第5.1話 安全は確認しよう
フユたちが渡河地点を超えた後、その背後を付ける者たちが3人いた。ハンチング帽につぶれた革靴、白い2本線の入った「アディオス」のジャージ。
酒場『ゴプニク』でウララに蹂躙されたチンピラ3人組だった。
「へへ、行ったみたいだな、兄弟、後をつけるぜ」
「まったくちんたらと、さっさと渡ればいいものを」
「兄者の言うとおりだぜ、あいつら、ブルってんじゃねえのか?」
たかが川一つわたるのにグズグズして、一人づつ渡っていくなんて、肝っ玉の方はずいぶんと小さいみたいだな、とリーダーは笑った。
しかも真っ直ぐ進まないであっちへ行ったり、こっちへ行ったりとうろうろと……まっすぐ歩くこともできないのかね?
こっちがペースを落とさないと追いついちまいそうだぜ。
「よっし、追いかけんぜ野郎ども」
俺たちは川岸に近づくと、3人でまとまって川の中を進む。中ほどまで進んだところで急に上のほうから撃ち下ろされた。
奇襲か、とリーダーが舌打ちする。弾は狙いが甘いのか、パシパシと水面を叩くだけで当たりはしない。
「あっちだ」と、舎弟が指さした方を見ると、廃墟の一室から銃炎が見える。遠くてよくわからないが、野盗ではなさそうだ。きっと銃を持ったなれ果てに違いない。まともな奴ならもっと当てる。
ちっと舌打ちして銃を向け、銃炎の見えた方に撃ち込む。数秒で30発の弾丸を打ち切ってリロードに入る、が、ここで空マガジンを捨てると流されてしまう、弾帯に戻そうとするが、水が邪魔してうまくできない。
「クソ!先に渡っちまった方が良い!」
ここでモタモタするくらいだったらと、3人で走って対岸に抜ける。俺は都合よく遮蔽物を見つけたので、これ幸いと走りこもうと踏み出したら、空と地面がひっくり返った。その理由は吹っ飛んだ脚を見てわかった。地雷だ。
――ああ、あいつらはこれを避けてたのか……。
舎弟は足の吹っ飛んだ俺を見て、ボケっと立ち
あとに残ったリーダーはどこだ?いた、こっちに向かってくる、俺を拾ってくれ、頼む!
奴は俺の横をすり抜けると北の廃墟の方へ逃げ込んでいった――クソッタレ!
俺を助けるために俺の方に来たんじゃない、地雷が爆発した後なら、もう無いかもしれないからこっちへ来たんだ。
俺は突撃銃に弾を込めなおすと、薄情な奴の背中に照準を合わせた。だが引き金を引く必要はなかった。
割れたガラスの照準器には、なれ果てたちに引き倒され、抵抗したまま引きちぎられ、肉をまき散らすリーダーの姿があった。
ああ、そうか、銃声と爆発音に引き寄せられたのか、あれだけ撃ったものな――
そして、はたと気が付いた。
そうか……川の中で死んだら流されちまうから、最初は狙いが甘かったのか。
この地雷は保険だ、
で、俺たちが食われた後は、なれ果ては腹いっぱいで襲われることもない。狙撃手は時間をかけてゆっくり残り物を漁れる。頭がいいな、畜生め。
弾倉はあと一つしか無い。男は初めて、なかなか死ねない自分の体を恨んだ。
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