第2話 初めての夜
ミーヤは、モグラたたきにこんな真剣に取り組んだのは初めてだった。そのせいもあって、出発して数時間なのにすでに疲れた顔をして歩いている。当人は主に精神的な疲れだとは思ってるが、チカマが盛んに声をかけてくるのでよほどひどい顔なのだろう。
「チカマ、本当に大丈夫よ?
少しは疲れてるけどそれはみんな同じことでしょ?」
「アタシは全然疲れてないけどな。
レナージュだってなんともないだろ?」
「そうね、のどが渇いたから一杯やりたいくらいかな」
ミーヤはおもわずレナージュをにらみつけた。だが彼女は悪びれる様子もなく、手から水を出して口元へ注いでいた。
「ミーヤさま、飴あげる。
疲れとれるよ?」
「あー、ありがとう、いただくわね。
チカマがくれたんだもの、すぐに疲れなんて飛んで行っちゃうわよ」
「まったく仲がいいなあ、まるで恋人同士みたいじゃないか。
ホント、どこでもいちゃいちゃしちゃってさ」
「あらイライザ? そんなこと言ってるとマルバスへ言いつけるわよ?
まあ恋人ではないみたいだけどね」
「ちょ、ちょっとミーヤ!? なんでマルバスのこと知ってるんだよ!
そりゃあいつとはなんでもない、そう言う仲じゃないんだよ……
自分が言われると恥ずかしいもんだな、悪かったよ」
「ふふ、冗談よ、私はなに言われても平気よ。
チカマのこともマールのことも恋人よりも大好きだもの」
「ミーヤって恋人いるの!?
いやまって、ずっと一緒にいるんだからそんなわけないわね」
「そんなわけないって失礼な!
まあ確かにいないけど…… 別に欲しくないしね。
そんなこと言うレナージュはどうなのよ?」
「私はなあ、そういうの面倒になってジュクシンにいるの嫌になったってとこあるし。
もちろん私もいい年だし? 過去に恋人くらいいたことあるけどね」
キャー! イライザだけではなくレナージュも経験者なのかー! 心の中で興奮しているが、ミーヤにはもちろんそんな経験はない。今はチカマがいれば十分だし、村に帰ったらマールもいるのだから両手に花なのは決定事項だ。
「ミーヤさま、ボク、マール知らないよ?」
「大丈夫、カナイ村へ帰る時にはチカマも一緒に来てくれるでしょ?
その時にちゃんと紹介してあげるわよ」
チカマは少し不安そうだが、それでも納得したようにうなずいてくれた。いつの間にかミーヤも元気になっていて、道中はにぎやかである。楽しい時間はあっという間に過ぎていき、やがて辺りは暗くなった。
レナージュがもう少し行ったら野営をしようかといいだし、特に反対する理由もないので十九時まで歩いてから寝台馬車を展開することで話がまとまった。
「まあ見ててよ、簡単にできるからね。
ここをこうやって、こっちへ倒してからこうやって柱を立てて――」
ミラージュが馬車の荷台を起用に広げていく。すると小ぶりのプレバブ小屋のようなものが出来上がった。もちろん車輪はついたままだが、広げたベッドの一部が車輪へはめ込まれて輪留めの代わりになっているようだ。
ベッドが四つ突き合わされ、四隅に柱を立て板張りの壁がはめ込まれると完全に囲われる構造になっている。最後に屋根を取り付けたら完成!
「へえ、これなら快適に寝られそうね。
あんなに小さかったのにちゃんと家みたいになるなんて感動だわ」
「やっぱ借りて来て良かったろ?
その代り一人頭一日2000ゴードル分以上は働かねえとだぜ?」
「結構高いのねえ……
そんなに稼げるものなの?」
「ま、スキル上げや戦闘経験を積むって目的があるから必ずしも黒字にする必要はないよ。
でもできれば黒字で帰りたいってのは当然だよな?
旅に出る準備でも随分かかってるはずだから、まあがんばろうや」
「そうね、出来る限りのことはするわ。
でもやっぱり魔獣を倒さないとお金にはならないでしょ?」
「そんなことないわよ?
毛皮を剥いだり干し肉を作ったりすれば小銭稼ぎにもなるわ。
ほかにも、目利きができれば薬草採取とか宝石が見つかることもあるし、色々よ」
イライザがスキル上げ等の目的があるから赤字でも構わないと言ってくれてほっとしたし、レナージュが言うように他にも色々な稼ぎ方があるようだ。どちらにせよそれほど心配することは無いし、強くなっていけば儲けも大きくできるだろう。
「じゃあさっきのモグラで何作ろうかしら?
焼いた方がいい? 煮込み料理でもいいわよ?」
ミーヤはそう言いながら手際よく皮をはいでいった。はらわたはすでに道中で開いて放り投げてしまったので今は捌くのも楽である。
「アタシは焼いたのがいいな。
あとアースドラゴンの毛皮はそれなりで売れるから傷つけないようにしてくれ」
「了解よ、それじゃ焼き物にしようかしら。
みんな同じでいいわね?」
レナージュとチカマも頷いているので、さっそく準備に取り掛かる。まずは皮をはいで手足と尻尾を切り落とし、首元から尻まで開いていく。背骨の下へ刃を入れてから頭と一緒に斬り落とすと、魚のように三枚に下ろせた。
んん?? これが料理スキルの補助なのかな? 普通に考えて動物を三枚に下ろすなんてことはないはずだし、今も何も考えずに手が動いていた。厳密には骨を抜いたって感じだけど、なんだか異常にうまくできてしまい驚いた。
念のためスマメでスキルを確認すると、料理酒造スキルがモリモリ上がっている。昨晩の卵調理の結果だろうか。そう言えば、スキルが上がると素材を手に取った時に作れる料理が頭に浮かぶらしい。
試しに捌き終わったモグラを手に取って調理することを思い浮かべると、頭の中にイメージが浮かび上がってきた。ごった煮汁、細切りの炒め物、丸焼き、あら、これくらいなのね。ではひと工夫してみよう、と考えてポケットから塩と砂糖を取り出した。
コップに少量の水を入れて砂糖を加えてこい砂糖水を作る。本当は水あめがいいんだけど無いものは仕方ない、代用品で十分だしどうせ醤油もみりんもない。
骨抜きモグラへ塩をまぶして遠火で焼き始める。表面が乾いてくるくらいに焼けてきたら、砂糖水を少しずつ掛けながらそのまま焼き続ける。刷毛がないから上からかけるしかないが、これでうまくいくと嬉しい。
焼いている間に残りも骨を抜いてしまい、串を刺し腹を広げてから塩を振って干しておこう。干物にしておけば日持ちが違うはずだ。
段々と香ばしい香りが漂ってきた。焼いていても油があまり落ちてこないので、おそらく淡白な味だろう。モグラなんて食べたことないので楽しみだけど、ドラゴンと言うくらいだからトカゲの味だったりするのだろうか。
開いた腹から焼き具合を確認すると、もう十分火が通っているようである。刺した時には手ごたえが強くすんなり刺さらなかった鉄串も、火が通った後ならするりと取れた。
「はいどうぞ、食べてみて。
調味料が足りないから物足りない味かもしれないけど、なじみがない味には仕上がってるはずよ。
これは照り焼きって言うんだけど、名前の通り照りがあるでしょ?」
「うん、ピカピカドラゴン、いただきます」
「なんだか変わった色ね、これが照り焼き……」
「なんかわかんねえけどうまそうだな、いただくぜ!」
ミーヤも一つ手にとってかぶりついてみた。うーん、醤油がないから思ったような味にはならなかったけど、表面の糖分がパリッとした食感とほんのりとした甘味を作っている。これはこれでおいしい。
みんなにも大分好評のようだ。しかし食べ進めていくと内部の肉は結構固くて歯ごたえバツグンである。
「うん、まあまあの出来ね。
鳥で作ったらもう少しおいしいと思うんだけど、まあ及第点かな。
これもおばちゃんに教えてあげようかしらね」
「今度はちゃんと金取った方がいいぞ?
すでに宿代と飲み食いはタダなんだからさ」
「そっか、教えても得がないってことね。
それならフルルへ教えてお店で出せばいいのか。
卵以外も売りだしたらきっと流行るわね」
「そうよ? ジスコでは見たことない食べ物なら何でも売れるからね。
それにしてもフルルったら、キャラバンにいるころは働くの嫌がってたのに。
やっぱり自分の店だと気持ちが違うのかしら」
「そうかもしれないわね。
でもあんまり忙しくなりすぎると倒れちゃうかも」
そんなことを話して笑っていると、チカマがミーヤの腕を引っ張ってきた。
「ミーヤさま、おかわり。
あとこれ、パカってやるのも作って」
「あら! 卵どうしたの?
昨日の残りかしら?」
「みんな酔っぱらって片付けないからボク片付けたのよ?
えらいでしょ?」
ミーヤはチカマの頭をなでながらいっぱい褒めた。卵をちゃっかり自分のものにしたのも許しちゃう。だってこんなにいい子なんだもの!
こうして冒険の旅、初めての夜は楽しく更けて行った。
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