題名、悩んでるんですけどいい案ない?

アルましろ

プロローグ:世界は、どこも理不尽で溢れてる。

『今日、午前一時頃に…帰宅途中だった男性が……』


テレビをなんとなしに付ければ、映し出されるニュース番組。妙齢な女性のニュースキャスターが、淡々と文章を読み上げながら深夜に起きたらしい事件を目の前の視聴者達に、情報として伝える。


よく聞くフレーズを聞き流しながら、ソファーの方へと移動した俺は、片手に持つコーヒー入りの白いカップを傾け、口に運んだ。コーヒーのほろ苦さが口に広がる中、ぽすんっとソファーに座る。


何気ない、ありふれた世界。どこも新鮮味がなく、まるで複製されたような現代で、ニュースキャスターは静かに語った。それは、までは有り得なかった、純然たる事実を。


『…刺された箇所には、の血が付着していたことで、犯人は魔物だと判明し、周辺地域を現在も捜索されております───』


ニュースキャスターの口から出た言葉───魔物。


御伽噺や創作の類でしか存在しなかった、化け物が突如として世界に現れてから、百年の月日が経った。今でこそ、人々は魔物というフレーズは聞き慣れているものの、当時は不思議生物に混乱し、政府が迅速の対応ができなかったことにより、人類の生存圏が縮まった。


が人の住めない地…魔窟と化したのだ。今は魔窟圏が多少なりとも減っているものの…それは現在まで続いており、南極や北極…そしてアマゾンと言った一部地域は人をまるで寄せつけないような極悪クラスの魔物が何千何万と無数に跋扈している。


そして…それと同じくして、現れたものもある。


『…!ただいま入った情報です。刺殺事件の犯人と思わしき魔物を協会公認異能力者KCIのC級能力者が討伐したとのことです…』


それが、異能だ。


神の祝福と称されるソレは、何も無いところから炎を生み出したり、氷を作り出したり…正しく幻想の現物だった魔法のような力を扱うことが出来るのだ。


そして、一人の男性が周りに炎を浮遊させながら魔物を討伐する姿が画面に映る。近隣住民が撮影したものだとキャスターは補足した。


「…物騒だねぇ」


他人事のようにつぶやく俺は、空になったコーヒーを机に置いて、机のすぐ側に置いてある電子時計を見た。


「…7時30分…後、2時間で入学式か」


カーテンのかかってない、窓から朝日が差し込み、快晴の空はその青さで人々の心を彩らせる。今日は入学式。本来なら、俺はここに来る予定も想定もしてなかったのに。


人並みの人生で満足していたのだ。友達と駄べり、家族と何気ない生活を送って、普通の女性と付き合い、そして結婚して孫や子供に看取られながら死ぬ…そんな、人生を歩むつもりだった。


だが、気が付けば…俺はこの学園…異能力者を育てる日本の教育機関の中でも最高峰に位置する、愛知異能学園に入学することとなった。


この学園に通うために、家族の元を離れ、一人暮らしする羽目になって引っ越しちゃったし…なんでこうなったんだろう。


今更文句を垂れようと、どうしようもないことは分かってても…吐きたくなる。


こうなれば、せめて…この学園を平和に過ごせるように、目立たず生活しよう。俺は、人並み程度の幸せを掴んでいたいのだ。


平穏に、そして平和に過ごす事が…俺の夢なのだから。


「そろそろ、準備するかぁ」


気だるい気持ちを抑えながら、学園へ向かう為に…俺はソファーから立ち上がった。




これから始まるのは、日常を謳歌していた少年が、運命のイタズラにより…非日常の世界へと歩んでいく、そんなありふれた物語だ。

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