第6話 住むと都?

 手島直之、十七歳!

 用心棒始めて二ヶ月が経ちました。


 おいしいご飯と、きれいな奥さまと可愛い姉妹に囲まれて、穏やかな日々を送っている。

 まぁ、このままだと風来坊になってしまいそうなので、姉妹たちの算数の教師を引き受ける事にした。

 幸か不幸か、かけ算を教えた事をきっかけに、お抱え教師に転職クラスチェンジ出来たんだ。


 ◇ ◇ ◇


 もちろん、用心棒になれるかを確認するため、冒険者ギルドに行ってスキルの確認も行った。


 姉妹も冒険者ギルドに付いてきて、各々能力の確認をしてしまった。

 俺は舞踏家僧侶モンクというクラスを取得しており、無敵の肉弾戦が出来る…らしい。

 たしなむ程度にやっていた、総合格闘技倶楽部かくとうぎダイエットが役に立ったのかもしれない。


 ちなみに、

 アルは聖騎士、エルは薬師のクラスを取得している…らしい。

 本人たちには、ほとんど自覚が無かったらしく、クラスが分かったことではしゃいでいた。


「おねぇちゃんは、聖騎士さまなんだぁ~。すごぉ~~い。」

「ちょ、ちょっと、エル声が大きい。」


 残念ながら、年齢制限で、俺たちは冒険者にはなれなかったが、訓練所を紹介された。

 まぁ、興味があれば行くことにして、冒険者ギルドをあとにした。


 姉妹は街中を歩くことが無かっただけに、見るものすべてが真新しい。

 ついつい燥いでしまうエルをどうにか抑えるアルも、あちらこちらとフラフラしていた。

 俺は俺で、先々の生活を見越して、商品や品揃え、相場などを調査していた。


「ねぇねぇ、おねぇちゃん。これ美味しそう。」

「そうね…。ナオキさん、これを頂戴!」

 姉妹が平たいパン菓子を売っている屋台で、パン菓子を欲しがっている。


「はい、はぁ~い。」

 屋台で必要な支払いを済ませ、姉妹にパン菓子を渡す。


「ありがと!」

 声をそろえ、パン菓子を受け取ると、家に向かって歩き出す姉妹。


「可愛い子達だねぇ。妹さん達かい?」

「えぇ、まぁ。」

 屋台のおかみに声をかけられ、返事に窮する。


「ところで、あんた達見ない顔だけど、どこから来たの?」

「スノール男爵邸です。」


 おかみの顔が見る見る暗くなっていく。

「すいません、僕は、お抱え教師なんです。あの子たちの…。」

「悪いことは言わない、あの家とは縁を切ることだ。」

「と言われますと…。」

「呪われているのさ…。

 それも、スノール男爵自身からもね…。」

「からも…という事は?」

「まぁ、噂話なんだけどね…。

 地元の人が何人か入ったきり帰ってこなかったってね。」

「本当ですか?」

「あくまでも、噂話さね。

 ただ、スノール男爵の妬みがあるのは事実よ。」


「おにぃ~ちゃぁ~~ん!」

 おかみと話していると、エルに呼ばれる。


「貴重な話をありがとう。」

「気を付けるんだよ。」

 おかみに礼を言って、エルたちの下に向かった。


 まぁ、この二ヶ月一緒に生活していたが、怪しい事は何もなかった。


「あれ??」

 俺は気付いてしまった。

 邸宅には、三人しかいない。

 そして、お客が来たという記憶もない。


 たまたまなのか?

 なにかの意図が働いてるのか?


「ファフママと話してみよう。」

「え、ママに何の話?ひょっとしてデートのお誘い?」

「ちょ、エル!」

 エルにたしなめられるナオキ、そしてエルをいさめるアル。


「ナオキさん、おかあさんをいじめないで下さいね。」

「お、おぅ。」

 アルに諌められると、グーの音も出ない。


 夕食後、姉妹が寝静まるのを確認し、ファフママと話すことにした。


「…そうですか。」

「すいません、この世界の事ほとんど知らないばっかりに…」

「いいんですよ、あの子達も、街歩きが余程うれしかったのか、ず~~と話してたし。」

「ですね。」

 夕食中の会話は、騒々しいほど賑やかだった。

 冒険者ギルドへ行った事や、街中で美味しいパンを食べた事…。

 姉妹にしてみれば、大旅行以外の何物でもなく、一つ一つのイベントが冒険譚なのだ。


「そろそろ、隠居生活も終わらないといけないのね。」

 ため息をつくファフママ。

 街中で聞いた話を、肯定するでも否定するでもなく、ファフママは一つの答えを導き出した。

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