第208話 推測
第049日―3
十数分程歩くと、大通りから少し入った路地裏に建つ、あの古民家風の建物の前に到着した。
しかしその建物を目にしたメイが、何故か怪訝そうな顔になった。
それが少し気になった僕は、メイに問い掛けた。
「どうしたの?」
「ううん、何でもない」
僕にそう言葉を返した後、メイはハーミルに、念押しするかのように問い掛けた。
「ここが、カケルの腕輪を作ってくれたお店なの?」
「うん、そうよ」
ハーミルは、メイに言葉を返しつつ、扉に手を掛けた。
しかし鍵がかかっているのか、どうやら扉は開かないようだ。
僕の方を振り返ったハーミルが、残念そうな顔になった。
「やっぱり閉まっているわね」
軽い落胆を感じつつ、僕は隣に立つメイが、何故かハーミルを凝視している事に気が付いた。
ハーミルもメイの視線に気付いたらしく、メイに顔を向けた。
「ん? 私の顔に何かついている?」
メイは軽く首を横に振ってから、ハーミルに言葉を返した。
「そういうわけじゃないんだけど……ハーミルって、このお店に最後に来たのはいつ?」
「いつって……カケルと一緒に来た時だから……」
指折り数えるハーミルに、メイが再び問いかけた。
「ここ最近は、来た事無かったの?」
「カケルと来たのが最後だけど……」
そう口にしながら、ハーミルの目が少しだけ細くなった。
「どうして、そんな事聞くの?」
「気にしないで。ただの好奇心よ」
メイはハーミルの視線を軽く受け流すと、そう答えた。
結局僕達はその後、近くのカフェでお茶をしてから家路についた。
夕食後、僕は一人、自室のベッドの上で横になっていた。
自然と頭を
仮にあの“謎の店主”が、今も『
当然ながら、400年前、僕と出会った事を覚えているはずで、
そして『
ならば何故、僕と直接接触しようとしないのか、謎が深まるわけで、
その前に、どうやって自分の持つ力を僕に継承させたのか、その理由も含めて、見当もつかないわけで……って、いや待てよ?
僕は自分にとっての日本での最後の記憶、そしてこの世界に来て最初の
突然襲って来た衝撃で階段を踏み外して、気付いたらこの世界のアルザスの街近くの草原で目を覚ました。
その後、何故か不死身になっている事、つまりこの力をいつの間にか“継承”している事に気が付いた。
さらにあの数千年前の世界へと召喚される
―――生きてはおる。が、それしか言えぬ。すまぬな……
もしかすると、日本での最後の記憶、あの突然の衝撃の際、実は僕は……
僕の中で、ある突拍子もない、だけど今の事態を説明出来そうな推測が浮かび上がって来た。
しかしその考えが形を成し、
―――コンコン
同時に小さな声が廊下側から掛けられた。
「カケル。入っても良い?」
扉を開けると、メイが立っていた。
また寂しくなって、話をしに来たのかもしれない。
「良いよ、入って」
部屋にメイを招き入れ、僕は彼女と並んでベッドのへりに腰かけた。
僕より先に、メイが口を開いた。
「カケル。今日の午後行ったあのお店の事、もう少し詳しく教えてくれない?」
「あのお店って、僕の腕輪を作ってくれたお店の事?」
「うん」
「どうしたの? 何か気になる事でも?」
「うん、ちょっと……」
メイの様子に少しだけひっかかりを感じたけれど、僕はとりあえず、以前、ハーミルの案内であのお店を訪れた時の事を詳しく話して聞かせた。
話を聞き終えたメイは、少しだけ考える素振りを見せた後、問い掛けてきた。
「ねえ、カケルのその腕輪って、その店主が作ってくれたのよね?」
「うん、多分」
僕があの謎の店主に紫の結晶を渡し、その後、完成した腕輪を同じ謎の店主から受け取った。
正確には、謎の店主は奥に十数分ほど引っ込んでいたから、そこに別の職人さんがいた可能性……は排除出来ないけれど。
「だけど数千年前の世界でカケルが出会った“守護者アルファ”も、同じ腕輪を身に着けていた」
「うん」
「じゃあその店主が、カケルの言う、この世界にいるはずの“もう一人のサツキ”って事になるんじゃないの?」
「でも確証が無いよ。それにもしそうだとすると、なんでわざわざ認識阻害のローブなんて着込んでいたのか……」
先程、心の中に浮かび上がってきていたあの突拍子もない推測へと、再度回帰しそうになったところで、メイがおずおずといった感じで切り出した。
「ハーミル、少し嘘ついているかも。だって彼女、4日前にもあのお店を訪れているわ」
「えっ?」
僕はメイの意外な言葉に驚いた。
「いや、あのお店、4日前には閉まっていたはずじゃ……」
ミーシアさんの話通りなら、僕がこの腕輪を受け取った日、つまり約1ヶ月前だけど、その直後に謎の店主は店を閉め、故郷に帰ったはず。
「えっとね……」
メイが、若干バツの悪そうな雰囲気になった。
そして
「その……悪気は無かったんだけど、カケルがいなくなっちゃて、すごく精神的に不安定になっていたから……」
―――コンコン
そして掛けられる声。
「カケル、いる? メイがいないんだけど、そこに来ていない?」
今、話題にしていたハーミル本人だ!
僕はとっさに、言い
「いや、来てないけど。どっかお手洗いにでも行っているんじゃないかな」
言葉を返してしまってから後悔した。
しかし今更修正出来ない。
僕はメイの方を振り向いて聞いてみた。
「転移の魔法で自分の部屋に戻れない?」
「えっ? でも魔法使えば、多分、廊下にその光が漏れちゃうわ」
メイもかなり
廊下から再びハーミルが声を掛けてきた。
「開けるよ?」
残念ながらこの部屋の扉には、
「ちょっと待って! 片付けるから」
そしてメイに小声で
「とにかく、どこでもいいから隠れて!」
メイは小さく
「えっ? そこ?」
一瞬戸惑ったけれど、とにかくハーミルを戸口で追い返してしまう事が出来れば、あとは僕の転移能力でメイを部屋に送り届けるとか、色々方策はある……はず!
気を取り直した僕は、部屋の扉に向かった。
そして入り口から中を覗き込まれないような位置に立って、扉を開けた。
「どうしたの?」
「それが、メイが部屋にいないのよ……」
話しながら、ハーミルが怪訝そうな顔をした。
「って、カケルこそどうしたの?」
やはり僕の立っている場所が、不自然に思われたのかも?
しかし今は、ハーミルを可及的速やかに追い返すのが最優先なわけで。
「いや、ちょっと散らかっているからさ。また後でハーミルの部屋に行くよ」
ハーミルは一瞬考える素振りを見せた後、見事な身のこなしで僕の脇をすり抜け、部屋の中に入ってしまった。
「ちょ、ちょっと、ハーミル!?」
ハーミルは僕の部屋の中をぐるりと見渡してから、なんだか拍子抜けしたような顔になった。
「何よ、別に散らかってなんかないじゃない」
話しつつ、ハーミルが僕のベッドの上に勢いよく腰を下ろした。
そこはちょうど、小さく丸くなって隠れているメイの直上だったようで……
―――きゃっ!
「きゃっ?」
「あ、ハーミル、ちょっと待って!」
止める間も無く、ハーミルはベッドの上の掛け布団を、思いっきり取り去った。
……うん。
僕は、というか、僕達は何か
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