第14話・もうやめて、ドラゴンのHPは多分0よ!!

 死屍累々。


 正確には、あちこちに冒険者の死体も転がっているボス部屋。

 そんな中、生き残った冒険者たちが身を寄せ合い傷の手当てや食事を行っている。

 ダンジョンのボス部屋の特徴として、その部屋での戦闘が終わった場合、冒険者たちがボスに勝てばリスポーンまでの30分間は、自由に室内を調査できる。

 今、レムリアがいる場所も10分ほど前に小ボスらしきリッチロードの頭部をレムリアが一撃で粉砕、そのおまけと言わんばかりに雑魚モンスターも次々と撃破していった。

 討伐したモンスターの素材はすべて討伐した者もしくはそのパーティーが権利を有する。

 ゆえに、人が戦っているモンスターには手を出さない、救助などの場合はしっかりと相手の意思を確認することが暗黙のルールとなっている。


「な、な、なあアクセル、この部屋に最初入ったのは俺たちなんだから、ボスのドロップ品を少し分けて貰っても罰は当たらないよな……交渉しないか?」


 生き残ったパーティは二つ半、トータルで7人と奴隷が二人。

 四人パーティーが一つと二人パーティー+奴隷たちが一つ、そしてレムリア。

 そのうち二人パーティーのほうは最初は6人パーティーだったのが、一気に噴き出したアンデットの群れにまず4人が命を失い、残った二人が外に向かって援護を頼んだ。

 そしてアクセルたち4人が突入し、ミイラ取りがミイラになるところであった。

 今、二人組は仲間たちの遺体を一か所に集め、どうやって持ち帰るかの話し合いをしている最中である。


「待て待て、そもそも最初にボス討伐の権利を持っていたのはあっちのパーティーだ。俺たちも援護として参加したのだから、強く請求することはできない」

「だって……あれ」


 僧侶のメロディが、奥の方で財宝をアイテムボックスに収めているレムリアを指さす。

 今回、ここに出現したボスは【ユニークボス】、通常ならリッチロード一体だけのはずが、【アンデット軍団レギオン】というユニークボスに進化していたのである。

 それゆえ、ボスのドロップ品については通常の者よりもグレードが高く、純度2の魔石を始め、マジックアイテムや魔導兵装などもあちこちに転がっていた。

 それをレムリアは無表情で拾い集めると、すべてをアイテムボックスに収めて先に進もうとしている。


「ま、まあ……ダメ元で話してみるか……ってあれ?」


 アクセルがレムリアに話しかけようと立ち上がったとき、レムリアは奥の階段へは進まずに遺体を集め終わった二人組の元へ向かっていた。

 そしてどうやって遺体を運ぼうか、奴隷の二人と合わせてなら一人一体ずつ運び出せば外まで戻れるのではないかと、色々と協議をしている四人の元に顔を出して。


――ドサドサドサッ

 ボスモンスターのドロップ品の中から、金貨などの貨幣とアクセサリーなどを彼らの前に積み上げた。

 いきなりの出来事に、リーダをはじめ4人は目を丸くしているのだが、レムリアはそんなこと気にする様子もなく、アイテムボックスからデバイスを取り出して死体を検査する。

 


「このひとたちの死体の再生深度は7。蘇生までのタイムリミットはあるけれど、死者蘇生術式レイズデット、もしくは強度8以上の|神聖魔法の完全治癒《パーフェクトヒール≫を2時間以内に施すことができれば、多分生き返ることが出来ると思う。このお金は、この人たちの蘇生費用に充てていい。私が欲しい素材は貰ったから、残りは向こうの人たちと話し合って分けてくれればいい」


 それだけを告げて、レムリアはすたすたと階段を降りていく。

 幸いなことに、第7層へと降りた階段のすぐ横には、地上へと移動するための転移魔法陣が設置してある。

 それを見て、レムリアはうなずいてから先に進むことにした。


「こ、これでこいつらを蘇生できる……」

「急いで地上に戻ろう、あと2時間ってあの女の子も話していたよね」


 二人はそう告げてから仲間の遺体を担ぎ上げ、階段を降り始める。

 その後ろからは、同じように二人分の遺体を背負って階段を駆け下りる二人の奴隷と、さらに今のレムリアの話を聞いた4人組も、少しでもおこぼれにあずかろうと二人組の後を追いかけていった。



 〇 〇 〇 〇 〇



――第7層

 第7層に到着したレムノアは、内部構造がこれまでの階層とは大きく変化していることに驚きの顔を見せている。

 すぐさまデバイスを取り出して大気内魔素濃度の測定を開始すると、表示された数値を見てやや渋い顔になる。単純計算として7層の魔素は6層の約2倍、魔物の強度もこれまでの倍に跳ね上がるとレムリアは推測している。

 ここまでは楽勝モードで無双状態だったレムリアでも、流石にここからは気を引き締める必要があると察した。

 事実、洞窟上であった壁面や天井は全て綺麗に積み重ねられた石材に変化し、表面も綺麗に磨き上げられている。

 レムリアも内部構造が自然洞窟から人工構造物に変化した時点で、ここから先は知的な魔物が徘徊しているだろうと予測していた。


「……それで、後ろの4人は帰らないの? 階段横の転送魔法陣を使えば、一瞬で知事用に帰れると思うけれど?」


 レムリアの後ろから、距離を取って付いていくアクセルたち。

 

「いや、ほら……貴方、さっきの二人にドロップ品とか分けてあげたじゃない。私たちには分け前をくれないのかな……なんて思ってさ」

「あいつらにだけ渡して、俺たちは無しっていうのは違うんじゃないかなぁ……」


 メロディとスパーダがヘラヘラと笑いつつ呟いているのだが、レムリアはそんなこと知らないとばかりに無視をして先に進み始める。

 その態度にメロディはムッとして、歩幅を広げカツカツとレムリアに急いで近寄っていく。


「今の私の話、聞こえていたよね? 私たちは貴方が援護に入るのを許可したのよ? それってつまり共同戦線ってことじゃないの?」

「私は自分が倒した分のドロップ品は貰ったけれど、それ以外の余剰品についてはさっきのパーティーに渡した。そして、彼らと話し合ってとも説明してある。だから、請求するなら彼らにして、私は忙しくなる・・から」

「はぁ? そんなの聞いていないわよね!! それよりも私が欲しいのは、あのリッチロードのドロップした指輪なの。魔力増幅の指輪でしょ、あれ。あれを寄越してって『メロディ、もうやめろ』」


 興奮気味に叫ぶメロディに対して、アクセルが横やりを入れる。


「どうしてよ。あのリッチロードのドロップ品、あれがあれば私たちはまだ先に進めるのよ? それなのにどうして止めるのよ」

「その子の話していることが正しいからに決まっているだろ、そろそろ戻るぞ」

「いやよ。どうして私があきらめないと……」


 そこまで怒鳴ったとき、突然、回廊の気温が下がりはじめる。

 ふと4人が周囲を見渡すと、ここまでの回廊とは幅も高さも大きく異なっていることに気が付いた。

 今までの通路は横幅3メートルほど、高さもほぼ同じであった回廊が幅6メートル、高さは10メートルにまで広がっていた。


――ビシバキビシバキ

 そしてゆっくりと、目の前の回廊が霜に覆われ始める。


「ようやく一つ目のターゲット。悪いことは言わないから、早くここから逃げた方がいい」

「に、に、に逃げるって? 何が来るのか判っているのか!!」


 スパーダがレムリアに向かって叫んだ時。

 突然、前方から吹雪が発生しレムリアと4人を包み込む。

 まさかの事態に4人の反応は遅れたものの、ちょうど戦闘に位置していたレムリアは両手に持った2本の両手剣を前で交差して魔力フィールドを展開すると、吹雪の直撃を防いている。

 もしもむ彼女がフィールドを少し大きめに展開していなかったら、4人は一瞬で凍り付き砕け散っていたかもしれない。


「フロストドレイク。それも|野良地物《フィーチャー≫ではなく純粋培養。有瘴気濃度は7.6、危険度A+、逃げるならお早めに」

「な、なによ、貴方が何を言っているのか分からないわよ!! それよりも」


 レムリアの話している魔物の等級や有瘴気濃度は、一般的には通用しない。

 かつて、今から500年ほど前に王都魔道士協会が制定した魔物の分類法なのだが、それを詳しく調べるためのデバイスは今は現存数が少なく貴重品であるがために厳重に保管されている。

 結果、魔物の強さを測る方法は経験則一つだけ。

 そしてアクセルたちは、フロストドレイクなど戦ったことどころか出会ったことすらない。

 その無謀かつ無策ゆえ、メロディは魔力を都の中に集めると、それを光の矢に変換。

 姿が見えたフロストドレイクめがけて渾身の一撃を放った。


――キィィィィィィィィィィィィィィン……ポフッ

 その一撃は、フロストドレイクの体表面の自然発生している冷気の膜を貫通する事も出来ず、きれいにはじかれた。


「あのモンスターは、私たちが先に攻撃したのだから。だからドロップ品の優先順位は私たちにあるのよ、分かったらとっとと倒しなさい」


 リッチロードを討伐したレムリアにフロストドレイクを倒してもらい、ドロップ品はこちらでもらう。

 悪質な冒険者のよく使う手口であるが、ギルドカードに填めこまれている魔石が戦闘データなどを保有しているため、今レムリアがフロストドレイクを討伐したら横殴りとして登録される。

 もっとも、このシステムを悪用して稼いでいる不良冒険者も少なくないと判断している冒険者ギルドとしても、正当な権利があると訴えがあった場合はカードを確認して精査することが義務付けられている。


「うん、それじゃああとは任せた。私は別のフロストドレイクを探すから」


――トン

 そう告げて、レムリアは大きくバク宙して最高尾にいたロイのむさらに後ろに飛ぶと、来た道をそのまま戻り始める。


「は……はいぃぃぃぃぃ?」

「メロディの馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、あいつはどうするんだよ」

「し、知らないわよ、さっきの女に擦り付ければいいじゃないのよ」


 そう叫びつつ、高速で走ってくるフロストドレイクから逃げようと踵を返す4人であるが。

 やがてレムリアにも彼らの声は届かなくなった。


「……通路の幅が細くなるところまで逃げれば、あとは横道に入れば助かる。まあ、冒険者だから、自己責任で頑張って」


 そう呟きつつ、レムリアは先に進む。

 そして再び広い通路に差し掛かると、別個体のフロストドレイクを見つけてにんまりと笑った。


「必要素材はフロストドレイクの胆汁。一匹分でいいけれど、お肉がおいしいから少し狩っていく」


 チャキンと両手剣を二本構えると、先ほどとは違い一直線にフロストドレイクに向かって突っ込んでいくと、真横をすり抜けつつフロストドレイクの腹部に両手剣を突き刺し、さらに床板を大きく蹴って一直線に腹部を掻っ捌く。

 大量の血液と腹圧から解放された臓腑が体の横に噴き出し、フロストドレイクは甲高く泣き声を上げて転がる。

 さらに通過したレムリアが急停止してジャンプすると、フロストドレイクの後方から後頭部に向かって両手剣を二本とも叩きつける。


――ドシャァッ

 頭が三つに分断され脳漿と血が床に零れ落ちる。

 そして絶命したことを確認すると、ダンジョンに吸収される前に死体をアイテムボックスへと回収した。


「うん、この先がフロストドレイクの巣のように感じる。どうせダンジョンの瘴気から生み出された疑似生命体、狩りつくしたところでだれも困ることはない」


 両手剣を左右に振って血と脳漿を地面に飛ばすと、レムリアは次の獲物を求めてダンジョンの奥へと走っていった。



 

 



 

 


 

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