【聖女狩り】 地下迷宮最下層でパーティーを追放されたカイン。無事に生還したが、元メンバーの美少女僧侶と魔法使いの借金を肩代りするハメになった。二人を借金奴隷にしたカインは聖女狩り事件に巻き込まれていく

花咲一樹

第1話 パーティー追放

「炎聖剣 焰煌斬ッ!!」


 炎の剣聖が使う絶技、焰煌斬でS級ダンジョン最下層モンスターにして災害級モンスターの巨大なデビルスパイダーを炭と化した。


 俺の後ろで俺を除くパーティーメンバー全員が倒れている。


 パーティーが全滅寸前で、俺のギフト『サバイバル』によって最強級剣技が発動した。それにより最大の危機を何とか逃れる事ができた。


 流石さすがは未踏破危険度レベル10、最難関級ダンジョンのラスボスだ。A級パーティーの俺達には荷が勝ちすぎていた。





「カイン、ここでお前はクビだ」


「はっ?」



 マスサス、何を言ってんだお前は?


 俺が冒険者になって4年。13歳で村を出て冒険者になり、14歳で入団した『黄昏の流星』。パーティーを立ち上げたリーダーのマスサスに誘われ3年の月日を共に過ごした。


 今、俺達は危険度レベル10の最難易度S級ダンジョンの最終フロアで、俺が迷宮ボスを倒したばかりだ。そして目の前にはラスボスがドロップした金銀財宝が山の様にある。



「お前も分かっていると思うが、S級ダンジョンをクリアーした俺達は次のステージに上がる」


「そうだな」



 マスサスの夢はS級冒険者になる事だ。『黄昏の流星』を立ち上げた時からそう語っていた。だから次のステージはS級パーティーになる事だ。


 そんな事は百も承知だ。運が良かったとはいえ、未踏破のS級ダンジョンをクリアーしたんだ。パーティーにとって大きな加点になる。


 そして俺が近々クビになる事は予想出来ていた。正論で言えばパーティーバランスと安定性の問題だ。


 『剣豪』のスキルを持つ剣士のマスサス、タンク役としてガタイのデカい重装備の聖騎士ハルバー、魔法使いの天才少女リアナ、聖女候補の一人である僧侶のレミーナ、そして近距離から遠距離までこなせる魔法剣士の俺カイン。



「パーティーバランス的にはシーフかレンジャーを加入させたい」


「だったら俺じゃなくて、ハルバーでもいいんじゃないか? 今だって俺のギフトで生き延びたんだ。俺を切る理由が分からない」



 聖騎士のハルバーは半年前に入った新参だ。パーティー歴の長い俺を外す理由は違う所にある。



「えぇぇぇ。ハルバー様が辞めてしまうのですか~。な、なら、わ、私も……」



 僧侶のレミーナがしおらしくハルバーの腕にしがみ付き、ハルバーについて行くと言う。



「き、君に抜けられては困る!」



 そんなレミーナをマスサスが引き留める。レミーナのとんだ茶番だ。止める気なんか更々無い。ハルバーは腕にしがみ付いたレミーナを見て「デヘヘ」とニヤけてやがる。これ以上このパーティーに俺がいても良いことは無いだろう。



「俺が抜ける事が何を意味しているか、分かってて言っているんだよなマスサス?」


「分かっているさ。しかしお前のギフトは不安定すぎる。今も一歩間違えればパーティーは全滅していた」



 ギフト。冒険者の多くはギフトと呼ばれる神からの力を授かっている。ギフトには当たり外れがあるが、俺のギフトは微妙なギフトだった。


『サバイバル』


 それが俺のギフト名だ。俺以外にこのギフトを持っている人間を俺は知らない。所謂いわゆるユニークギフトってやつだ。


 『サバイバル』のギフトは書いて字の如く、様々な危機から、が生還する為に発動するギフトだ。そして命の危機レベルによって様々なスキルや魔法が使える。


 しかし、このギフトは俺の命を守る為に発動するギフトで、パーティーメンバーの命を守る為には発動しない。そういった不確定要がある為に、他人からはギフトとしての安定感は乏しく感じるようだ。


 実際には俺の幸運値も上昇しているので、ワンダリングモンスター等の戦闘数や奇襲等にも影響している。パーティーの生存率を上げている事はマスサスも理解している筈なんだが。


 そこで本題だ。マスサスの正論はどうでもいい。問題は『今』、除隊を言われた事だ。



「はあぁ〜。マスサス、友人として忠告する。リアナとは別れろ」


「ふざけた事を言うなッ!」



 リアナは天才魔法使いにして美少女。南領を納めるレスタール侯爵のご令嬢で、魔法学院も首席で卒業。何で冒険者やってんだ? って不思議感が満載だが、はっきり言って性格は最悪だ。


 その贅沢ッぷりには呆れて言葉も出ない。実家に帰れば幾らでも贅沢出来るのだから帰って欲しい。まあ、リアナは実家の金を使いすぎて半勘当中みたいだが。しかし、それに巻き込まれているマスサスが可哀想だ。


 マスサスは所謂いわゆる世間で言う所の貢君みつぐくんだ。リアナからどんなご褒美をもらっているのか知らないが、マスサスは全財産を投げ打ってリアナに贅沢な暮らしをさせている。俺の情報ではマスサスは、かなりの借金までしているようだ。



「落ち着けマスサス。お前、このままだと身を滅ぼすぞ」


「だからでお前を首にするんだ!」



『だから』……か。


 目の前にはラスボス報酬の金銀財宝の山。『黄昏の流星』は昔から報酬は均等山分けにしている。つまり、俺が今クビになれば四人でこの報酬を山分け出来るって事だ。


 違うな。マスサスとハルバーの金はリアナとレミーナに流れる訳だから、二人で山分けって事だ。


 やれやれ。


 そしてそれは、俺に対する死刑宣告だ。この最下層からの単独帰還は不可能にちかい。3年間を共にした俺よりも女を取るか……。



「はあぁ~」



 溜め息を付いて聖騎士のハルバーを見る。コイツも悪女のレミーナに騙されている口だ。レミーナが聖女候補とは聞いて呆れる。


 レミーナは毎晩毎晩、高級なお酒を飲み明かす酒乱ぶり。先日は1本100万ゴールドもするビンテージワインをラッパ飲みしている姿を見てしまった。勿論その超高級ワインはハルバーの貢物だ。ハルバーもマスサス同様に多額の借金が有るらしい。


 リアナとレミーナは金銀財宝を前にして、高級ブランドのアレを買おうだ、ビンテージワインのアレを買おうだ、俺の事は眼中に無く騒いでいる。


 確かに単独帰還はかなり厳しいだろうが、何だか面倒くさくなった。



「分かった、出てくよ。達者でな」



 荷物を担ぎ、フロアの出口に向かい、背中越しに片手を振る。しかし後ろでは俺の事など気にせずにマスサス達はお宝に群がっているようだ。


 マスサスはあんなヤツじゃ無かったんだが、悪女に捕まるとああも変わってしまうものなのかね。


 最終フロアの扉を出た所で、俺は壁越しに中をうかがう。アイツらはマジックバックにお宝を必死に詰め込んでいる。


……。

…………。


 お宝を仕舞い込み、俺が倒したデビルスパイダーから魔核を取り出すと、アイツらがこちらに向かって歩いてくる。俺は壁の隙間に身を隠してやり過ごした。ホクホク顔のマスサス達は何の警戒もなく通り過ぎて行く。



「アホか?」



 冒険者としてダンジョン踏破の最大の恩恵をアイツらは取らずに去って行った。金の亡者となったアイツらはもう冒険者じゃ無いのかもな。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る