第7話.弟の道


 そこは十二歳になったカルシオンにとって敵地であった。

 周りに居る傭兵は粗野で乱暴だし、男爵となったガイオスは、まるで王様のように振る舞っていた。

 母の事をどこだろうと好きな時に抱くし、他の貴族に嫌味を言われた憂さをカルシオンに暴力を振るって晴らす。


 しかも、それまでは母の事を人質として特別扱いしていたガイオスが、戦で敵大将の首を取った手下に、一日だけという条件付きで母を貸し出したのだ。


 しかしそれは、野蛮な手下達にとって、大きな意味をなした。


 ”黒獅子のお気に入りではなくなった”


 だから隙きあらば、ガイオスの目を盗んで、傭兵達までが綺麗な母を襲うようになったのだ。

 何度が、カルシオンは母を救うため、相手の剣を奪い遅いっかろうとしたが、返り討ちにあってしまった。


 気絶するまで殴られ、目覚めると半裸になった母に介抱されていた。

 それからはあまりの屈辱に、少年は母が傭兵に犯されているのを目にしても、気が付かないふりをして通り過ぎるようになった。


 一方、黒獅子ことガイアスだが、王族の血を引く母の代わりに、殲滅した村から攫ってきた若い女で楽しんでいた。

 その娘は若くて器量がいいだけでなく、結婚したばかりの夫が居た。

 その夫をロープでぐるぐる巻にして、その眼の前で黒獅子は若妻を犯した。

 悲鳴を上げ助けを求める娘と、必死に妻を、愛する女性を助けようとする男。


 それをツマミに、ガイアスは一週間ほど楽しんでいた。

 数日後には、手下に夫の事を痛みつけさせ、それを見て泣き叫ぶ娘を抱いて楽しみ。

 その後は、手下達にも代わる代わる娘を犯させ、夫が絶望するのを見て楽しんだ。

 そして最後には、黒獅子に抱かれている娘の前で、夫を殺したのだ。

 しかもすぐには止めを刺さずに、時間を掛けてナマス切りにして……。


 そんな日々を送り、いつしかカルシオンの母は変わってしまった。

 いや男達に変えられてしまった。


 今では息子の前でも平然と、下品で汚らわしい男に喜んで抱かれるようになっている。


 父が殺されたあの日、カルシオンは父よりも強いあの男に付いていき、強くなって母を守ろうと決心していた。

 そして目障りな兄を見返してやろうと。


 しかしそんな思いも、とうの昔に消えて無くなっていた。


 元々、カルシオンは父の強さに憧れこそすれ、兄を贔屓ひいきする父の事が好きではなかった。

 勿論、兄の事は嫌いだし、昔から憎んでもいた。


 たった一年、早く生まれてきただけで、剣の才能も無いのに次の当主になることが約束され。

 事あるごとに兄面して、少年を見下して助けようとする。


 だから自分と同じ髪の色をした母だけは、カルシオンはずっと好きでいた。

 しかも母は王族で、その血を色濃く継いでいる事が、少年の誇りでもあった。


 しかしその母すらも、黒獅子に奪われ、そして壊されてしまい。

 少年カルシオンの心の拠り所は、何処にも無くなってしまった。


 実は侍女セリアの事も少年は狙っていたのだが、彼女は兄のことしか見ていなかった。

 その事実が自尊心の強い少年を傷つけていた。


 そしていつしか少年は、世界を恨むようになっていた。

 必ず強くなって、気に入らないヤツを全員殺してやると。


 そんな願いが通じたのか……


 ある日、屋敷の主であるガイオスが留守の時に、隠れて母を部屋に連れ込んだ男がいた。

 ちょうどその男が部屋から出てきたところに、カルシオンは出くわした。


 「おっと、これはボッチャマ。へへへ、もっと精液を流し込んでくれってせがむもんだからよ~~、3発もしちまったぜ~~。オメーのカーチャンも大概……ぐふっ」

 「馴れ馴れしく話しかけるな。下郎」


 下卑た笑いを浮かべ、汚れた男根を仕舞う男の腹に、少年は自分に与えられた剣を突き立てた。

 剣先がろくに洗濯もしていない麻の服を巻き込み、皮膚を突き破って内蔵をえぐりながら奥くへと潜り込む、生々しい感触。


 ”ああぁぁぁぁ、これだ……”


 その瞬間、少年カルシオンは、他人の命を奪う快楽に目覚めた。


 恐怖と激痛に慄く口から溢れ出す、赤くて温かい液体を指先で掬って舐め。

 もう一度、剣を抜いてから、名も知らない傭兵の腹に剣を突き刺して、その柔らかくて弾力のある感触を確かめる。


 そしてビクンビクンっと震え、力が抜けて崩れ落ちる肉人形。


 人間とは何とも愚かで醜く、そして脆いものなのか。


 その時、カルシオンは薄汚い男の体から、白い靄のような物が抜け出ていくのを感じ取った。

 触れることが出来ないのに、指先に絡みつく温かいそれ。


 「そうか。これか?!これなんだな!」


 震える手を握りしめ、この日から少年は、己の道を進み始めるのだった。

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