第7話 魔獣狩り

 野営地へそのままにしてある寝台馬車の位置から十数分歩き、いよいよローメンデル山の入り口へ着いた。と言っても平野部と山間部に明確に境目があるわけではなく、看板が立っていたからそう判断しただけだ。


『ローメンデル山 一合目』


 看板にもちゃんと書いてあるので間違いないだろう。こういうところがやたら親切なのは、カナイ村からジスコへ来る途中の看板で体験済みである。


「チカマどうだ? なにかいそうか?

 できれば大きさまで分かるといいんだがなあ」


「なにかいるけど敵意感じない。

 多分ちいさい動物?」


 チカマもコツがわかってきたようで、対象のさっきのようなものを感じ取れるようになっているらしい。成長が早くて頼もしく、なによりも嬉しい。でも修行のためたまに姿が見えなくなるのは心臓によくないから何とかしてほしいものだ。


 ナイトメアは暇そうに? トコトコついてきている。今のところはついてくるようにとだけ指示を出しているのでやることは無く暇だろう。


「せめて夕飯の分だけでも獲っちまおうか。

 できれば大豚、せめて猪がいいけどなあ」


「もし獣だったら私とチカマでやらせてくれない?

 そうでもしないとレベルがなかなか上がらないでしょ?」


「まあそうだけど、獣なんて倒したって経験値は大して稼げないぞ?

 魔獣倒せば小さいのだってガッポガッポだからな」


「小型だったら例えばどんな魔獣がいるの?

 ウサギとかくらいまで? 鹿は中型?」


「いや、基本的には肉食か雑食の動物だな。

 だから鹿の魔獣はいないと思っていいし、猪の魔獣もいないかな。

 狼とか豹くらいからが中型で、それ以下だと蛇とかオオトカゲみたいなのが小型だよ。

 蛇や鳥の魔獣も結構いるな」


「動物以外の魔獣にはどんなのがいるの?

 ナイトメアみたいにブレス吐くのもいる?」


「土トカゲ(アースサラマンダー)みたいなトカゲ類や甲羅芋虫(タートルクローラー)なんて虫がいる。

 小型種で数が多いのはそれくらいか。

 中型だと大牙虎(サーベルタイガー)や凶暴熊(ラフグリズリー)とか石巨人(ストーンゴーレム)かな。

 ブレス持ちみたいなのはナイトメアと音波蝙蝠(サイレンバット)くらいか」


 結構種類が多いみたいで、イライザはそれ以降もアレコレ教えてくれたけど全然頭に入ってこない。まるで生物の授業を聞いている気分だった。もしかしたら自分で図鑑的なメモを取った方がいいのかもしれない。


「四合目くらいまでなら小型がせいぜいなんだよね?

 私はいいけどチカマに何かあったら困るのよ。

 それだけは忘れないで、お願いだから」


「平気だって、今日は二合目付近までしか行かないよ。

 今日中にレベル2まで上げられたらいいんだけどなあ。

 レナージュはレベル7だっけ?」


「そうよ、もうすぐ8になるけど、最近サボっていたから遠く感じるわ……

 でもミーヤとチカマを優先するから安心してね」


「ありがとう、二人を頼りにしてばかりでごめんね。

 私も早く頼られる側になりたいわ」


 いつまでも頼ってばかりでは情けないし、そんなことでは村の安全を守ることだって無理だろう。ナイトメアに任せると言う方法もあるけど、結局それだけでは手が足りなくなるかもしれないし、ミーヤ自身が強いに越したことはないのだ。


「なにか近いよ。

 こっち見てるかも?」


「見られているなら攻撃してくる可能性が高いね。

 動物ばかり倒しても食いきれないし、出来れば魔獣がいいけどなあ」


「魔獣は食べられないの?

 元々は動物なんでしょ?」


「ああ、魔獣はさ、体内に魔鉱を持っているのは知ってるんだよな?

 魔獣が死ぬとその魔鉱へ吸い込まれていって死体は残らないのさ。

 だから狩り過ぎて食いきれないなんてことも起きないってわけさ」


 なるほど、冒険者と言えども食べる分以上は狩りたいと思わないと言うことだ。それは村の狩りと同じような考えで、きっと世界共通の価値観なのだろう。


 その時、チカマが声を出さずに指をさして合図をした。だが、指示された先には特に何もいないように見える。するとガサガサと枝を揺らす音が聞こえてきて何かが飛んできた。


「来たぞ、こいつはクレームモンキーだな。

 木の実を投げつけてくるのがうっとおしいだけで弱っちいやつさ」


「これは私に任せて」


 レナージュは即座に矢を放ち木の上の猿は消え去った。死体は確かに残っていないが、魔鉱はどこかに落ちているのだろうか。


「藪の中に魔鉱が落ちてしまったわね。

 矢も回収したいし、ちょっと取ってくるわ」


 しかし、猿がいた木のそばに何かいる!? 危ない、と叫ぼうとしたがイライザに制止されたので黙って見守る。すると、藪から鹿が飛び出して逃げて行った。


「まあ向こうも怖いから逃げていくもんさ。

 下手に追いたてると向かってくるかもしれないしな」


「二人にはあの鹿が見えていたの?

 私には全然わからなかったわ」


「掛かってくるなら猿がやられるのをじっと待ったりしないさ。

 何かが隠れてるのはすぐわかったけど、まあおとなしい動物だろうなと」


 さすがベテラン勢は違う。無駄な殺生をしないことまで考えて狩りをしているのだ。ちゃんと見て聞いて教わって見習わなければいけないと、気を引き締めるミーヤだった。


 次に遭遇したのはタートルクローラーだった。大きな木に数十匹が固まっているだけで攻撃してくる様子はない。でも分類としては魔獣なので、チカマと一緒にどんどん倒していった。


「これ、消えてくれるからいいけど、ぶちゃってなって残るなら触りたくないわ。

 武器があればまだいいかもしれないけど、素手だと感触が気持ち悪いもの」


「ミーヤって以外に繊細よね。

 まったくかわいいんだからー」


 レナージュに冷やかされても嫌なものは嫌である。甲羅を背負っているから固いのかと思ったけど、それは表面だけで、上から叩くと木と甲羅の間でペチャンコになってから消えていくのだから。それでも小さな魔鉱が手に入るのだから悪くない収穫だ。


 まだ山の入り口付近と言うことも有り、探索は順調に進んでいた。危ないと感じることさえなく、まるで自分が強くなったような錯覚を覚えても仕方ないくらいだが、それがミーヤの力だとは考えていない。


 やっぱり経験のある二人についてきてもらって良かったし、いつかはミーヤ自身が頼られるようになりたいとも考えていた。

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