episode50 : 青藍の試練? 後編

「ターゲット、ロック。全弾発射フルバースト

「来るぞ!全員避けろよ!」


 戦闘人形の背から生えた悪魔に似た羽。そこから放たれる無数のミサイル。


――疾走


 当たれば即死にそれなりの爆破範囲。加えて当たり前のように追尾する性能持ち。これが対人戦闘ゲームなら、まず間違いなくティアワン性能だ。

 初心者がブッパしてるだけで良いんだから。


 しかーし!


「ゲーマー舐めんなよ!!そういう雑に強い定番最強攻撃は幾度となく対策してんだわ!!」


 直進からの……急旋回。

 壁際での直角移動が弱点だってな!!


 ズドォォォーーーーンッッ


 早くも数発が後方で派手に爆散する。

 弱点が分かってしまえば避けるのは容易い。


「よっ、ほっ、うおっと……、これだけの量だとさすがに対処が面倒だ」


 常に動き回ることを強要されるのは、正直言ってやりにくい。しかも、ミサイルの発射が止まったということは……


「ターゲット捕捉。近接モードへ移行」

「やっぱり出てくるか」


 ミサイルを全て落とす前に迫り来る戦闘人形マシンガール。両手に持った青と赤の光の剣は、まるで某有名映画の最強武器だ。


「ちょっくら追いかけっこだ。メタ!――武具変形"短剣"」


 従魔とバラバラに動き回る間、メタだけは俺の腕から離れないで待っていた。

 頼りになり過ぎるな全く。


――キンっ


 青色の光剣をメタで弾く。

 黒耀紅剣で赤の剣を――


「なっ?!」


 剣と剣が触れず、赤の剣が俺の剣をすり抜けて迫る。

 何とか頭を下げつつ後退することで直撃せずに済んだが、あと一歩反応が遅ければ俺の首は胴体とおさらばしていた。


 あ、危ねぇ……。


「なんだ?触れた感触すら無かった。ただの魔法剣じゃ無さそうだ」


 青い剣は防げたのに、赤はすり抜けた。剣によって効果が異なるのか。赤は実態をすり抜ける……とか。


「なんて厄介。当分剣での受けは止めておいた方が良さげだな」

「お主!後ろじゃ!!」


――影渡り


 なんて、止まってゆっくり分析もできやしない。


 俺は影に潜り背後から迫るミサイルを避ける。ここで地面に当たって爆破してくれれば楽なんだが、地面には当たらない仕様らしい。

 地面ギリギリのところでミサイルは上空に逸れていく。


「急にターゲットを変えることも出来んのか。なんてハイスペックミサイル」

「――投擲」


 ミサイルをやり過ごしたのもつかの間、影から出てきた俺を赤色の光線が襲う。

 咄嗟にメタで対応すると、すんでのところで軌道を僅かに逸らし俺の頬を掠めて通過して行った。


「――返戻」

「うわ、戻ってくんのかよっ!」


 回避しても安心できない。通過した光線は敵の一言で軌道をなぞるように戻ってきた。


 さすがに回避は余裕だが、戻っていく光線を目で捉え唖然とした。


「その剣、投げられんのかよ!?」


 飛翔してきた赤い光線。その正体は例の赤い剣だった。右手で持っていたそれを投擲して攻撃した挙句、自動で持ち主の元に戻る。


「その剣反則では?!」


 答えるはずもない敵に向かって文句を叫ぶ。

 好きな武器に変形可能な上に魔法を無効化する従魔を連れた俺が何を言うかと。そんな賢能の呆れ声が聞こえた気がする。


「ちっ、また来たか」

 もはや止まることは許されない。


――ストーンブラスト


 背後から再び迫り来るミサイルを、走りながら撃ち落とす。爆風で飛びそうになるが己の体幹でやり過ごし、慌てて視界に敵を映す。


「銃撃モードへ移行。ターゲット再ロック。――速射ラピットファイア

「距離が開くと遠距離ってか!!」


――疾走


 ミサイルだけじゃ飽き足らず、次は背中からライフルの銃口的なものが複数生え、ミサイルの比にならない銃弾の雨が降り注ぐ。もう何でもありだなあの人形。


「僕のっ、最強のっ、ロボットって感じだっ……な!!」


 疾走して、跳ねて、しゃがんで、走って……


 人形の周りを回って走り銃弾から逃げ続ける。

 銃弾だって無限では無い。


 いつかは止まる。


「おおおお主!!妾たちにも攻撃がっ!」

「気合いで避けろ!」


 しかしここは円形の空間。他の従魔たちもミサイルの対処中。

 円を描くように走っていれば、自然と銃弾の雨が従魔たちにも降り注ぐこと。――すまんとは思っている。うん。


 数分の攻撃が続き、ミサイルと銃弾を避けていれば

「――再装填」

「させるかっ!」


 長すぎる銃撃が止む。その隙は絶対に逃さない。


――疾走


「近接モードへ移行」

「それも想定済みだ!」


 素早い移行で俺の一撃を受け流す。

 俺はその反動を利用して人形を飛び越える。当然、自分の真上を通過する俺を人形は目で追う。


「何か忘れてちゃいないか人形」


 俺を追うと言うことは、から目を逸らすということ。


――さて、俺の背後には何がある?


「答えは爆発だよクソったれ!!」


 俺を追っていたミサイルが戦闘人形を襲う。ずっとミサイルと人形と俺が一直線になるタイミングを待っていた。


「策士策に溺れるってのはこの事だ」


 わざわざ追尾させたのが仇になったなコノヤロー。


「お主!大丈夫だったか」

「おう、そっちこそ。ミサイルの処理助かった」


 人形にぶつけたミサイルで最後だったらしい。

 あれだけのミサイルを処理してくれた従魔たちには感謝だ。


「それで……倒したのか?」

「いいや。まだ倒せていない」


 上手くぶつかりはしただろう。

 これで倒せれば御の字だったが、舞い上がる土煙の中の様子は分からない。しかし撃破の表示ログはまだ出ていない。


自動照準オートロック起動。近接モードトノ併用ヲ確認。負荷軽減ノタメ、使用時間ヲ15分二制限」


 煙の中から音声が響く。


「10分デ終ワラセマス」

「やってみろ」


 先に仕掛けたのは敵側の銃撃。

 煙を割いて銃弾が飛び交う。


「――武具変形"大盾"」


 大きな盾を前に構え銃弾を防ぎつつ、敵の動きに集中する。


「散開しろ!来るぞ」

「遅イ。――疾走」


 たった一突きで俺は盾と一緒に数メートル押される。何とか踏ん張るも、顔を上げた時には目の前に青い剣が。

 ――速い。俺よりも数段。


「お主っ、くぅっ――狐火・地獄炎」


 散開したハクが援護のための炎を放つ。青白い炎が大盾に剣を突き立てる戦闘人形へ押し寄せる。


「シールド展開。――多重障壁」


 咄嗟の援護も大した効果なくあっさり受け止められた。虹色に光る魔法シールド。防御も万全か。


 が、それにより攻撃の手が一瞬緩む。


「――武具変形"大剣"」


――急所突


 "突"とは名ばかりの、雑な横薙ぎ払い。

 ただし、俺には見えていた。彼女の胸元に埋め込まれた青い宝石が。


 大振りの攻撃だったが、短剣とは違い受け流すのは困難。大きく跳躍した人形は俺から距離を取って後退する。

 もちろん、それを狙っての大剣である。


――影縫い


「…………?」


 何も無い空間から突如現れる斬撃で、彼女の片羽が破壊された。これで銃弾の攻撃は半減される。


――ウィンドインパルス

――狐火・地獄炎


 そこへベクターとハクの合わせ技が炸裂。竜巻に似た突風が青い炎を纏って人形を襲う。


「――多重ショウ」

「させるか――武具変形"鎖鎌"」


――疾走


 俺はシールド展開の構えを取る人形へ急接近し、鎌に変化させたメタを全力で投擲した。


「……っ」


 飛んできた鎌に、人形は赤の剣で対処する。

 剣の柄に絡まった鎖鎌を、その瞬間に思い切り引く。


 当然、剣を握っていた人形は少しよろけて……


「――回避フノ」


 青い風激に呑まれる。

 防御の隙は与えない、完璧な直撃。


 これで無理だともう策が少ない。

 最悪、従魔強化最終手段を取らざるを得ないが……


「運動機能……二、障害アリ――戦闘ノ続行ハ……危険」


 魔法が消え、その中からボロボロの人形の姿を捉える。ここまでしても倒せないのは頑丈過ぎると褒める他ないだろう。

 何せ、同レベルの上級魔法の直撃だ。


「…………終わりだな。悪いが、お前に同情してやる義理は無いぞ」

――急所突


 動けない人形へのトドメの一撃は、実に呆気ないものだった。最後まで俺の目を見ていたのはさすがだが、抵抗される素振りもなく宝石は2つに割れた。


 機能が停止した人形はその場に倒れ、二度と動くことはない。


「これだから、人型の相手とはやり合いたくないんだ」


 なんとも目覚めの悪い。

 俺は黙って動かない人形を見つめる。


『…………さすが、我らが主の――――と言ったところ。合格だ

「お前の最高傑作とやらは倒した。いい加減出てこいよ」


 そんな後味の悪い空気も気にせず、モニターから低い声がした。


 俺がモニターを睨みつけるが、どこかの椅子に座ったマキナの表情は変わらない。

 いや、少し――寂しそうか?


『さて、次がラストの試練だ。最上階で待っている』

「あ、おい待て――

「待つのじゃマキナ!!」


 俺の呼び止めを遮って、人の姿に変化したハクが叫んだ。すると、モニターの中のマキナの動きが止まる。


「お主、な」

『…………それがどうした

「――っ!!何故じゃ、なぜ!お主はこんなっ……」

『ふん。我には我のやり方がある。…………早く上がってこい』


 奴はそう言い残し、モニターの電源が切れる。


「ハク、一体どういうことだ」


 俺は目を丸くするハクに、そう問いかけた。

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