羨ましい才能 KAC20224
小心者には羨ましい才能の話し。としやんは、喜一が羨ましい。 アニバーサリー・チャンピオンシップ 2022用600~4000字#KAC20224
なんで俺はこいつと出会ってしまったのか・・・
出会わなけば、こんな生き方を選んでなかったと確信できるのに。
「なぁ、としやんさぁ・・・俺と芸人にならへん?」
その言葉が、俺をここまで引きずってきた。
出会いは俺たちがまだ、中学生だったころ。
大阪からの転校生は、中途半端な時期にやってきた。
そいつは、髪が長く後ろで結んでいて、妙にその髪型が似合っていた。
「正木喜一、よろしゅう」
たったそれだけの自己紹介で、そいつは俺の隣の空いていた席に座った。
名前を聞かれて、横井寿也と答えただけで終わったのが初めての会話だった。
喜一は、案外図々しくて俺を勝手に「としやん」と呼び、洋食屋の親父が作ったメンチカツだけを掠め取っていく男だった。
言い合いをしながらも同じ高校に進んだのは、何となくウマが合ったからだろうと思う。
そんな喜一が、俺に一緒に芸人になろうと誘う。
訳が分からなかった。
勝手になればいいだろう…俺だって応援くらいはするさ。
俺がいくら渋っても、喜一は持ち前の図々しさからか俺から離れていくことは無かった。
結局、女手一つで看護師をしながら子育てをしてきた喜一のお母さんにはよろしくお願いしますと頭を下げられ、親父とお袋からは頑張れよ!と背中を押され、一緒に芸人の育成所に入ってしまった。
ただ流されてきただけの俺が、うっかりM-1の大舞台に立つ羽目になっている…
緊張で昨日から大好物のメンチカツも喉を通らず腹ペコで舞台袖にいる俺に反して、喜一は嬉しそうにニコニコしている。
「なんでお前そんなに嬉しそうなの?少しは緊張しろよ・・・」
思わず、俺の口をついて出た言葉に自分でトゲを感じる。
それでも、喜一は笑って答える。
「だって、お前と一緒やぞ?M-1やぞ?楽しない方がおかしいやろう?」
俺には、その図々しさが羨ましいよ……
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