転生したら女騎士団長のおっぱいを支える係になった件について。

メソポ・たみあ

第1話 彼女を寝取られた人生最期の日

 俺、本城ほんじょうレンは絶望している。


 何故かって?


 今、目の前で大事な彼女が親友に抱かれているからだ。


「あ、あんっ、ダメぇ……マコトくぅん……」


「でも気持ちいいだろ? レンとヤるよりもさ」


「そ、そんなの言えないよぉ……」


 俺の彼女であるはずの、ミカの部屋。


 そのドアの隙間から見える、信じられない光景。


 これまで俺が何度も訪れたその場所では、ミカが甘ったるい声を上げ、俺ではない誰かに激しく抱かれていた。


 しかも、しかもだ、相手の男は俺の親友であるマコトだった。


 ミカと俺は家が隣同士だった幼馴染であり、中学から高校に上がる頃には自然と付き合い始めていた。


 マコトは高校に入ってから知り合って意気投合し、よく一緒にゲームやったりして遊ぶ仲だった。


 俺にとってミカは大事な恋人であり、マコトは一番の親友だった。


 なのに――その二人が今、身体を重ねている。


「やっぱミカの身体は最高だな。胸が小さいのは残念だけど」


「ちょ、ちょっと言わないでよぉ! 気にしてるんだから……!」


 ミカの小ぶりな胸に手を這わせるマコト。


 ああ、確かにミカの貧乳が残念だと思うことだけは同感だ。


 俺もマコトもおっぱい星人だからな。


 死ぬときはでっけぇおっぱいに埋もれて死にてぇみたいな会話もしてたくらいに。


 だが、それももはや過去の話だ。


 俺は――もうコイツらと一緒になどいられない。


 目尻から涙を流し、走り出す。


 ミカの家から飛び出し、夕日が沈みかける町の中を自暴自棄になって走っていく。


 どうしてだ、どうしてだよ――!


 ミカもマコトも、どうして俺を裏切ったんだ――!


 悔しさと虚しさ、怒りと絶望で胸が張り裂けそうだった。


 そして、そんな状態の俺はあまりに周囲が見えていなかった。


 見通しが悪い交差点を飛び出した俺は、横から乗用車が走ってきていることに気付けなかったのだ。


 ――身体が、鉄の塊に弾き飛ばされる。


 痛いと感じたのは一瞬。


 すぐに意識は消えていき、暗闇の中へと落ちていった。



 *****************

 


「――はっ!?」


 目が覚める。


 外が明るい。


 時間帯は、たぶん朝だろう。


 まず最初に見たのは、知らない天井。


 しかも明らかに木製で、現代日本の家屋とは思えないような。

 

「なんだ……ここ……?」


 ベッドの上で身体を起こす。


 だが、すぐに自分の身体に違和感を持った。


 ……縮んでいる?


 なんだか手足が短いし、指も細すぎるような……。


「っ! そ、そうだ、俺……!」


 瞬間、全て思い出す。


 いや理解する。


 現在の俺は本城ほんじょうレンではなく、レン・アーメントという6歳の少年。


 俺は異世界に転生して、今まで記憶を失っていたのだと。


 この世界はアニメもネットもないが、魔法も冒険もあるファンタジーワールドなのだと。

 

「まさか自分が異世界転生することになるとは……。でもまあ、丁度いいのかもな……」


 どうせ、あの世界に未練はない。


 大事なミカをマコトに寝取られ、全てに裏切られたあの世界に。


「ミカ……マコト……お前らどうして……。いや、もうそんなこと考えても仕方ないか」


 彼女を親友に寝取られた日が人生最期の日だなんて、最悪過ぎて反吐が出る。


 おまけにでっけぇおっぱいに埋もれて死ぬどころか、最後の感触は柔らかさの欠片もない車のフロントバンパーという。


 もう死んでも死にきれない。


 ああ、だから転生したのかな……。


 俺ってそこまでおっぱいに未練あったのか……。


 まあ、それはいい。


 本音を言えば、今すぐアイツらの下に戻って復讐してやりたい。


 だが異世界に転生したってことは、向こうの俺は既に死んでいるはず。


 悔しいけど……きっと、もうどうにもならない。


「それに……実は、ファンタジー世界の騎士って昔から憧れてたんだよな」


 俺には子供の頃から憧れているモノがあった。


 〝騎士〟。


 剣や鎧を身にまとい、馬と共に戦場を駆け抜ける騎士の姿。


 ゲームやアニメ、それにハリウッド映画なんか登場するあの勇ましい姿に、俺はずっと憧れていたのだ。


 誇り高き騎士になりたいなんて言ったら、21世紀の日本じゃ厨二病を通り越して頭のおかしな奴って思われる。


 だからずっと心の奥底にしまっていたが――この世界なら、その願望を叶えられる。


 俺は知っている、この世界には『聖騎士団』が存在すると。


 しかも俺が転生したアーメント家は、下級とはいえ騎士を輩出する家系。


 順当に行けば、俺は将来憧れの騎士になることができるのだ。


 もう願ったり叶ったりである。


「どうせ向こうの俺は死んじまったんだ。なら気持ちを切り替えて心機一転、本物の騎士を目指すとするかぁ!」


 俺は過去の無念を振り切るかのように、勢いよくベッドから飛び出す。


 そしてその日から、この世界の父にお願いして剣術の稽古を始めた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る