第154話 山賊
9日目―――2
「霊力って、死んだ人を復活させたり出来るの?」
僕の問い掛けを聞いた『彼女』が首を横に振った。
「
「それは、君の神様みたいに霊力が強ければ、死者の復活も可能って事?」
「ゼラムの前でも話した通り、無から我等を創造して下さった
やがてマーバの村が見えてきた。
しかし前回訪れた時と比べて、どうも様子がおかしい。
粗末な木柵の一部が破損し、村のあちこちから煙が上がっている。
「何かあったのかな?」
僕と『彼女』は、急いで村の方に駈け出した。
村内は、惨状が広がっていた。
元々十数軒しか無かった民家の
道端に呆然と座り込む何人かの村人達の姿も見えた。
僕はその中の一人に声を掛けた。
「何があったんですか?」
その村人は、
「……ドワーフどもが……」
その村人の話によると、マーバの村から少し
彼等は掘り出した鉱石を、ここマーバの村も含めて周辺の村や街に持ち込み、売り
ところが最近、彼等が持ち込む鉱石の質が急に悪化して、
今日も午前中、数人のドワーフ達がやって来たのだが、彼等が持ち込んだ鉱石は、今までの中でも一番の粗悪品だった。
しかも彼等は、それら粗悪な鉱石を法外な値段で売りつけて来たので、村人たちは協議の末、今後一切、そのドワーフ達とは取引を行わないと宣言し、彼等を村の外に叩き出した。
すると午後になって、ドワーフ達は仲間と共に村を襲撃して来た。
そして家々に火を放ち、金品、そして女子供を
話を聞き終えた僕は、しばらく絶句してしまった。
話通りとすれば、それはもはや山賊となんら変わりないのでは?
僕は視線の先でしょんぼり
「ドワーフ達の集落って、どこにあるんですか?」
「あそこに見える岩山の中腹あたりだが……」
丁度西日の射す方向を指差しながら、その村人がやや怪訝そうな雰囲気になった。
「なんでそんな事を聞くのかね?」
「ちょっとそのドワーフ達に掛け合ってこようかと」
僕は微弱ながら霊力を使用出来るし、守護者である『彼女』もいる。
僕達ならドワーフ達が奪った金品と、彼等に
そんな気持ちから申し出てみたのだけど。
村人が力なく言葉を返してきた。
「気持ちは嬉しいが旅の方、これも神様の
彼のその言葉は、僕がこの世界に来て、これまでにも何度か
いくら“
そもそもあの女神は、セリエを簡単に殺したり、僕と『彼女』を罰と称して妙なダンジョンに閉じ込めたりするくせに、こうした“悪行”は、放置なのだろうか?
僕は『彼女』の方に顔を向けた。
「神様って、こういうのは、裁いたりしないの?」
しかし『彼女』は意外な言葉を返してきた。
「
「えっ? じゃあ、山賊まがいの事をしても、別に罰とか無いの?」
日本はおろか、ナレタニア帝国でも、そうした行為は犯罪として、厳しく法律で規制されていたはず。
「
「え~と……もう一度確認しておきたいんだけど、つまり神様は、ドワーフ達を罰して罪を償わせたりはしないって事? かな?」
『彼女』が不思議そうな顔になった。
「何を言っているのだ? 村人達の現状には同情するが、単に、ドワーフ達が知恵と力で、ここの村人達を圧倒出来たというだけの話であろう? 村人達は、次からは学習して、このような事態を避けるように努力しなければならない。
僕は一瞬混乱した。
なんだ?
どういう事だ?
今まで生きて来た僕の常識と照らし合わせてみれば、マーバの村人も『彼女』も、その考え方は何かがおかしい……はず。
あれ?
でも、もしかしておかしいのは僕の方?
いや、そんなはずは……
そこまで考えて、僕はようやく気が付いた。
『この世界の人々は、何をおいても、神様が第一になってしまっている。自分を取り巻く状況が悪くなっても、それをおかしいと感じたり、変えたいと願ったりする想いが希薄過ぎる』
だから僕は、自分の娘を
「娘さんを
「そりゃ、悔しいし悲しいよ。でも神様の
「でも神様の声で、直接“
「それは、そうだが……娘が
「神様の“
村人の顔色が変わった。
「なんて事言うんだ! あんた、わしに何か恨みでもあるのか!?」
声を荒げる村人を見て、僕は少し安心した。
やっぱり、心の奥底にあるものは、この世界の住民達も僕もそう変わらない。
僕は頭を下げた。
「ひどい事言ったのは謝ります。だから、あなたの本当の気持ちを聞かせて下さい。本当はどうしたいですか? 神様を持ち出すのは無しでお願いします」
「そりゃ……わしは……」
その村人は、目を泳がせながら、押し黙ってしまった。
僕は他の村人達にも、次々と同じような質問をぶつけてみた。
皆、最初は神様の“
しかしやがて、その内の一人が意を決したように声を上げた。
「わしは……やっぱり納得いかない。こつこつ貯めた大事な財産だったんだ!」
「……俺も納得いかない。いくら神様でもあんまりだ。娘を返してくれ!」
村人達が、思い思いに声を上げていく。
突然、僕は不可思議な感覚に襲われた。
―――娘にもう一度会いたい!
―――恋人を取り返したい!
―――あれは長年コツコツ貯めたお金で買った宝物だったんだ!
村人たちの“想い”が奔流となって僕の中へと流れ込んできた。
同時に凄まじい勢いで霊力が身体の中を駆け巡る。
それはまるで、獣人達の洞窟でキマイラと対峙した時の焼き直しのような感覚。
僕は目を閉じて、右腕に
再び目を開けた時、僕の傍には
光球が驚きで固まる村人達の顔を照らし出していた。
隣りに立つ『彼女』が問いかけてきた。
「カケル、光球をまた顕現出来るようになったのか?」
僕は『彼女』に笑顔を向けた。
「うん、この世界で光球を顕現できる条件、何となく分かった気がするよ」
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