episode番外編 : 従魔の日常②
――ここは従魔の集まる異空間の中。
新たな仲間を迎えた彼らは、今日ものんびり(?)一日を過ごしています。これはそんな彼らの裏の顔……、彼らの一日を覗いてみるお話です。
――???視点――
「あ、マキナさん!お疲れ様です」
「ライム、お前は何をしている?」
「これですか?ブランさんに、ルナさんへ届けて欲しいと頼まれて探してます!ルナさんを見ませんでしたか?」
「今日は見ていないな」
広い廊下、窓から差し込む暖かな日差し。柔らかな絨毯と静かで時々騒がしいこの場所は、彼らの主――九十九涼の異空間の館なのです。
気まぐれに廊下を歩いていたマキナは、プルプルと大きくなった身体で植木鉢を運ぶライムと出会ったところです。
「そうですか、もう少し探してみます!」
「我も見かけたら伝えておこう。今日はまだ誰とも出会っていないがな」
「ありがとうございます!シンシアさんとベクターさんでしたら、先程裏庭でお話していましたよ」
ライムは器用に触手を伸ばしマキナへ手を振って去っていきました。ルナさん、見つかるといいですね。
マキナも片手の本に目を落とし、再び歩みを始めました。彼は……ルナを探す気は無いみたいですね。
本当に見つけたら、のようです。
しばらく誰かと会いそうにもないですし、場所を移動しましょうか。
「す、凄いですね……。えっと、ベクターさん。毎日このような訓練を?」
「そうだ。とはいえ、俺が好きでやっていること。特別苦痛だと思ったことは無いが」
「そ、そうなのですね。私にはできそうにありません」
「何も俺の真似をすることは無いだろ?人には人の努力の仕方があると聞く。それは我々魔の者にも当てはまるはずだ」
言葉遣いはどこか荒々しいベクターですが、彼の強さには、戦闘能力だけでは計り知れない優しさを持っています。彼がこの場所で信頼されているのが何よりの証拠でしょう。
「ベクターさんはお優しいのですね。えっと、お隣をお借りしても?」
「問題ない。俺も勉強させてもらう」
裏庭での特訓の始まりを、覗いてしまいましたね。
「――ウィンドインパルス」
「――リーフマジック」
お二人とも、すごく気合いが入っています。
彼らが今後も活躍すること間違いなしですね。
一つ心配事としては……、立派な館が壊れないか、です。まぁ、このお二人は、彼の従魔の中でも繊細な魔力コントロールに長けていますから、その辺の調整は完璧
――ゴンッ
「……やべ、壁にひびが」
か、完璧……で、お願いします。もしも破壊された時は、
さて、次は表のお庭へ移動しましょう。
前回と比べて植物の種類が増え、庭の面積も心無しか大きくなっているように感じます。
この空間は九十九涼の魔力量に左右されますから、彼が強くなった証明でしょう。
「よっ、……ふっ、やぁっ!!」
「さすが、姉さん。前よりも動きのキレが上がってますね」
「…………クルー、その呼び方はやめてください」
「無理っす!姉さんは俺の目標なんすから!」
「進化して、クルーも強くなりましたよ。ですけど、前の"ブラン姉"と呼んでいた時の方がかわい――」
「わーーーー!!それ以上は!!」
こちらでは、ブランとクルーが訓練中のようです。……クルーは何をしているのでしょうか?
「はぁ、クルーは素早く飛ぶ練習中でしたよね。最近は順調なのですか?」
「もちろんっすよ!!この前、主様に呼ばれた時にも、きちんと飛べていましたから」
「正直羨ましいですね。私もいつかはこの大空を飛べるようになりたいものです」
「その時は俺がお手伝いしますとも!!また一緒に連携しましょうよ!」
「そうね。次は足で掴むのではなくて、その背に乗せてもらいましょう」
「喜んで!」
威厳あるグリフォン……のはずですが、何故か形が違うはずの犬のしっぽが見えてしまいます。
仲が良いのは良いことですから、彼らの日常を邪魔してはいけませんね。
「そうだ!俺、この後ホムラに呼ばれてるんす。行ってきますね」
「ホムラさん?」
「はい!まだ言葉の練習中なんすけど、今日はメタと一緒に先生をすることになってるんす!」
「あまりホムラさんに変な言葉を教えないで下さいね」
「もちろんすよ!!」
力強い羽ばたきで、クルーが大空へ飛び上がりました。イーグルからの進化でさらに速度の増した飛翔で、あっという間にその場からいなくなってしまいました。
「…………さて、私も訓練を続けましょう」
彼女も訓練を再開した事ですし、私達も移動しましょう。せっかくですから、先程のクルーさんの後を追ってみましょうか。
彼はこの館に隣接する、緑の丘へ向かったようです。
館横の森へ続く道を抜けると、木々が避けて円形に開いた丘があります。中央に大きな木が一本生えている以外には、草や花々が咲き乱れる美しい丘です。
「あ、クルーさん!!こんにちは!!」
「メタ!よっす!」
「あ……、え、こ、んにち……は?」
「ホムラ!心配するなって。合ってるぞ!こんにちは」
「こんにちは!!」
そんな丘の頂上で、和気あいあいと繰り広げられる可愛らしい勉強会。生まれたばかりのホムラが、頑張って言葉を教えて貰っている様子は、小学校の授業参観に来ているみたいです。
日頃、主様の命令は、言葉の理解よりも本能に近い形での相互理解で動いています。
「ぼ、く……、あるじさまのこと、も……と知りたい。だから、がんばる」
な、なんて素敵な子なのでしょう…………。
今は主様のスキルで繋がっている彼も、いつの日かその制限を超えた友情や信頼を築けるようになっているかもしれません。
その時は……、今よりももっと、
「言葉を覚えるには、まずは会話だぞ!!」
「クルーさん、今日はどんなことを?」
「え?あ、……えっと、何しよう?」
「ちょっとクルーさん!!しっかりしてくださいって」
「く、るー、ド……ジっ子?」
勉強会というより、雑談会のような風景。
そこへ、音もなく近づく大きな影が……。
「…………」
「あ、ルナさん!お疲れ様です」
「ほんとだ!ルナ……って、その花!ライムに会ったんだな」
「る……な…………?」
影の招待は、彼らの様子を見に来たルナでした。
無口で神出鬼没ですが、誰よりも紳士な方です。大きな腕には、綺麗な赤い花の咲いた植木鉢を持っています。
「綺麗な花ですね!クルーさんは知っていたのですか?」
「館でライムが探してたんだ!確か、姉貴に頼まれた――とか」
「…………」
わいわいと盛り上がる中、中央のテーブルに植木鉢を置き、無言のまま懐から何かを取り出すルナ。
「わー!お菓子だ!!」
「こ、れ……、おいしい、たべもの!」
「いいのかルナ!!」
彼らの反応に、表情の隠れたルナからも、嬉しそうな雰囲気を感じます。さらにお菓子の次はカップとポットを取り出し、鮮やかなオレンジ色の液体を注ぎ入れました。
いったいどこから取り出したのか……なんて言うのは、無粋な質問ですね。
「ルナのお菓子ってすごく美味いんだよな!」
お皿に出されたお菓子を、美味しそうにつつくクルー。
「あ、ルナさん!!さっきのお花のことなんですけど……って、あれ?」
そこへ、ルナを追ってきたライムが到着。
どうやら、なにか伝え忘れて追ってきたみたい。
「皆さんお揃いなんですね!」
「ライム兄さん!一緒にたべませんか!」
「メタ、いいの?」
「もちろんです!いいですよね?」
人数は多い方が楽しいと、誘われたライムも勉強会(?)に加わります。
「ライムーー!!さきほどのお花は渡せ…………る、ルナさん?!」
さらにライムを探しに来たブランも合流。お慕いしているルナの姿を見てシッポが伸びました。
「あら?声がしたと思いましたら、皆さんお揃いですね」
「今日は何かあったか?」
続いて裏庭で訓練していたシンシアとベクターが、彼らの声を聞き付けて集合。
「皆さんもご一緒しませんか?せっかく今日はいい天気ですから。えっと……ルナさん、お菓子ってまだ」
「………………」
人数が増え、これでは足りない……と思いきや、振り返ると既にテーブルの上には人数分のお菓子と飲み物が。
紳士的……というか、もはや未来予知です。
気がつけば勉強会の名目は消滅し、みんな仲良くティータイムとなりました。こちらの方が彼ららしい。和やかな空間ですね。
……そういえば、あと一人、マキナの姿が――
「――盗み聞きとは、いいご身分だな」
――っ?!
慌てて声のするほうへ視線を向けると、大きな木の上に座り本を読むマキナの姿が。い、いつの間に……。
「ここを創り出したのは
………………なぜ
「なぜ?我は貴様の
「わーーーーー!!!ダメです!それはまだ秘密です!」
急にお腹が痛くなった気がします!
なのできょ、今日はこの辺りで解散します!!
――ではまた次回、その時がきたらお会いしましょう!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます