ポチの62話 怪獣からりっちゃんを守ったよ

「こら、止まれ!」

「捕まえろ!」


 おや?

 何だか会場に繋がる廊下が突然騒がしくなったんだよ。

 誰かを捕まえようと、叫び声が聞こえるよ。

 晩餐会会場もザワザワしていて、警備の騎士にも緊張が走ったんだよ。

 そうしたら、一人の騎士が晩餐会会場に入ってきて、陛下に何があったかを報告したんだ。


「報告致します。本日晩餐会に不参加の侯爵様と家族の者が、兵の制止を振り切って無理矢理こちらに向かってきております」

「はあ。予想はできた事とは言え、本当に来るとは思わなかったぞ」


 あ、あの太っちょのハゲたおっちゃんと香水臭いおばさんの事なんだ。

 やっぱり、問題を起こしたんだね。

 懲りない人は、偉い人に怒られてもダメなんだね。


 バン!


「うおー! ケイン様!」

「お止まり下さい!」

「追加で人を寄越せ」


 そして、晩餐会会場の扉が開いたと思ったら、あの香水臭いおばさんの娘が男の人を何人も引きずりながらこっちに向かってきたんだよ。

 男の人は屈強な大男なのに、香水臭いおばさんの娘は全く関係ないと言わんばかりに男の人を引きずっているんだよ。

 香水臭いおばさんの娘は、汗とかで顔の濃いメイクもめちゃくちゃで物凄く怖いの。

 あの大きな黒い犬よりも怖いと思ったんだよ。

 そして、捕まえようとした人を振り払ってこっちにきたんだよ。


「はあはあはあ。リリーナ、そこをどけー! ケイン様とのラストダンスは私のものなのよ!」

「引け。ここはお前が来て良い場所ではない」


 香水臭いおばさんの娘は、まるで化け物の様にりっちゃんの事を威嚇しているんだ。

 人間じゃなくて、まるで怪獣が吠えている様だね。

 すかさずケイン様がりっちゃんを背中に隠して、ポチがケイン様の前に立ったんだよ。

 ポチは両手を大の字に開いて、通せんぼをしたんだ。

 そしてケイン様が香水臭いおばさんの娘に注意しているけど、全く話を聞いていないんだよ。


「陛下、だから申したんですよ。たかが獣人如きに勲章を授ける必要はないと」

「どうせ車椅子の君はダンスなんてできないのだから、私の娘が代わりをして差し上げますわよ」


 そして、晩餐会会場にニヤニヤした表情で太っちょのハゲたおっちゃんとあの香水臭いおばさんが入ってきたんだ。

 自分の都合の良い事だけを言っていて、とっても嫌な感じだよ。

 ポチはこういう人は嫌いなんだ。


「ここは通さないよ。りっちゃんとケイン様がラストダンスをするのだから」

「うるさい! 獣人風情が口を挟むな!」


 バキ!


「ポチ!」

「ポチちゃん!」


 おお、目の前の怪獣がポチの顔をグーで殴ったんだよ。

 思わず尻もちをついちゃってりっちゃんとケイン様がポチに声をかけたけど、ポチはこのくらいへっちゃらなんだ。

 ポチは直ぐに立ち上がって、両手を大の字に開いて怪獣を睨みつけたんだよ。

 ここは通さないよ。


「侯爵一家を拘束せよ。牢にぶち込め!」

「「「はっ」」」


 ここで、少し離れた所に避難をしていた陛下が怒りの表情でやってきて、直ぐに侯爵一家を捕まえる様に言ったんだよ。

 侯爵一家はだいぶ抵抗したけど、縄でぐるぐる巻きになったんだよ。

 特にあの怪獣は、念入りにぐるぐる巻きにされていたんだ。

 まだギャウギャウと何か言っているから、本当に怪獣みたいだよ。


「侯爵よ。貴様がどう思うかは勝手だが、国が勲章の授与を決めて国が晩餐会の主役として招いたのだ。貴様は沙汰を破り、国と余の顔に泥をつけた。厳罰は逃れんぞ」

「はっ?」


 うーん、太っちょのハゲたおっちゃんは、まだ何が悪いのか分かっていないよ。

 元々駄目な人だったんだね。

 侯爵一家はギャーギャー騒ぎながら、兵によって連行されたんだよ。


「ポチ、治療するからこっちを向いて」

「おお! 鼻血が出ているよ!」


 りっちゃんが慌ててポチの鼻を治療したんだ。

 でも、ポチは鼻血くらいなら全然へっちゃらなんだよ。


「りっちゃん、これでケイン様とラストダンスができるね!」

「全く、無茶をするんだから」


 鼻血が止まったポチの頭を、りっちゃんが少し涙目で撫でてくれるんだ。

 りっちゃんはポチのご主人なのだから、怪獣から守る事は当たり前なんだよ。

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