第74話 大内や陶との決戦に向けて調略をすすめることにしよう・情報収集は大切だ

 さて、毛利元就が内心でどう思ってるかは分からないが毛利は島津の傘下に入った。


 しかし、大内を担ぎ上げてる陶や尼子を戦わずに臣従させるのは無理だろう。


 毛利はまだ勢力が小さく、毛利家は大内の家臣の国人でしかないが、大内は室町幕府創設以来の有力大名であったし、かつての尼子は京極の国人に過ぎなかったとしても、現在は出雲・隠岐・備前・備中・備後・美作・因幡・伯耆などに勢力を伸ばす日本全国でも屈指の勢力の大大名だ。


 俺は臼杵鑑速・戸次鑑連・吉弘鑑理・角隈石宗・伊集院忠朗・又四郎忠平や又七郎らを呼んで大内や尼子の配下の国人家臣たちの情報を集めさせるとともに調略をすすめるように指示することにした。


「毛利は降ったが陶や尼子が島津に降ることはあるまい」


 臼杵鑑速は頷いて言う。


「大内とは大友や少弐も長年争っておりましたからな。

 同じように認識されております島津にくだることはそもそもありえませんでしょうが、陶は朝敵とされたこともございますし和解をしようとする必然性もございませぬな」


 俺はうなずく。


「うむ、そして争うのであらば頭や武士の首を取って一気に相手の勢力を弱めた後に傘下に収める方法もあるがあんまりそれはやりたくはない。

 俺達は伊東家との戦いの後日向の統治に苦労したからな」


 戸次鑑連は頷いて言う。


「土地を治めるものがいなくなれば統治が難しくなるのも当然ではございますな」


 俺はうなずく。


「なので、陶との決戦の前に大内の家中においても陶を支持しておらぬものを調略しておきたい。

 まずは長門守護代の内藤興盛(ないとうおきもり)、内藤隆春(ないとうたかはる)親子。

 彼らは同格である陶の下につくのを良しとしていないはずだ。

 杉重輔(すぎしげすけ)も杉家はもともと陶家とは対立していたから陶の下にいるのは我慢できなかろう。

 江良房栄(えらふさひで)も陶と同じ大将格であるのにその下につくことに不満を持っておろう。

 石見の吉見正頼(よしみまさより)や小笠原長雄(おがさわらながかつ)も我が方の傘下に収めておくべきであろう。

 この際に問田亀鶴丸殿を確保しておくのも重要であるな」


 吉弘鑑理が頷く。


「そうでございますな。

 先ずは長門や石見を調略するのが良うございましょう。

 そうなれば中国への足がかりも万全となりますゆえ。

 大内の当主としての正統性を示すに問田亀鶴丸殿を掲げるのは重要でございますな」


 俺はうなずく。


「うむ、また備中であるが三村家親(みむらいえちか)は備中守護代の庄氏と反目しつつあるゆえこれを取り込みたい。

 また西出雲の杵築大社と吉田の国久など新宮党には尼子晴久が新宮党を粛清しようとしていると伝えて反乱を起こさせそれを支援しておくのが良いだろう。

 その後島津に従うならよし、従わぬなら尼子本家と潰し合ってもらう」


 角隈石宗が頷く。


「それが良いでしょう。

 しかしながらよくそこまでご存知でいらっしゃいますな」


 角隈石宗は大友の諜報を引き受けてもいたらしい。


 不思議に思うのも当然かもな。


「いろいろ情報を集める伝手を俺も持ってるさ。

 でなければ戦には勝てんからな」


「なるほど、それもそうですな」


 まあ、俺の場合は未来知識とかもあるのでズルではあるのだが、島津の情報収集に使う相手などはいろいろだ。


 意外かと思うが公家・近衛家などとのつながりがあることで京などの情報が入ってきたりする。


 これは源頼朝が鎌倉にいながらも京の状況を常に把握していたように貴族とのつながりというのは意外と馬鹿にできない。


 現在では大宰府や国府も掌握してるしな。


 また、根来寺や興福寺、稲荷神社、住吉大社などの寺社つながりで真言の修行僧や四国の遍路、山岳信仰の修験者、渡り巫女などの見聞きした情報も手に入るがこれも馬鹿にできない。


 四国での現在の本山や一条の家臣だったものの一部が不穏な動きを行っていることは遍路や商人経由で入っているのだ。


 そしてこういった歩いている神仏に関わりのあるものは意外と警戒されないのだよな。


 あと渡り巫女と言っても別に武田の専売特許ではないぞ。


 渡り巫女と同じように傀儡女や傀儡子の一座などいわゆる旅芸人なども呼び寄せて芸を見たあとで全国の見聞を聞いたりもする。


 坊津や博多の商人や大きめの武家に紹介状を持たせて下女や女中として入り込ませ、御用商人を仲介して情報を得ることもある。


 その辺に茣蓙をしいて頭を下げてる物乞いの中にも銭を与えて周りでかわされてる会話を伝え聞かせることなどもしている。


 忍びというと特殊な技術を持っていて屋形や城に潜入するイメージが強いだろうが、実際の諜報員というのはどこにでもいるごく普通の目立たない存在であったりする。


 実際坊津などの唐人や博多や唐津の朝鮮人などは諜報員である可能性も高い。


 かと言ってそれらをすべて退去させたり殺すわけにも行かぬのが頭の痛いところでもあるし、こちらが得た情報は他のものにも回ってる可能性はある。


 こういったものを使って二重スパイに仕立て上げることも重要ではあるな。


 明と関係を改善する前に大内が灰吹法などを手に入れたようにコークスと水力ふいごを使った高炉の技術やパドル炉の技術なども金にあかせて手に入れておきたいところだ。


 意外かも知れないが鉄などに関する技術は中国は西洋のはるか先を行っていたんだよ。


 最も宋の時代以降は技術は停滞していたようだけど。


 それから俺は弟たちに告げる。


「俺達が陶を攻めた時にこそ本山が動き出すであろう。

 歳久と協力し反乱に加わったものは徹底して殺すようにせよ。

 島津に反抗するとこうなるという見せしめが必要だ」


 又四郎忠平がいい笑顔で応える。


「うむ、任せておけ。

 徹底的にたたきつぶしてくれようぞ」


 又七郎も頷く。


「戦場を知る機会を与えてくださりありがとうございます。

 兄上達の名を汚さぬよう奮闘いたします」


 元服もおえぬうちに7歳での初陣は早すぎるように思うかもしれないが、俺の兄貴分である尚久叔父上は同じく7歳で初陣を飾っておるのだ。


「うむ、又七郎は無理せんでも良いぞ。

 だが戦場に慣れておく必要はあるからな。

 あまり気負わずに行ってくるのだ」


 さて、二正面作戦といっても陶と本山をあわせた石高と島津の押さえてる石高では圧倒的に此方が上だが、楽観はしないほうが良かろう。


 たった一度の敗北で滅んだものはたくさんおるからな。

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