第56話 二人の師範
ここは、江田島孤児院の体育館。
奥に江田島が座り、正対するようにロイとマクスが座っている。
ロイの左斜め後ろにルーとメアリ、マクスの右後ろにはミユウとクローネが控えている。
そして、審判のように両者の間にテリーが座っている。
「これより、師範試合を行う。」
テリーの声が響く。
「マクス前えっ!」
テリーの声に促され立ち上がるマクス。
すると江田島も立ち上がる。
お互いに一礼し、中央に歩み寄る。
双方ともに小太刀二刀を携えている。
「双方構えっ!」
お互いに半身を切る
「はじめっ!」
掛け声と同時にマクスが江田島の懐に飛び込んでいく。
マクスが繰り出す突きの連打を受け流す江田島。
お互い一歩も引くことはなく、突きから袈裟懸け、逆袈裟とお互いに小手を狙った応酬が繰り広げられたかと思うと、江田島一瞬のスキを見て喉元への突きを仕掛け、すんでで身体を仰け反らせ回避するマクス。
そのまま宙返りをしながら、江田島の顎を蹴り上げようとすれば、その足をかわし、一気に間合いを詰め二刀を振り下ろす江田島。
宙返りで体制が落ち着く前に、振り下ろされる二刀を受け止めるマクス。
再び二つの影は間合いを詰め剣撃が飛び交う。
「こ…こいつは…。」
ロイが息を呑み、女性陣は声も出ない。
しかし、じりじりと体力差、経験の差で劣勢になるマクス。
何とかかわしているが、それども徐々にダメージは入っている。
そして、決着の時が来る。
何度目かの剣撃を終え二人が後方に下がった時、マクスの膝が力なく床に落ちる。そのスキを見計らい江田島が上段から打ち下ろす。
「そこまでっ!!」
テリーの野太い声が響き、江田島の小太刀が止まる。
マクスの頭上数センチであった。
「ま~くんっ!!」
ミユウがマクスに駆け寄り抱きしめる。
「お父様、酷いです。
こんな仕打ち!」
ミユウの言葉に耳を貸すことなく江田島は立ち上がり、敷居線に戻る。
「ミ~姉ぇ、離してくれ。」
ミユウの腕を振りほどき、起き上がると、同じように敷居線に戻るマクス。
二人は礼をすると、元の位置に座る。
ミユウはクローネに手を引かれ、元の場所に座らされる。
「次、ロイ前え!」
テリーの声に促され中央に歩み寄るロイ。
江田島はロイに併せ、長剣を携えている。
(こりゃ、締めてかからねぇと…。)
ロイの背筋に冷や汗が流れる。
マクスの時もそうであったが、これはいつもの試合とはわけが違っている。
「双方構えっ!」
ロイは中段に構えるが、江田島は脇構えになっている。
「はじめっ!」
テリーの声が響くがロイは突っ込むことが出来ない。
江田島はじっくりと構え微動だにしない。
間合いを嫌いロイが動くと江田島も正対するように身体の向きを変える。
ロイは動き回るが、江田島は最低限の足さばきだけ。
「これは、たった一撃で決まるかもしれない。」
マクスの言葉に、女性陣が驚いている。
先程の激しい剣撃に対し、こちらは非常に静かな試合であるが、当人たちの消耗を理解できているのはマクスぐらいである。
しびれを切らしたロイが江田島の間合いに飛び込む、江田島は逆袈裟の体制に入る。
(やはり、そう来るか。)
逆袈裟を受け流すべく半身をそらし剣の通り道をそらすべく剣を動かすロイだったが、彼の予想は外される。
下段からの切り上げではなく、横切りに近い位置から剣が繰り出されてくる。
体制を崩しながらも、横切りを受け止めるべく剣を構えなおすロイ。
そして剣同士があたった瞬間、遠心力分の追加ダメージに身体がよろめくロイ。
さて、剣を受けたところで気が抜けかけたロイに、横蹴りが襲いかかってくる。
これは回避不能で、蹴られるままに横へ飛ばされるロイ。
「ダ~リンっ!」
立ち上がろうとする
ゆっくりと立ち上がるロイ。
二人は黙って仕切り線に戻る。
「双方構えっ!」
再びロイは中段に構え、江田島は脇構えになる。
「はじめっ!」
今度はロイに躊躇がない。
中段に構え、どんどん自分の間合いで剣を繰り出していく。
江田島も対応していく中で徐々に中段の構えに変わっていく。
いよいよ中段に構えての攻防に移る。
マクスほどではないが、鍔迫り合いを織り交ぜた激しい攻防が展開される。
しかし、決定打の無いままに試合は終了する。
「そこまでっ!!」
テリーの野太い声が響くと、ふたりは仕切り線に戻り一礼する。
ロイと江田島が元の位置に座るのを確認した後、江田島の後方に控えるテリー。
程なくすると、布に包まれた長物を持って体育館へ入ってくる絹江。
そのまま江田島の隣に座り、布に包まれた品を渡す。
「マクス、こちらへ。」
絹江の声に促され、マクスが江田島の前に進み出て座る。
「マクス、免許皆伝だっ!
これを受け取れ。」
江田島は二振りの小太刀をマクスに差し出す。
戸惑うマクスの手を掴み、刀を握らせる江田島。
「今日から、お前は二刀流の師範だ。」
「…あ、ありがとうございます。」
ドギマギしながら小太刀を受け取るマクス。
その姿をにこにこと見つめる絹江。
「マクスは、他の子よりも、一足早い元服ね。」
「ああ、そうだ。」
江田島もニコッと笑い、マクスはお辞儀をして、元の場所に戻り座る。
「ロイ、こちらへ。」
「はい。」
絹江の声に答え、ロイが江田島の前に進み出て座る。
「ロイ、免許皆伝だ。
師範として、ノイス道場の開設を行うように。」
「はい、師匠。」
江田島より長剣を渡され、それを恭しく受け取るロイ。
「ルーのこと、お願いします。
あと、お守りが着くのは勘弁してね。」
「問題ありません。
ちょっと、大所帯になりますが、家族一丸となって、ノイスを盛り立てていきます。」
絹江に対して、元気に答えるロイ。
「メアリ姉さん、子供たちのこと、宜しくお願いしますね。」
絹江の声に、しっかり頷くメアリだった。
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