第10話 同乗者
馬車は今日も疾駆する…こと十日目。
周りは平原と林の島が見え始めている。
(そろそろ、
最初の宿場町を出立する日、ティーノが見送る際に言っていた事を思い出すナオキ。
「今の景色が、黄色から緑色に変わり、林の島がポツポツ見え始めたら、終着点です。
くれぐれも奥様方の護衛をお願いしますね。」
その言葉を残し、ティーノは、以降の宿場町では現れる事は無かった。
不思議なことに、馬は道を違えることなく、南西にある城塞都市ツィベネに向かって馬車を牽引していく。
そして、要所の宿場町では宿の手配も行き届いていた。
(ったく、あの燕尾服おじさんは、どこまで優秀な執事さんなんだか…。)
夕日が眩しく、丘の向こうに宿場町の影が見え始める頃、道端を歩く人影が一つ見えた。
「ねぇねぇ、おにいちゃん。」
「ん、どうした?エル。」
今日は、御者台にナオキとエルが座っている。
「あそこ歩いている人、どこ行くのかなぁ?」
「さて、どこだろうねぇ。」
「迷惑じゃなければ、一緒に乗らないかなぁ。」
「エルは、迷惑じゃないのかい?」
「おかあさんが言ってるでしょ、『困っている人は助けなさい!』って。」
「それもそうだな。」
手綱を引き絞り、馬車の速度を落とし、人影の近くで馬車を止める。
そして、この時初めて、人影がローブを纏っている事に気付く。
「こんにちは。」
「…。」
エルの声に、御者台の方を見上げるローブの人。
その時、ローブのフードが首元に落ち、薄いブロンドの下には皺を讃えた老婆の顔があった。
「僕達、この先の宿場町に行くんですけど、ご迷惑でなければ、乗って行かれませんか。」
老婆はコクリと頷いた。
ナオキは御者台から降りると、客室のドアを開き、アルとファフママに事情を説明する。
ファフママが頷いたことを確認し、老婆の下へ。老婆の手を携えると、客室へ老婆を乗せる。
「すまないが、先の宿場町まで乗せてもらいますよ。」
「はい、短い旅かも知れませんが、お寛ぎください。」
老婆は会釈をし、ファフママもにこやかな顔で会釈をすると、アルも会釈をする。
「良く躾けられた子達と、優しい御者さんですね。」
「はい、仰る通りです。
この子達に、私も幾度となく救われてきました。」
アルは真っ赤になり、その様子を見ながらコロコロと笑うご婦人たち。
「あなた自身の志しと、自己を律する意志も良い影響を与えているのでしょうね。」
今度は、ファフママが真っ赤になり、アルと老婆がコロコロ笑う。
笑い声につられて、御者台の窓から客室に首を突っ込むエル。
「おねぇちゃ~ん、笑い声が聞こえるんだけど、どうしたの?」
その姿に、今度は客室の三人が大笑いを始める。
「もぉ~~~、なぁ~~にぃ?なんなのぉ~~」
事態を理解できず、苛立つエル。
(なんだか、賑やかな旅になって来たなぁ。)
一人肩をすくめるナオキだった。
◇ ◇ ◇
宿屋の食堂では、いつもの顔ぶれ+1の団体が食事をしている。
料理も半分ほど消化されたところで、ローブの女性がゆっくりと話し出す。
「自己紹介が、まだだったねぇ。
私はクリスティーヌ・ワルキュリー。
クリスと呼んでもらえると嬉しいわ。」
「私は、ファフュートブルーマ。
ファフとお呼び下さい。
こちらが姉のアレグリッサ、こちらが妹エレノアール。
向かいに座っている彼は、ナオユキさん。
娘たちの専属教師です。」
「アレグリッサです。
アルと呼んでください。」
「エレノアールです。
エルって呼んでね!」
座ったまま、姉妹がそれぞれ頭を下げる。
「ナオユキと言います。
ナオキで通っています。」
ナオキは立ち上がって会釈をする。
「ところで、ファフ様は、どちらまで?」
「ツィベネを目指しています。
知り合いからの紹介もありまして…。」
「そうかい。
では、終点まで私も同乗させてくれないかい?」
「ええ、どうぞ。」
「やったぁ~~!」
クリスが同行してくれる事になり、燥ぎだす姉妹。
ふとナオキがクリスの耳を見て質問する。
「クリスさんって、エルフですか?」
「エ、エルフ?」
びっくりする、母親と姉妹。
「良くご存じだね、ナオキさん。
ナオキさんは、ひょっとして転移者かい?」
久しぶりの単語にびっくりするナオキ。
「は、はい…そうみたいです。
クリスさんはテンイシャに会われた事はあるのですか?」
「過去に何人か会ってるよ。」
「そ、そうなんですか。」
席に座り、放心状態になるナオキ。
(居たんだ、俺のように、この世界に墜とされた人たちが…)
クリスはゆっくりと、ファフの方に近づき耳打ちをする。
「この子はどこで拾ったんだい?」
「娘たちが、丘…スノール男爵領の北にある丘陵で、空から落ちてきた所を連れてきたみたいなんです。」
「西シプロア法国の近くね…。
ありがとう。」
「クリス様、テンイシャというのは?」
「別の世界から、この世界に放り込まれた人間。
神の気まぐれか、この世界で誰かが召喚したか…。」
「まだ、子どもですよ!」
「そうだねぇ。
…気にはなるけど、どうしたものかねぇ…。」
二人の女性は深刻な顔をしていた。
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