episode07 : レベルアップの可能性

 無限迷宮侵入時と同様に白い光に飲まれ、再び視界が良好になった。目の前には大きな木々がそびえ立つ、緑の深い森林が広がっていた。


 目の前、と言ったが振り向いても木。横も木。上を見上げても木々。

 森林浴は精神的に良いと聞くが、ここまで緑に覆われていると逆に不安になる。


『無限迷宮第二層。

出現レベル : 4〜10、残り時間は3.42.51……』


 ボード上のシステムがそう表示する。


「"鑑定"」

 魔物のレベル、種類、位置を即座に確かめた。


 スパイダーモンキーLv8、スライムネイチャーLv6、スパイダーモンキーLv5……


 森林だけあって、生息する魔物もより動物らしく、環境にあった種類に変化している。

 足場が不安定な事に気をつけて進まないと。

 それに、ボスを倒すと階層を進めることも知った。


 大して経験値の入らない魔物は無視して探そう。

 一層で二時間以上も使ったから、できるだけ早く進もう。



――第二層、ボス『キングモンキーLv10』

 木を使った縦横無尽な動きには少し驚いた。

 投げた木の枝で即死。

『新たなスキルを獲得します。

――空中歩行』


――第三層、ボス『ホブゴブリンLv16』

 平原にいくつもあったゴブリンの集落。その中の一つにちょっと強いゴブリンがいた。

 集落を一つずつ破壊していたら、いつの間にか倒せていた。

『ホブの長剣を獲得』


――第四層、ボス『エルダートレントLv22』

 再び森林地帯。緑に覆われた環境の中、やたらでかいトレントが隠れていた。レベル差も無くなり、蔓での攻撃もかなり強烈だった。

 木の枝の投擲では蔓の破壊が限界だったため、装備していたナイフを投擲したら本体まで貫通した。

『新たな称号を獲得。

――"聖樹の加護" 』



 とまぁ、色々あって現在俺は第五層。


『無限迷宮第五層。

出現レベル : 23〜30、残り時間は0.49.32……』


 残り時間が一時間を切った。レベルも俺より上の魔物が増え、先程までの余裕は消える。


 転移した俺を待ち受けていたのは、再び広い平原地帯。そして、バッファローや鶏などのよく見かける動物が多く生息している。


 動物だからと侮ってはいけない。

 奴らは俺たちが想像する鶏などの5倍以上の体格を持ち、その攻撃は容易く木々をなぎ倒す。


 バッファローの方も、その突進が直撃すれば硬い岩でも粉々にできる。


「いい経験値になりそうだ」


 強くなると決めた以上、こんな場所で怖気付く理由がない。

 俺は所持品欄から杖を取り出すと、不慣れな手つきで杖を構えた。魔法は使えないが、これは物理でもいけるらしい。


――疾走


 両手で杖を抱えているにもかかわらず、バッファローの突進を優に超えるスピードをたたき出す。


「グモッ」


 バットの要領で杖を振り抜けば、直撃した巨体が宙に浮く。空中で逆さに回転した身体は重力によって地面へと落下してくる。


――空中歩行

 空中に足場を作り出す。足場の出現にはMPを消費し、一度出した足場は10秒その場に残り続ける。


 イメージしてジャンプした俺は、足の裏に出来た足場を利用して空中に打ち上げられたバッファローを追いかける。無防備な腹を捉えると、今度は杖を上から下へ叩きつけた。


 重力の自由落下に追撃の加速が加わる。


 地面に叩きつけられたバッファローは土埃を上げて消滅した。


『ラッシュバッファローLv26を倒しました。経験値400を手に入れました』


 残った地面には小さな穴が空いているだけ。


 ……経験値はかなり美味しい。

 しかし、ここまで来て今更気がつく。


「……魔石は落ちないんだな」

 これで魔石まで手に入ってしまえば確かにチートすぎる。もはやダンジョンに行く必要すらなくなるのだから。

 けれど、少なからず望んでいた自分もいたわけで……。がっかりしてもいいよな。


「はぁ、まぁいい。八つ当たりできる相手はいくらでもいるからな」


 次の相手は武装コッケLv29。

 二足歩行かつ片手に錆びた剣を握る鶏。


「集団行動する魔物か」


 ただでさえ厄介な魔物が集団で行動している。

 俺にとってはまとめて倒す良い機会だ。


「しっそ…………いや。――火炎球」

 杖での打撃もいいが、杖の本領は魔法だ。

 俺は攻撃魔法のようなスキルは使えないが、この杖には装備時スキルがある。


 ゲームを手本に見よう見まねで杖を掲げてみた。あとは他のスキルと同様にイメージする。


「威力を試すには実践に限る」


 杖の先端にあったクリスタルが赤く輝き、赤い光線が武装コッケへと迫る。地面に着弾した光線は、その場に大きな火の球を生成させた。


 ……想像していたメ〇ミとは程遠いな。


「生成しただけ?」


 設置物系だと敵に当てにくい。

 やはり装備スキル程度のものでは大した威力には……


「コケッ」「コッケッッ!!」

「コケ――」


 ……ば、爆発した。

 鶏たちが急に騒ぎ出したかと思えば、生成された火の球が大爆発を起こしたのだ。


『武装コッケLv29×3を倒しました』


「うっそだろおい」


 ダメだこれ。ぶっ壊れ装備だったわ。

 メラ〇ーマもびっくりの威力。

 火炎球なんてしょぼい名前つけちゃダメだって。


『経験値1251を手に入れました。九十九涼のレベルが27→29へ上昇。残りポイントは16です』


 やっとレベルが上がった。

 貰えるポイントは、レベルが上がるほど多くなるらしいな。


『新たなスキルを獲得

――広域鑑定』


 か。その名の通り、鑑定の及ぶ領域が広くなるって解釈で間違いないはず。


「――広域鑑定」


 するとどうだ。

 先程まで入っていなかった遠くの魔物の名前とレベルまで、しっかり表示された。

 それだけでなく、植物や鉱物などの名前、耐久値まで見えるようになっていた。


 情報が増えるのは有難いことだし、鑑定結果は何時でも消すことが出来る。

 なんて便利で助かる機能なのか。


 ただ一つ、俺が納得いかない……、驚いたことがあった。


 目の前に生えた紫色の毒々しい葉の植物。

『薬草【品質高】』

 その白い表示結果に、俺は納得行かぬ顔で呟いた。


「……これ、薬草だったのか」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 その後何をしていたかと言うと、俺は時間制限ギリギリまでレベル上げに勤しんでいた。


 鑑定と疾走、そして己のSTR値をフル活用し、奇襲andパワーで敵をなぎ倒して走った。

 走り回り、もはや鑑定結果にボス以外の魔物の表示が消えるほど倒しまくった。


『九十九涼Lv42。残りポイントは136です。

スキルが進化しました

――広域鑑定Lv2

――疾走Lv2


新たな称号を獲得

――"低層の覇者"』


 新しい称号に、スキルの進化……。レベルアップでポイントも溜まったし、称号も手に入った。

 称号はレベルアップが理由じゃ無さそうだけど。


『残り時間は0.01.21』


 もう残り時間もない。

 

「最後にボスだけ見ておくか」


 俺は鑑定結果で知っていたボスの元へ走った。



――第五層のボスは『紅雲雀』。

 紅雲雀くれないひばりだなんて仰々しい名前が付いているが、要はでかい鳥だ。

 頭の上のとさかに似た冠と、身体中の黒い斑点、何より全身真っ赤な羽は平原には似合わない存在感を示している。


 鑑定した時にやけに上の方に表示されていたからな。

 鳥型の魔物だと予想はしていた。


 紅と言うだけあって火属性の耐性は高そうだ。

 火炎球は使い物にならないだろう。


「が、先手必勝。――火炎球!」


 しかし、試してみなければ分からない。


「ピロッ」


 急に現れた火の球に驚くボスは、奇妙な悲鳴を上げて空中を逆回りに旋回する。

 もちろん、俺はその回避を読んでいた。


――疾走Lv2&空中歩行


 進化した疾走Lv2は、消費MPの減少に加えて持続時間、クールタイムの減少などその恩恵は大きなものだった。


 その俊敏さを空中歩行にも活かし、俺は俺から目を離したボス目掛けて一気に距離を詰める。

 心做しかスピードが上がっている気もした。


「一旦検証させろ」


 俺は空中の足場を利用して杖を振りかぶる。

 バッファローの時と同じように、正面から、今度は後方へ飛ばすように。


 「ピピピッッ」


 火の玉に意識を割いていたボスは、俺の杖に見事当たってくれた。

 そしてせっかく回避した火の玉へと逆戻り。


「ピロ――」


 爆発を回避できなかったボスは、武装コッケを一撃で葬る爆発をモロに全身で受けることになった。


『紅雲雀Lv30を倒しました。経験値を794手に入れました』


「…………あれ?」

 倒し……たのか?

 火耐性は?まさかの一撃?


 呆気なく第五層のボスを倒してしまい、やる気の不完全燃焼を起こす。


『残り時間が無くなりました。現在地を記録して無限迷宮を脱出します』


 そんな俺の心情は置いてけぼりにして、ボードのメッセージは俺を元いた場所へ転送を開始した。

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