横から両手で挟むように水晶玉に触ってる。


 そこへ、······た、確か三の村の奴いや、一の村かどっちかだったよな? まあどうでも良いか。そいつが乱暴に真上からペチンと手を乗せた瞬間、ピカッと水晶玉が光り、洗礼ができたようだ。


「ふむふむ。これは中々良いスキルですね。魔法騎士の才ですよ」


「ひひひっ! この俺が魔法騎士! 魔法戦士の上位スキルじゃねえか!」


 おお、良いのがでやがったな。魔法騎士の才なら剣も魔法も両方使えるスキルの中でも人気のスキルだ。


「くふふ。頑張って修行してくださいね。では次の君、こちらに来てもらえるかな」


 そして呼ばれた奴は見たことねえが、身体も大きく、スキルは重戦士の才か、見た目通りだな。次の奴はまた俺を睨みながら水晶玉に触った瞬間、今までの二人の光がしょぼく感じるほどビカッ! と光り、出たのは――っ!?


「なんと! 聖騎士の才です! これは素晴らしい! 君! ぜひ教会へ来て下さい! 修行は厳しいですが、将来は安泰です!」


 すげえのがでやがったな。コイツは一の村だったよな、そこの村長の孫だったはずだ。


 良いな、聖騎士は確か光魔法に剣の才能も剣聖になれるほどの才だったかな。


「ふははは! やはり俺は選ばれた男! ふふん、教会か、考えておこう」


 睨んでるだけだった奴が今度はニヤニヤしながら見てきやがった。今の内に浮かれてやがれ!


 俺もってアシアの番か······おお、韋駄天の才か、かけっこ早いもんな、俺と良い勝負するしよ。


 エリスは······魔法の才か、順当じゃねえか、戦うのは弱そうだしな。


 みんながもといた場所に戻ってきた後俺も司教の前に進み出で、少しだけ間をおき気合いを入れてから、水晶に手を乗せた。


「うっし! 最後は俺だな、司教のおっさんじゃなくて、神様頼むぜ! おらよ」


 ……ん? 光らねえぞ? ちょびっと光ったのか?


「なあ。司教のおっさん、水晶玉壊れてしまったのか?」


 司教のおっさんは情けない顔をして、こう言った。


「ケント君。初めて見る、いえ、過去に現れた洗礼の記録にも無かった物ですね。君の才は『努力』です······光もほんの少しでしたので······ま、まあ。努力ですから頑張ればなんにでもなれるって事ですよ」


「は? スキルが『努力』ってなんだよ!」

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