a place for stories(単発物語)

あんとんぱんこ

貧乏メシの美味さったら・・・

きっとどこかの世界線の私…私のおふくろの味。【グルメ小説コンテスト用2,000字以上15,000字以下】



私の毎日は、職場とスーパーと家のトライアングルで完了する。

特に美人でもなく、巨乳でもなく、八頭身でもない。

顔も地味、化粧も地味、服も地味。

特技は、長い物に巻かれて空気になること。

趣味は、読書(主にラノベで現実逃避)。

27歳にもなって、夫無し・彼氏なし・交際歴なし・貯金なし。

朝からデスクワークに、お昼の弁当はスーパーの冷凍食品の詰め合わせ。

午後のおやつとコーヒーが、私のモチベーションの要になっている。

私、何やってんだろ?が、心の中で必ず1回は湧きあがる毎日。

なぁ~にも!面白くない。

お母さんは、「専業主婦なんてやめなさい。結婚しても働く女がかっこいいのよ。」って言ってたけど・・・

結婚もせずにワーキングプアな私は、働いててもかっこよくなれないよ?

実家を出て故郷を捨てて、単身都会に乗り込んで5年。

駅で迷って、人に酔って、騙されかけて、辞めるに辞められずブラックの沼。

意地張って、帰れもしないし嘘もつけない。

結婚も考えられないし、恋人も好きな人すら居ない現状。

お母さん、私、どうしたらいい?帰ってもいい?

電話でもできれば、楽になれるかな?

前に電話で話したのは、いつだっただろう・・・?


そして、今日も今日とて、仕事帰りに近所のスーパーでお買い物。

この夜中まで営業しているスーパーは、「おひとり様」用の食材の宝庫で助かる。

人参もジャガイモも玉ねぎも肉も魚も、一人前で売っている。

今日は、何食べよう?最近、お肉食べてないや・・・

肉じゃが食べたいな・・・いや、あれは一人分では作れない・・・

弟と取り合いした味の染み染みのジャガイモも、今となっては良い思い出よね。

そー言えば、から揚げも作って食べることがないや。

揚げ物全般、独り暮らしにはしんどい料理だ・・・

油跳ねのふき取り掃除も、地味にめんどくさいし。

第一、会社帰りの今の私にそんな体力が残ってない。

ん~・・・困る、迷う、悩む。

毎日、30分はうろうろとしている気がする・・・私、不審者じゃないよね?


結局、白菜1/8と揚げ2枚にお勤め品の牛コマ150gと朝食用の菓子パンとヨーグルトを買って帰った。

白菜を半分細切り半分そぎ切りにして、揚げを細切りに切って、細切りの白菜と揚げでお味噌汁を作る用意をしておく。

お母さんのお味噌汁は、だしの粉と煮干しを一緒に入れる合わせ味噌少なめの味噌汁だった。

子供の頃からそれだから、給食のお味噌汁さえ濃くて好きじゃなかったな。

残りの白菜と牛コマを油で炒めて塩を適量、以上で完了の貧乏メシ。

白菜と牛コマの塩炒めは、我が家での呼び名は「乞食焼き」だった。

名前の逸話はいくつかあるらしいけど、正式名称なのかさえ分からない謎おかず。

でも、私は大好きだった。

何故か中々お母さんの味にはならなくて、何度作っても全敗中。

それでも、食べたくなってチャレンジしてしまう。

この前は、炒め足りずにシャキシャキ過ぎて半生の塩多めだったっけ?

なぜか冬に多かった訳は、大人になってからスーパーで白菜を見て知った。

だって、冬の白菜は安いんだもん!ってこと。

牛コマも、お高いのじゃお母さんの味にはならないの。

脂身のサシが入ってない、外国産のやっすい牛コマが一番。

それでも、今の私には牛肉を買うという贅沢。

もし、最後の晩餐を選ぶなら、お母さんの作った「うちの乞食焼き」がいい。

そう思わせるような、私のお母さんの懐かしい味。

今日は、炒めすぎて白菜の苦みが出ちゃってる一品。

だめだ、どうしたって今日は塩味が強いよ・・・しょっぱい。

溢れて零れる涙と一緒にお夕飯を口の中に押し込んで、嗚咽と一緒に飲み下した。


洗い物を終わらせてお風呂に入ろうとした時に、スマホが目に入る。

お母さんに電話しようかどうしようかと迷って、辞めた。

だって、まだ意地を張りたい。

頑張れるって、信じたい。

甘えたら、立ち直れなくなりそうで怖い。

お母さんに、心配かけたくない。

お父さんに、知られたくない。

弟に、バカにされたくない。

王子様なんていないって知ってるけど、いつかきっとって思っちゃう。

スマホに向かって、小さく「ごめんね」と声を掛けてお風呂に入った。

何に対してのごめんなのか、考えてもわからなかったけど何故か口から零れ落ちていた。


泣き腫らした目には、お風呂のお湯があまりにもあったかくて優しくて、きっとまた私の目からはしょっぱいお湯が出ている。

いっそのこと、全部吐き出してしまおう。

誰もいないし、見てないし、ごぼごぼとしか聞こえないんだもの。

きっと、それくらいは許される。

お湯の中に溜まった何かを吐き出してボケ~とした私を振り払う様に、ザバッとお湯に潜って勢いよく顔を出した。

明日のお弁当の用意を、しなくちゃ。

お風呂出たら洗濯回して、お弁当の用意して、洗濯物片づけて、濃いめの紅茶で少しだけラノベを読んだら、寝てしまおう。

出来れば、幸せな夢が見れますように。

明日は、何か小さな幸せに出会えますように。

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