第11話 血雨


 手が全く足りて居なかった。


 朝、ミレイもミレイのお父さんも普通に店に居た。

 俺が銃の手入れをした時や、ギルドに顔を出していた時に二人は誘拐された。


 相手はマフィア。

 俺よりやり方の種類は豊富だ。

 出し抜くには、俺には知略も足りていない。


「それを痛感した訳だ」


 婆さんが俺を嗤う。


「人の失敗がそんなに嬉しいのかよ」


「可笑しいのはあんたの面だよ。

 その程度の事で、情けないツラしてんじゃないよ。

 最初から上手く行くやつなんていない。

 誰だって失敗して、次を探すんだ。

 ――あんたの父親がそうだったみたいにね」


「分かってる。

 諦めてる訳じゃねぇよ」


「そうかい、ならいいんだ。

 それで、誰を使いに来たんだい?」


「全員に決まってるだろ。

 使える物は全部使う事にした」


 ハーベストというギルドには特徴がある。

 それは、この婆さんが決めた2つの掟に由来する。


 その1、ハーベストへ入団する為には、他ギルドへの入団断りを5度以上受ける事。

 その2、クエストに3度失敗した場合、即時脱退する事。


 だから、このギルドには5人の面子しかいない。


 他ギルドに入れない奴なんで、2種類しかいない。

 実力が無いか、嫌われ者かだ。

 その2のルールで実力不足は勝手に脱退する。


 結果的に残るのは『嫌われ者の実力者』。


 今回は、お父さんも助かった。

 けど、次も殺されない保証なんて無い。

 今だって入院中なんだ。

 今も、病院が襲われるかもって、俺は気が気じゃない。


 だから、俺の手の届く範囲を無理矢理広げる。


「まぁ、病院に付きっ切りじゃ無くアタシのとこに来たのは良い判断さね。

 攫われたなら奪還すればいい。

 殺されそうになるなら救えばいい。

 守りに入っちゃ、勝てる勝負も勝てないんだから」


「元教師の説法かい」


「元S級冒険者の経験だよ」


「へぇ……」


「場所を書いたメモだ。

 勧誘は自力でやりな」


 紙切れを受け取り、俺は確認する。

 確かに、居そうな場所だ。


 同じギルドに所属しているが、俺は他のメンバーとは殆どあった事が無い。


 あいつらは受けるクエストが特化してるから、一々ギルドに顔を出さないのだ。

 婆さんがクエストを便箋で運ばせ、素材等は受注元に直で届く。


 結果的に、そいつらの管轄外の依頼や緊急の奴は俺に回って来る場合が多い。

 つーか、今まで散々雑用押し付けてくれやがったんだ。

 一度くらい協力しやがれっつの。


「邪魔したな。

 あぁ、それと次いでだ。

 ギルガのとこの近くにある、艶光キノコを取って来てくんな」


「なんでだ?」


「あれは、お肌にいいんだよ」


 婆さんが何言ってんだよ。

 いや、婆さんだからなのかね。


「……分かったよ」


「それと最後に聞かせておくれ」


「ん?」


「あんたが求めてるのは仲間なのかい?」


 少し考えて俺は答える。

 悩む事でも無い。


「……それも合ってると思うけど、どっちかって言うと。

 ――手足が足りない」


 マフィアと同じだ。

 俺が1対1で最強だとしても、それでも守る物の数だけ隙はできる。

 数で押されれば、俺の強さは瓦解する。

 それを自覚したばかりだ。


「そうかい……

 それでも、あんたが誰かに頼ろうとするだけで、アタシは嬉しいよ」


「なんだよそれ」


 そのまま俺はギルドを後にした。



 ◆



 ハーベストに所属するメンバーは俺を含めて5人。

 そして、所属するパーティーは3パーティーしかない。


 俺とギルガというソロ冒険者が2人。

 後は3人の『ブラッド』というパーティーが一組ある。


「ギルガは遠征中か……。

 って事は、あっちかよ……」


 正直、俺はギルガもブラッドも仲がいい訳じゃない。

 というか、嫌いだ。


 何故ならこいつらは……



「ああんっ! メフィア様~、もっと虐めてぇぇ! 大好きぃいいい!」


「メフィア様ぁあ! もっと打って下さい! もっと叩いて下さい! もっと刺してぇ!」


「ルナ、キア、もっと君たちの血を見せてくれ!」


 婆さんから貰ったメモの場所は、高級宿の一室だった。

 その部屋の前に立つと、中からそんな嬌声が聞こえて来る。


 まだ昼間だぞ。

 何を盛ってやがるか。


 と、昔の俺は思った。

 しかし、もう慣れた物だ。


 俺は、扉をぶん殴る様に何度も叩く。

 そうしないとこいつ等は気が付かないからだ。


「ああん!」


「うるっっっせえええええええええええええええええええ!

 早く出て来い、この色ボケ共がァ!」


 そう叫ぶと、漸く扉が開く。


「なんだ昼間から、五月蠅いなぁ」


 扉の中から裸の女が出て来る。


「おぉ、アマトじゃないか!

 なんだ、僕の性奴隷になる覚悟が決まったかい?」


「決まってねぇよバカ」


「アマトじゃん。

 今お楽しみだったのに」


「アマト、邪魔はよくない。

 お詫びに混ざる」


「混ざらねぇよ!」


 裸の女の後ろから、全身が真っ赤に染まった女が二人現れる。


「ルナ、キア、グロいわ!

 さっさと治せ」


 パーティー名『ブラッド』。

 彼等が他のギルドに受け入れられなかった理由は簡単。

 こいつ等が度を越えた変態共だからだ。


「はいはい。

 エリアヒール」


 金髪の筈の女。

 今は全身真っ赤だが、そいつが術式を唱えるとキアの分も含めて傷が癒える。


 キアも真っ赤な血が消え、銀髪が露わになっていく。

 浄化の魔法も同時に掛けたのか。

 高等術式をポンポンと……


 ルナとキアはA級レベルの治癒術師だ。

 そして、ドM女だ。


「アマト、立ち話も何だし中に入るといい」


「そうさせて貰う。

 だが、その前に服を着ろ」


「え、嫌だが?

 普通に室内は全裸派だ!」


 真顔で言いやがった。

 メフィアは赤い髪を靡かせて俺の言葉を拒否した。


「着たら血ぃ舐めさせてやるから」


「本当か!?」


「舐めるだけだぞ。

 吸ったらぶん殴るからな」


「分かってる分かってる。

 それなら喜んで服くらい着ようじゃ無いか!」


 そうして、漸く俺は部屋に入る事ができた。

 こいつ等がギルドに入れない理由。


 もう分かるかもしれないが、レズでハードコア過ぎる趣味を持っているからだ。

 何せ、ルナとキアは沢山傷付けられたくて治癒魔法を学んだのだ。

 それA級レベルなのだから、その異常性は今更言うまでもない。


 メフィアはルナキアと真逆のドS女。

 血に性的興奮を覚える、ヴァンパイアみたいな女だ。

 血殺術と呼ばれる一子相伝の固有魔法を扱える。

 そして、実力だけならS級レベルの女だ。


 まぁ、イカレ女過ぎてS級には認められていない。

 そして、俺を性奴隷に勧誘してくる。

 なんか、血が凄い美味いらしい。


 性奴隷とかいう人権完全無視の存在に使用としているクセに、何故か俺の同意無しでそれを実行する気はないらしい。


 まぁ、この変態共の恋愛観など俺に理解できる筈もない。


「それで、どんな要件だいアマト」


 俺の向かいにメフィアが座る。

 ドレスに着替えた彼女は、茶を啜りながら話し始めた。


「力を貸してくれ」


 俺は直球でそう言った。

 正直、こういう手合いに取引は無意味な気がする。


「性奴隷になってくれるなら、私の全力を持ってお前の願いを叶えよう」


「それは無理だ。っていうか嫌だ」


「じゃあ、私にメリットが無いな」


「賭けをしないか?」


「賭け?」


「俺とお前が戦って、俺が勝ったらお前が俺に協力する」


「私が勝ったら?」


「性奴隷でもなんでもなってやるよ」


「乗った!」


 コイツは単純バカなのだ。

 ルナとキアという沸点に触れない限り、こいつが本気でキレる事は無い。

 メフィアは基本、道楽の人生を歩いている人種である。

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