夜来化石 ~遊郭に残された謎の四字に秘められた意味は?齢九歳にして天下一の盗賊と噂される俺は、盗みと女装なら誰にも負けねえっ!(「ウチの親方が一番かわいい」手下A・談)~
二之巻、今はいずこへ…… 姉上捜しの始まりでぃっ!(前篇)
二之巻、今はいずこへ…… 姉上捜しの始まりでぃっ!(前篇)
「てぇへんだあ!」
がらっと木戸が開いて、部屋に飛び込んできたのはかわいらしい男の子。
長い黒髪を高い位置でひとつにまとめ、背には唐草模様の風呂敷包みを背負っている。長いまつげに縁取られた大きな黒い瞳と、やわらかい頬、ふっくらとした唇は女の子と見まごうばかりだが、それにしてはちと、目元がきつすぎる。
夏の朝、さわやかな風がすべり込む。
「
板の間の奥の
男が開け放った襖の向こうにはもう二人、むさくるしい男が布団も敷かず、
「
後ろ手に木戸を閉めて男の子――
粛と呼ばれたこの男、
来夜は風呂敷包みを板の間に下ろして、
「あいつに宣戦布告されちゃった! 天下一の修理屋として、天下一の盗み屋に手合いを申し込むって。でもふぁしるって名乗ってるあの修理屋、なかなか強いんだ」
「強いって、もう手合わせしてきたのですか?」
「だって。いきなり
指爆弾というのは、指の先が矢のように飛び、着弾すると同時に爆発するものだ。体が取り外し可能だから、本物の指を取り外して戦闘用
「でもそれがね、普通の指爆弾じゃあないんだよ。さすがあいつは修理屋だからね、自分で発明したんだと思うけど、逃げる相手のケツをどこまでもどこまでも追ってくるんだ」
来夜は、未だ興奮の冷めやらぬ様子、粛は冷静な面持ちで、
「それは中に火薬を仕掛けるよりも、座薬を入れておいたほうが便利でしょうね」
来夜は構わず、
「まあ今日、そんなへぼい武器に逃げ帰ることになったのは、荷物が重かったせいなんだけどな」
しっかり負け惜しみを言う。
平粛は来夜にバレないよう、あさっての方を向いたまま、ふとほほ笑んだ。
「でも厄介だな、これ以上敵が増えちゃあ。本業がおろそかになっちまう。原警部と前の天下一、マルニン初代頭目の
溜め息ついて板の間に腰を下ろす。紺色の半纏の背には、丸で囲んだ忍の字が白く染め抜かれている。
「確かに
「ねえ、粛、見てよ。今夜の収穫」
来夜は嬉しそうに風呂敷包みを解く。手足まではずして眠る不用心な
「来夜殿、我々に黙って仕事に出られてはいけないと、
「うるせいやいっ、俺はもうガキじゃねえんだ。天下一の盗み屋槻来夜様でぃっ!」
天下一だろーがなんだろーが、来夜くんが九歳であることに変わりはない。
来夜は知らぬ顔で、畳の部屋へ風呂敷包みを引きずってゆく。
「ぐへっ」
「ぐおっ」
来夜の足元で奇妙な声がふたつあがった。
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