決戦は火曜日
維 黎
正面衝突!!
今より100年ほど前。大正から昭和になろうかという時代においては現代ほど恋愛や結婚に自由はなかった。
互いを想い合う者同士であっても、
二人は出会い生まれ育った故郷を離れ別々の相手と結婚。その後会うこともなく疎遠のまま暮らしていたが、晩年に互いの伴侶を亡くすと故郷に戻り学校創設に尽力を尽くした。
植木四太郎は男子校である《
浮琳節子は女子高である《
両学園が創立100周年を迎える現在。
「お高くとまってんじゃねーよッ! スケバン学園のビッ〇共がぁぁ!!」
「やられキャラみたいに髪の毛おっ立ててんじゃないわよッ! ツッパリ学園のイン〇野郎!!」
「この間、中学ン時のダチから連絡入ったぞ! てめぇらンとこの生徒に誘われてついていったら、数人の男に囲まれてカツアゲされたってなぁッ! 美人局みたいなことやってんじゃねーよっ!」
(後日、別の学校の女生徒だと判明)
「同じ塾に通ってる他校の女の子から相談受けたわよッ! アンタらのとこの生徒に付け回されてるってッ! ストーカー教育でも受けてんのッ!!」
(後日、その女生徒の小学生の弟が探偵ごっこで姉を尾行していたことが判明)
ワイワイギャーギャー。
今日も今日とて両校ともに平常運転。
休み時間になると教室の窓越しにどちらからともなく、誰からともなく言い争いが始まるのだ。
両校は創立以来、何かといがみ合ってきた。原因は定かではない。
手酷くフラれただの、浮気をされただの、二股三股をかけられただのと、両校それぞれに相手が悪いとの根強い思いだけが受け継がれている。
そんな両校は街の中央を流れる川を隔てて東に津梁学園、西に涼葉学園という位置にある。最寄り駅は"両学園前駅"。
それぞれ東口、西口の改札を出てそのまま駅周りの商店街を抜けて川沿いの土手を通って通学している。ちなみに五両編成の車両は午前と午後の通学時間帯、暗黙の了解で真ん中の車両は一般市民用、残りの二両ずつをそれぞれ男子生徒専用、女子生徒専用としていた。
川沿いの土手は1キロほど続きその中ほどに両校は立っている。
それぞれの土手を繋ぐのは両校の前に架けられた一本の橋のみ。その橋の上、中央には男女の生徒が一人ずつ向き合っていた。
頭上を両校の生徒たちによる舌戦が飛び交っていたが、二人は緊張していて聴こえていない。
過去100年の歴史の中で両校同士の暴力沙汰の事件は一度もない。
お互い対峙しあって数分が経っているだろうか。
「――あのッ!!」
張り詰めた緊張の中、やけに鮮明に聞こえた意を決した一言が沈黙の拮抗を打ち破る。
いつのまにか舌戦は止んでいて静寂が辺りを包んでいた。
「ずっと前から好きでしたッ! わ、わたしと付き合ってくださいッ!!」
「はい。ボクもずっとキミのことが好きでした」
瞬間、歓声という爆発が起きる。
津梁学園と涼葉学園にはお互いに共通した"伝統"があった。
今回は涼葉学園が勝ったということになる。
「くそったれぇぇぇ! 何やってんだよッ! 告るンなら男からに決まってんだろがぁッ!
「よくやったわッ! 勇気あるぅぅぅ!」
伝えられている伝統には一つ、伝説が含まれている。
《橋の上にて祝福を浴びて口づけを交わした男女は永遠に結ばれる》と。
やがて橋の上の二人の生徒は正面に向かい立つと、どちらからともなく顔を近づけていく。そして――。
「「「おめでとぉぉぉぉッ!!!!」」」
両校の教室から一際大きな歓声が上がった。
街の中央を流れる川の正式な名称を知る者はほとんどいない。通称として"学園前の川"と呼ばれることが多いが、津梁学園と涼葉学園の生徒たちはこう呼んでいる。
天の川――と。
※伝統について追記
天の川で告白すれば必ず成就する。なぜならフッた生徒には両校から地獄の学園生活が約束されるのだから。
――了――
決戦は火曜日 維 黎 @yuirei
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