2. 桜と共に櫻子先生
桜は満開を過ぎて散りゆく4月中頃。
「はい、今年1年貴方達の現代文の授業を担当します。藤枝櫻子です。よろしくお願いします。」
今日は現代文の授業の初回。担当の藤枝先生が自己紹介をしている。異動で今年入ってきたばかりの先生だ。藤枝先生は20代後半のように見える。実年齢はわからない(聞くのも失礼だし)。
艶のある黒髪は肩下までのハーフアップにされて、すっきりとしている。白い肌にローズピンクの口紅が映え、ジャケットとブラウスにフレアスカートと黒のストッキングが似合い、端的に言えばすっごく可愛いし綺麗な女性である。
今年の現代文の授業は幸せな気持ちになれそう!
こんな大人のお姉さんにはどうしたらなれるのだろうか、こんな可愛いお姉さんにはきっと素敵な恋人がいるのだろう、とかなんとか考えていたら。
「清永さん、私の顔に何かついてるのかしら?」
「いいえっ!なんでもありません!」
気がついたら藤枝先生に見とれてしまっていたらしい。クラスメイトには笑われるし先生には不審がられてしまった。だって!! 先生!! 可愛いんだもん!!
「はいそろそろ落ち着いて。今年は、私は図書室の管理担当にもなりましたので、図書室も是非利用してくださいね。授業の無い時間は職員室か図書室か、どちらかにおりますので。」
図書室、1年生の頃はあまり行かなかったけれど入り浸ろうかしら。本は割と好きだし。……あれ、私、何を考えているのだろうか?
「全く。琴葉らしくもないな。あれだけ他人に興味なさそうな琴葉が珍しく人を見てぼーっとするとは。」
授業後の休み時間に話しかけてきたのはクラスメイトで吹奏楽部の同期 (トランペット担当)、さらに幼稚園からの腐れ縁である和泉
裏表がなくさっぱりとした性格で、私が何でも話せる希少な吹奏楽部部員でもある。男っぽい口調で喋るけど女子である。本人曰く、女子っぽい話し方は違和感があって気持ち悪いらしい。
「べ、別に。綺麗な人を見て多少ぼーっとするのは誰にでもあるでしょう。」
「そりゃまあ確かに若くて綺麗だけどさ。他にも綺麗な人はいるぜ?英語の七海先生とか。」
「……そういえば七海先生も美人だけど去年特に何も思わなかったな……。」
「ま、藤枝先生に見とれすぎて授業が右から左に抜けないようにしろよ?琴葉はただでさえ成績落ちてるんだから。あの頃の頭いい琴葉様はどこに行ったんだが。」
「う。うるさい。……まあ、これ以上成績落ちたら補習沙汰で部活いけなくなるからそこは反論できないけどさあ……。」
「コンクール前に補習でいないとか勘弁してよ。あと今年の一年生はどんな子が来るんだろうね。ただでさえうちの高校は人数少ないから一年生をしっかり鍛えて戦力にしないと。」
「千利は本当にしっかりしてるね……。」
「琴葉が劣化しすぎ。」
「ひどいよ。まあ私は結構背伸びしてここ入ったし。入った後にダレたのは事実だね……。そのままダレなかった千利に抜かれてるや。」
ここで休み時間の終了、授業の開始を告げる鐘が鳴る。次の授業はさっきの話に出た七海先生の英語コミュニケーションだ。
「えー。何人かは去年から引き続き、初めましての子たちはNice to meet you. 七海絵理です。よろしくね。」
……言われてみれば結構美人。でも……やっぱり藤枝先生ほどビビッと来ないな…。
翌日。
「藤枝先生、文芸部の顧問になるってさ。まあ国語の先生だし前の顧問は異動しちゃったし。」
文芸部の友達にそう聞かされた私は
「いいなあ……。」
「? 琴葉? 文芸部来る? でも吹奏楽部って掛け持ち無理じゃない?」
「……私、掛け持ちしたいなんて言ったかしら……?」
「いや、藤枝先生が顧問なの“いいなあ”って。」
「……まじで。いや私には吹奏楽部……ユーフォは学年一人……。1年生の指導……。」
「……琴葉の分の席、あけとこうか?」
「いや流石に遠慮する……。吹奏楽部は吹奏楽部で楽しいから……。」
「いつでもおいでよ!」
「だからいいって!」
……私、そんなに文芸部に入りたそうだったかしら……?
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