第2話 魔導保育士

「つまり……私に戦えってこと? 絶対に嫌。面倒。鍛えるとか無理。夢でも無理。毎日可能ならダラダラ眠っていたい私には無理」

「えー、そのわりにはバレー部に入っていたよね」


 ……なんでそんなこと知ってるの。

 ああ、夢だからか。


「健康のためと内申点のためだよ。若い時は体を動かした方が老後のためになるってテレビでもやってたし。だからスタメンも狙っていなかったし実際補欠だったし。部活に入っていないと高校入試の面接で話す内容に困るでしょ。学生生活で何を頑張りましたかとか絶対に聞かれるじゃん」

「そんなよく分からない理由だったのか……。で、でも戦えなんて言わないから大丈夫だよ。自分の将来の妻を魔獣のとこになんて送り込まないよ」

「……それなら何をさせる気なの」


 そろそろ会話にも飽きてきたなー。

 早くこの部屋から出て、探検したいなー。


「一緒に王立魔法学園の保育科に通って、保育資格をとって戻ってきてから結婚しよう」

「なんっっっっでそうなるの!!!」


 私をバカにしているでしょ、この夢……。木っ端微塵に砕きたくなってきた。


「突っ込むのも面倒になってきたけど、なんで保育科なの……」

「いやー、魔法が使える幼児ってさ、ポンポン使うから危ないんだよね。すぐに何かを燃やそうとしたりさ」


 そんな簡単に使えるの、魔法……。


「だから、幼いうちは使えないように魔法を封じていたんだよ、昔から。今もほとんどの子供たちが封じられている」

「ふーん……」

「でも、幼い頃からのびのびと魔法を使わせた方が才能が開花しやすいし強い子はさらに強くなるのではないかと一部の子供たちを対象とした研究で明らかになってきてね」

「はぁ……」

「子供たちの魔法を防ぎながらすくすくと育てる強い魔導保育士が今、求められているんだ」

「……もう現実世界に戻っていいですか」

「夢じゃないんだけどなー……」


 どうして辺境伯の息子が魔導保育士資格をとりたいのかは少し気になったけれど、いい加減自分のバカっぽい設定にも飽きてきたので、扉へと向かった。


 ……夢に整合性を求めたって仕方がないしね。

 

 さっきは私を引き止めたレイモンドが話しながらついてくる。


「そういうわけでさ、君はとりあえず記憶喪失で魔女さんに拾われたことにしといてよ。一応禁忌なんだ、異世界からの召喚は。それから外に出る前に服を着替えて。そんな服の人もこの世界にはいない。俺は部屋の外にいるから、着替えたら出てきてね」

「服……」

「そう、そこにある服ね。靴も履き替えて。色んなサイズを用意したから選んで。水も置いておいたし、喉が乾いていたら飲んでね。じゃ、部屋の外にいるね」


 仕方ないな……。

 もう一度、服が置いてある机の元へと戻る。下には確かに靴が並んでいる。


 自分の着ている服を見るとスポーツウェアだ。靴も運動靴。そういえば夏休みに入り、小学生の弟の大樹に頼まれて緑地公園の体育館に一緒に行って卓球で遊んだんだっけ?

 持って行った水筒のお茶はほとんど大樹に飲まれて、私から鍵を奪って先に走って帰宅して……私はふらふらしながら……そこからの記憶がない。


 熱中症?

 まさか……まさかだよね。

 夢……だよね?


 不安になりながら、目の前の上質そうな凝ったワンピースを手に取り……なんとなくグラスの中の水も飲んだ。

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