第3話 眠れぬ月夜

 古文のプリントが目に留まり、元気か? の鳴上先生から一言メッセージでも無いかとラブコメ的展開を想像して、プリントを確認する。当然だが普通のプリントで、少し残念だ。


 何か大変なことは無いか、という相澤先生の優しい質問に、私は課題が大変ですねと笑った。


 正直、凹んでいてもしょうがないと冷静な自分が言うから、先生の前では笑って見せた。けれど、そんな簡単には割り切れなくて、悲しいような寂しいような、もやもやした気持ちも抱えていた。


 結局、相澤先生は今日から午前授業の期間に入ったと連絡だけして、今日は帰って行った。


 うちの学校では終業式の一週間前から午前授業になる。今年の終業式は三月二十日だ。


   ***


 その日の夜。私は寝付けずに、ベッドの上で横になっているだけだった。体を窓の方へ向けると、消灯された暗い病室から月が良く見えた。月の光で思ったより部屋が明るいことに気付いてあたりを見渡す。ふと自分の足が目について、固定される右足を見つめた。


「馬鹿だなぁ」


ふと零れた自然な言葉は、思った以上に私自身の胸に突き刺さった。


 階段で足を滑らせたのは、他に要因があるわけでもない。ただの私の不注意だ。


 ――足を滑らせなければ、離任式に出られたのに。


 私はきつく目を閉じて、無理矢理眠りについた。




 次の日。私はお昼を食べた後、右足を庇いながらもたもたと、なんとか着替えを済ませた。

    

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