八代奏太の鬱憤

第2話出来損ない

「どうしてお前は何をやってもダメなんだ!」


 高校一年生が始まった最初のテスト。そこで僕は、お世辞にも良い点数を取ることができなかった。

 平均点に毛が生えたような、その程度の点数しか……。

 結果的に今、父親からの憤りを思いっきりぶつけられている。


 そこまで怒られるような点数じゃないと思うけど、父親的には納得がいかないらしい。

 僕をものすごい形相で睨み付けると、いつものように怒鳴りちらしてくる。


「お前は昔っからそうだ。どうしてこの程度のことがわからないんだ? 他の学生よりも勉強しているんじゃないのか!」


 怒鳴られ、何も言い返す言葉が見つからない。

 見つかったとしても、生意気だと言われてさらに怒られるだけなので、何も言い返しはしないけど。

 僕が黙って俯いていると、父親は静かな部屋に響くぐらいの舌打ちをして、僕を貶す。


「結局ピアノもやめて、お前には何が残るんだ? 習い事も運動も勉強も、どれも満足にできてないじゃないか。この出来損ないが!」


 ひどい暴言を並べられて、心臓が痛くなる。

 あぁ、普通ならここで、こんな父親に対して怒りの感情が湧いたりするもんなのかな? 

 僕はというと、何にも出来ない僕自身に対して憤りを感じている。

 人よりも努力をしているはずなのに、なんで僕はこんなに何も出来ないんだ。 


 昔っから僕は何をやってもダメなんだ。

 人よりも時間をかけているのに、人よりも出来が悪い。


 父親が怒るのも当然だ。僕は俯いたまま「ごめんなさい」を繰り返し、自己嫌悪に陥る。生まれてからずっと否定され続けてきた。

 その度に、僕は何をやってもダメなんだと思いこんできた。実際に何をやってもダメで、生きる価値なんて僕にはないんじゃないかとさえ感じる。それでも誰かに認めて欲しくて、僕は大っ嫌いな勉強を頑張り続ける。


 誰かに認めて欲しい。頑張ったことを褒めて欲しい。僕の頑張りを見ていて欲しい。けれども僕の承認欲求を満たしてくれる相手なんかいないわけで、僕はまた、父親の説教が終わると何のためか分からない勉強をする。

 一体いつになったら僕を認めてくれる人は現れるんだろう。そんな願望のような疑問を抱き続ける。

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