第3話 パーティー

 昨晩は一人一杯までしか飲まなかったおかげで全員が早起きでき、調子も良く目的地を目指すことが出来ていた。この調子で行けば夕方前にはつくだろうとイライザが言っていた。


 やっぱりイライザについてきてもらえたのは良かった。なんと言っても地元民のようなものだし、戦闘経験だけではなく、未熟な冒険者を教えた経験も豊富だからである。


「なあレナージュ、そう言えば届出名は何にしたんだ?

 あんまり恥ずかしいのは嫌だけどなあ」


「えっ? 届出? …… ……

 忘れてたわ!」


「なんだよ、仕方ないねえ。

 まあ四人もいるから早々救助要請することは無いと思うがな」


「ごめーん、すっかり忘れてたよ。

 前のパーティーではリーダーが全部やってたからさあ」


 どうやらなにかの届け出を出してくるのを忘れたらしい。でもそれほど深刻な雰囲気では無いようなので、大したことではないのだろう。ミーヤは一応聞き耳を立てつつも、話には参加しないでいた。なぜなら、こういうときは必ずと言っていいほど話が回ってくるからだ。


「でもしばらくはこの四人で行動するよね?

 もしものことを考えたら一応届出はしておいた方がいいよね?」


「まあ一応ルールみたいなものだしな。

 とは言っても冒険者なのはレナージュ、あんただけだよ?」


「ええっ!? そうなの?

 イライザはともかく、ミーヤとチカマも冒険者でしょ?」


「え? でも私もチカマも冒険者として登録なんてしてないよ?

 そもそもそんなの知らなかったし」


 少し前に冒険者の定義について考えていたことはあったが、重要な事でもないと思って忘れていた。やっぱりなにじか許可証的なものが必要だったのだろうか。


「違う違う、別に冒険者としての登録なんていらないわ。

 そうじゃなくて、複数人のグループを作ったらパーティー登録と言うのをする物なのよ。

 ああ、冒険者組合へね。

 そうすると、討伐依頼とか護衛みたいな複数人必要な依頼を優先的に回してもらえるの。

 それと、何かトラブルがあった時に捜索依頼を出して救援を呼ぶことができるのよね」


「そう言う仕組みがあるのね。

 と言うことは救援に出向くこともあるってことでしょ?」


「それはそうだけど、組合と依頼者両方から同額貰えるから儲かるわよ?

 あとは行き先を届け出ておくことで、ついで依頼が飛んでくることもあるしね。 

 わざわざ行かなくてもいいから効率がいいのよ」


「じゃあやっぱりしてきた方が良かったんじゃないの?

 あんまり真剣味がないと言うか、どうでもいいって感じに見えるわよ?」


「別に必須じゃないし、全員が冒険者ってわけでもないからね。

 街へ戻ってから四人前提の依頼が来ても、そのとき全員の都合がいいかわからないじゃない?」


「まあそうね、私はこのあとカナイ村へ戻るし、チカマも連れていくつもりだものね。

 イライザも治療院のお仕事があるでしょ?」


「あ、うん、まあな。

 結構暇してるから多分問題はないが……」


 なんだかイライザは歯切れの悪い返事をする。もしかしたら、治療院が暇だとしてもマルバスとの時間が減ることが惜しいのかもしれない。もしそうなら今回引っ張ってきてしまったのは申し訳ない。


「でももしミーヤがテレポートの巻物を手に入れられたら、いつでも来られるじゃない?

 そうしたならどうする?」


「まあそうかもしれないけどテレポートはランク5でしょ?

 術書に入った呪文を使うには書術スキルが80以上必要になるはずよね?

 巻物へ書き写すのはスキル足りなくても出来るんだっけ?」


「確かランクひとつ分下がるだけだから、60以上は必要になるはずね。

 今いくつくらいなの?」


「今は40超えたくらいだからまだまだ先は長そうね。

 まあでも、まずはもっと強くなるって目標があるから、すぐに帰ることは無いけど」


「せめてレベル5以上にはしておきたいよね。

 村の近くで魔獣が出たら討伐したいんでしょ?

 中型魔獣一体ならレベル5で倒せるはずだし、相手二体でも加勢があれば何とかなるわよ?」


「実際に魔獣どころか熊も見たことないから、いまいちピンと来ないんだけどね。

 この間の盗賊よりは強いってことでしょ?」


「どうだろう、いい勝負じゃないかな?

 魔獣は強いけど直線的なのよ。

 でも人は策を練るからレベルだけで測れないものなのよね。

 あの時のミーヤだってレベル1だったじゃない?」


「今もそのままだけどね……」


「ミーヤさま、レベル1はボクと同じ……」


 ミーヤはチカマへ「それは慰めになっていない」と言ってからガックリとうなだれた。


「でもレベル1で体術がエキスパートだもんなあ。

 やっぱりすごいわ、さすが神人様だよ。

 他のスキルも案外簡単に上がっていくんじゃないか?」


「そんな簡単なものじゃないんでしょ?

 この間、熟練度は年齢と同じくらいが普通って聞いたよ?」


「街で暮らしてるだけならそうだろうな。

 でも冒険者は場数が違うから当てはまらないのさ。

 まあ戦闘で使うスキルに限って、だけどな」


 やはり熟練度と言うくらいだから使っていくしかなく、そこに近道は無いのだ。そんなことを考えながらスキル一覧を見ていてふと気が付いた。移動時間にやらなければいけないことがあったのだ。


 ミーヤはポケットからリュートを取りだし演奏をはじめた。とは言っても楽器なんて出来るはずもなく、触ったのも小学生の頃の鍵盤ハーモニカ以来である。


「演奏スキルかあ、テイマーは大変だよな。

 調教は今どれくらいなんだ?」


「えっと、50くらいかな。

 馬しか捕まえたことないし、スキルあげる機会すらないよ」


「えええっ!? 50もあるのか!?

 それってもう魔獣を捕まえられるクラスじゃないか!

 それなら自分で戦わなくても魔獣で魔獣を倒せばいいってレベルだぞ?」


「そうなの? 自分のことなのに全然わかってないんだよね……

 ホント二人は色々教えてくれるから助かるよ」


 そうだ、結局ミーヤは最初に貰った能力をただ所持しているだけで、なにもできるようになっていない。世界を知ることに興味はあるけど、まずは自分のことをもっと知る必要があると考え始めていた。


 でも考え続けても仕方がない。今できることをやらないと、とリュートを適当にはじいているとたまにいい旋律が流れだす。どうやらスキルの補助によって勝手に演奏してくれているようだ。


 それにしてもパーティー登録と言うのはどうするつもりなんだろう。話がそれてうやむやになってしまったことが気になる。かと言って、スゴイメリットがあるわけでもないし、レナージュが今は必要ないと判断したのなら、ミーヤがとやかく言うことでもないだろう。


 あれから大分歩いて陽が傾いてきた。いい加減リュートの音もうるさく感じてきたころ、レナージュが突然立ち止った。


「どうした? 何かあったのか?」


「いいえ、メッセージが来ただけよ。

 ええっと…… モーチアからだわ」


「冒険者組合の女の子じゃないか。

 やっぱり登録してないのがばれたんじゃないか?」


「ちょっと人聞きの悪いこと言わないでよ。

 義務じゃないんだからそんなことで怒られたりしないわよ!

 まあ関係なくは無いんだけど……」


「なにか用でも言いつけられたのか?

 それともデートのお誘いだったりしてな」


 レナージュったらそんな! そう言えばミーヤの殻を執拗に触ったり揉んだりしたこともあったし…… やっぱりそっち方面の趣向があったのか。


「全然そんなんじゃないわ。

 でもちょっとまずいことになったわね。

 理由はわからないけど、ローメンデル山の麓(ふもと)に中型魔獣が出たみたい。

 それでけが人が出て救援要請が来たから、近くにいるなら助けてあげてほしいんだって」


「依頼料が入るならいいんじゃないか?

 でもそこまで行ったらアタシらも襲われる可能性があるねえ」


「そこなのよねえ、こっちはレベル1が二人いるんだからさ。

 少し離れたところでキャンプしてその人たちに来てもらった方がいいよね?」


「まあそれが無難だろう。

 もう少し進んだところに窪地があったよな。

 あそこで待機だ、アタシは迎えに行ってくるよ」


「わかったわ、モーチアへはそう返信しておくね。

 ミーヤ、勝手に決めてしまってゴメンネ」


「緊急事態なんでしょ?

 それならけが人のことを優先するのは当然だわ。

 私なら平気だから気にしないで」


 冒険者のけが人なんて初めて見るから緊張してしまう。どのくらいの怪我なのか、命に別状はないのか、魔獣はどうしているのか、なんで麓へ現れたのか、色々と気になってしまうが、今はまず予定の場所へ急ぐのだった。

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