第13話 設定の分からない夢――黒猫になる

 縁側へ出る際にガラス戸があり、そこに自分の姿を映してみた。綺麗なブルーの瞳の黒猫になっていた。ピンクの首輪には桜型のワンポイントが付いている。


先生は縁側でお茶を啜っていた。


私はこの際だからと先生にすり寄り、先生の隣で丸くなった。


「ほんっと、可愛い奴だなぁ、お前」


先生は笑って、湯呑を置くと私の顎をくすぐって来た。猫にとってこれは気持ち良いらしい。今の私も思わず目を細めてしまう。


 そこで、先生は私の首輪に気付いた。


「お前、飼い猫か?」


私も夢の設定なんてわからないので首を傾げつつ、先生の隣で丸くなる。先生は笑って、私の頭を撫でた。私が猫としてしばらく先生の傍にいるつもりだとわかってくれたのだろう。


「すり寄ってくるあたりが、俺の生徒に似てるな」


先生のそんな呟きに私は首を傾げた。


「お前の首輪。そのワンポイントと同じ、サクラって生徒がな。こんなじいさんに懐いてくれてな」


先生が嬉しそうに話すので、こっちまで嬉しくなってしまう。


 妙に照れくさくて、私は先生から顔を隠すために丸くなっていた。


「昨日離任式でなぁ。暇になっちまったよ」


私は丸くなって春の陽ざしを受けながら、先生の独り言を聞いていた。ぽかぽかと日向ぼっこしているうちに、私はいつの間にか眠ってしまっていた。

    

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る