第11話・認めるもの、認めざるもの
ツシマ大陸・ビゼン王国。
この王都にある『王都魔術師学会』は、この国だけでなく大陸すべてで取り扱われている魔導具についての所有権利及び販売権のすべてを管理している。
遺跡やダンジョンから発掘されたすべての魔導具については、この王都魔術師学会の認可を受けなくては個人所有することは許されず、発見したものはすべて報告する義務が発生する。
これら魔導具の中でも、特に重要なものが『始原の民』が齎したといわれている
このうち
………
……
…
――王都魔術師学会
「それで、これが例の違法魔導具所有者のデータねぇ……」
王都魔術師学会の最高機関である『八賢者』、その定例会議の中で、先日キノクニ領から帰還したシャール・テンペスタの報告が行われている最中であった。
「はい。提出された証拠は全て本物であり、それらを取り扱っていたエリオンも、伝承に残る『黒のエリオン』本人に相違ありませんでした。こちらが本人を測定してきた魔力波長であり、最重要資料子に収めてあるエリオン本人の波形パターンと一致します」
かつての1000年戦争時の僅かな記録。
そこに残っていた魔導具に登録されていたエリオンの魔力波長は、今では『第ゼロ号特級聖遺物』として管理されている。
シャールが持ち帰った波形と聖遺物に登録されている波形が完全に一致しているのを見て、その場にいる賢者たちはため息をついたり感嘆の声を上げているものもいる。
「また、彼の手元には代魔術師学会最高責任者のロナルド・マクレーン直筆の書類が残っていました。王都魔術師学会の正式書面であり、しかも魔術ペンを用いた正式書面。魔力印章からもロナルドメマクレーン本人のものと一致しています。魔力印章および魔力波形については偽造することができないものですから、すべての証拠はそろったということになります。では、私からの報告はこれで以上です」
ビシッときれいに踵を返すと、シャールは自分の席に戻り着席する。
「さて。これで黒のエリオンの店舗経営および魔導具作成については、私たちが口をはさむことができなくなりました。彼の経営しているレンタルショップについては、ここの書庫にある初代ロナルド・マクレーンの報告書及び登録証からも確認できています。そのうえで、彼をどう取り扱うべきか、採択を行う必要があります」
議長であるアイン・フェルキアが穏やかな声で残りの賢者たちに問いかける。
すると、一人の賢者が手を上げた。
「ココノエ卿、なにか?」
「黒のエリオンを王都に誘致できませんか? 狩りの技術があれば、沖合に存在する『神の塔』の調査を行うのもたやすいのではないでしょうか。あの1000年動乱以後、神の塔の周辺には『不変なる壁』が発生し、何人たりとも立ち入ることができなくなっています。今こそ、あの塔の秘密を調査するチャンスであるとは思いませんか? それこそ我ら8賢者の権利を行使してでも」
拳を振るい熱弁するココノエ卿だが、何名かの賢者たちは呆れた顔で彼を見ている。
そもそも、神の塔の調査を推奨しているのはココノエ卿本人であり、黒のエリオンの力を利用して自分の権利や立場をより強固にしようと考えているのが見え見えなのである。
そして賢者の一人オクト・ノーマという女性が手を上げると。
「ココノエ卿、黒のエリオンについてはいかなる権力もその効果を発生しないと、古代書紀に記されています。迂闊に彼を取り込もうならば、西方の竜王や北方のハイエルフの女王を敵に回すとは思いませんか?」
「そ、それは……ええ、そうですね、発言を撤回します」
人間族にとっては、強靭な力を持つ竜族や精霊の申し子と歌われているハイエルフとは友好的に付き合っていかなくてはならない存在。
彼らが本気を出して人間族に敵対しようものなら、この大陸自体が海の中に沈むこともあるのだから。
だが、対等の立場であり友人として接している限り、彼らはよき隣人である。
そんな二つの種族の滅亡を防いだのも、黒のエリオン本人なのであるから、彼を利用したとなるとただではすむはずがない。
「では、結論が出たようです。我らビゼンの8賢者は『黒のエリオン』に関しては不干渉とします。なお、彼が協力体制を求めてきた場合は、初代ロナルド・マクレーンの言葉に従い、等価をもって対処することとします。意義のあるものは起立を」
アインの言葉に、その場で席を立つ者はいない。
「では、黒のエリオンについてはこれで終了とします。シャール・テンペスタ一級魔導官、正式書面にてこのことを黒のエリオンの元へ。なお、書面を届けたのちは、キノクニ領にてエリオンの監視を行うように」
「拝命します」
シャールは立ち上がり、右下腕を水平に胸元に当ててて宣言する。
そして議会場を後にすると、ようやく緊張の糸がほつれたのか、ため息を一つ。
「はぁ……左遷よね、絶対に……でも、生きた伝承である黒のエリオンの監視ということは、つまり出世街道にも繋がるような気もしますから……」
この決断が良いのかどうか、シャールにはまだ分からない。
それでも、息が詰まるような窮屈な王都で勤務するよりも気が楽であると自分を納得させると、急ぎ荷物をまとめてキノクニ領へ向かう準備を始めることにした。
〇 〇 〇 〇 〇
――キノクニ領・オールレント
「ありゃ、魔法薬の在庫が切れたか」
いつものように開店前の準備をしていたエリオンだが、販売用の魔法薬の在庫が切れたことに気が付いた。
レントオールでは魔導具のレンタル以外にも、下級魔導具や魔法薬といたものは一般販売している。
その中でも、特に需要があるのが『強回復薬』とよばれている魔法薬である。
なにせ、生きてさえいればすべての怪我を修復することができ、切断した四肢もつなぎ合わせることができる代物である。
さすがに失った部分の完全再生は不可能であるが、現代の世界においてはエリオン以外にこれを作り出すことはできない。
唯一、古い廃墟やダンジョン産の強回復薬は存在するが、それらは大変高価なだけでなく、貴族たちがこぞって買い占めているのが現状。
ダンジョンに入る冒険者たちは、グレードの低い魔法薬(中回復薬)ぐらいしか手に入れることができないという。
ちなみに『低回復薬』は本草学を学んだ薬師なら作り出すことができ、もっぱり冒険者たちがいう魔法薬はこれを指すことの方が多いという。
「素材はありますか? もしも切れているのでしたらダンジョンに潜って取ってきますが」
「ああ、ちっょと待って、今、調べてみるから……」
――スラァァァァァァァァァァァ
右手を横に振りぬいて、アイテムボックスの在庫リストを展開する。
そこに記されている一覧から必要な素材を確認してみるが、やはり一番重要なものや触媒にあたる素材は数が少ない。
「う~ん、これだと作れても一本か二本だなぁ……レムリア、ひとっ走りダンジョンに潜って来て、素材を取って来てくれるか? これが必要な素材のリスト。上の二つは絶対必須でそれ以外はあればありがたいってところで」
カキカキとメモを取り、それをレムリアに手渡す。
「了承した。3番倉庫の鍵を貸してほしい」
「あれ? それはレムリア用の倉庫だから、自分で管理していなかったか?」
そうエリオンに言われて、レムリアは頭を傾げる。
「鍵は私……が、そう、鍵を指しっぱなしだった。準備ができ次第、いってくる。帰りはいつになるか分からないけど、大丈夫?」
少し心配そうに問いかけるレムリア。
この店には護衛や警備員などが存在していないため、万が一にも押し込み強盗とかが入ってきたら大変である。という一般的な心配をしているのであるが、エリオンはニイッと笑って一言。
「大丈夫だ、万が一の時は閉店するからな」
「それならいい。では、いってくる」
軽く手を振って、レムリアは入り口から外に出ていった。
それを見送ってから、エリオンは来客があるまで残った素材で魔法薬を作ることにした。
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