第10話 謁見
「主よ、お客人をお連れしました。」
アキラ王の前で膝をかがめ
「良く来られた。」
「この度のアキラ王のご厚意に、深く感謝いたします。」
セラが挨拶を述べる。
どうにも、ここ一番の肝の据わりは、彼女がピカ一なのかもしれない。
「亜人、獣人が多数を占める街は、相当なショックではなかったかい?」
「はい、驚きはしました。
が、街の賑わいと穏やかな顔の方が多く、むしろ、おとぎ話の世界に感動すら感じました。」
「ははは、おとぎ話ときたか。」
「失礼しました。」
「ああ、こちらこそ失礼した。
あなたたちは亜人、獣人に会ったことは無かったんだね。」
「はい、その通りです。」
「君たちの国にも奴隷制度は残っているのかな?」
「はい、奴隷制度は残っていますが、犯罪者の
「犯罪者を奴隷に…か。」
「はい、その通りです。」
「ふむ」
「こちらには奴隷制度がないと、クロウ…クロムウェル様より伺いましたが。」
「いや、犯罪者を奴隷にする制度は取っている。」
「我々と同じなんですね。」
「そのようだな。」
しばし時間が流れる。
「ところで、宿に泊まっての感想はどうだった?」
「はい、白い壁が大変綺麗な屋敷でした。
靴を脱いで部屋に入って行く事も初めてでした。」
「ご飯もおいしかったなぁ…エールが出ないのが残念だったけど…」
「露天風呂は至高でした。
湯船に
「二人とも、ボロが出るからしゃっべるなぁ~~!!」
砕けた感じでしゃべりだす二人に、赤面したセラが怒鳴り散らす。
「うわっはははは」
「も、申し訳ありません。」
王の大笑いに耳まで赤くなるセラ。
ロムとマックはすっかりにこにこ。
「よいよい、正直なことは良いことだ。」
王は玉座かるゆっくりと立ち上がり
「私も昔は、君たちと同じような態度で、国王どもと話したものさ。」
「ですよねぇ、王さまも昔は有名な冒険者だったそうですねぇ。」
「おぉ、そうじゃ!こう見えて私もなぁ…」
ロムの呼び水に王が乗ってきたところで
「うっおっほん!!」
クロウの咳払い
「…」
固まる三人と王。
重臣たちも話の脱線具合にハラハラしていたらしくクロウの咳払いで胸をなでおろした。
クロウを嫌そうにみる王だったが、促されるままに話を進める。
「ところで、貴国のサロメ王女より応援の要請を受けているが、具体的な話は聞いているか?」
「主よ、それでしたらこれに。」
クロウは、バルトから受け取っていた書状を魔王へ渡す。
「ふむぅ」
書状を読み終わりセラを見やる王。
「ここに書かれているのは事実か?」
「バルト…第二近衛騎士団長がクロムウェル様に渡していた書状であれば、間違いはないかと思います。」
「そうか。」
王はしばらく考え込んだ後、重臣の一人を呼び寄せ二言三言話をする。
話が終わると重臣は王の間を抜けていった。
「偵察の手練れと拠点防衛の依頼だったな。
すぐに手配をかけるが、もう二日ほど時間が欲しい、構わぬか?」
「はい、よろしくお願いいたします。」
三人は膝をつき頭を下げる。
「それでは主よ、彼らを宿に送り届けます。」
「アキラ王、我々はこれにて失礼いたします。」
再び、三人は膝をつき頭を下げる。
「うむ。そなた達も大儀であった。」
玉座に腰掛ける王。
そして王の間を出ていく三人の冒険者。
「ところでセラ?」
「ん、どうしたのロム。」
「お前、あの書状の中身って知ってたの?」
「そんなの知ってるわけないじゃない!」
「ぃぃ…」
セラの答えに固まるロムとマック。
「勢いよ、い・き・お・い!」
「オイオイ」
セラの答えに、さらに固まるロムとマックであった。
「存外、女性というのは喰えない御仁が多いのでしょうか…」
誰に聞かせるわけでもなくクロウがつぶやく。
「そうかもしれないね、クロウ。」
玉座に座っている王がにやりと笑う。
彼の眼前にはすでに二十名程度の忍び装束の部隊が待機していた。
「よし、お前たちは東シプロアとの国境に展開し諜報活動を開始してくれ。
明後日以降にはスフラン王国へ別動隊を派遣する。
両国国境付近に通信連絡員を配置し、連携を密に取りながら東シプロアの工作を妨害せよ。」
「はっ!」
返事とともに忍び装束の部隊は姿をくらませる。
「さて、賽は投げられた。」
王は立ち上がると窓の外を見やった。
何騎かの飛竜が北西の方角へ飛んでいく姿が彼の目に映る。
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