具象の剣士(3)
ラフロのブリガルドが周囲の警戒をしつつ、デラとメギソンのラゴラナ二機で砂層を掘りかえして大きめの
「結構大物もあるけどさ」
「1m以上のものはコンテナを圧迫するから小さめなものを重点的に。それの結果次第で回収しに来るか決めるわ」
「ほーい、了解」
小粒なものをつまんでコンテナに収める。アームドスキンはグリップセンサーで握力調整もできるから便利である。
(一個一個案外色が違う。見るからに組成も違うわ。できるだけ広範に拾い集めたい)
見ていると欲が出る。コンテナの中身と見比べて取捨選択をはじめた。いつの間にか時間が流れていく。
「ダウンバーストの予兆を確認したんな。ちょっと距離あるけど早めに切り上げるんなー」
ノルデが警告を発してくる。
「もうちょっとだけ。あと数分品定めしたら離脱するから」
「急いで、デラ。わりと変化が早いみたい」
「ごめん、フロド。あと……」
先の台詞を言葉にする隙がなかった。
「冷気が落ちた! うわ、クレーターまでできるの!?」
「回避するんな、ラフロ」
「間に合わぬ。対ショック姿勢」
砂丘の上を襲ったダウンバーストが頂上を吹きとばす。まるで噴火のようであった。一気に駆けおりてきた衝撃波が三機に迫る。
(リンク来た。衝撃波、要するに
本来、推進に使う
(あれは無理かも!)
砂丘には土台があった。砂が吹き払われ地核層の盛り上がりが露出する。膨張風化でもろくなっていた地核層が衝撃波で砕け散っている。
「ぎえ! あれはマズい!」
「なんてこと。このへんの礫ってああやってできていたのね」
「そんな悠長なこと言ってる暇ない。直撃したらラゴラナでももたないって!」
直径が数cmから数mにもいたる砕けた礫。それが砂丘の斜面を転げ落ちてきている。それなのに太ももまで砂に埋もれた三機は、すぐには飛びあがれない状態。
「ターナシールドを前に掲げてその場を動くな」
ラフロの平坦な声。
「そんなこと言っても! だいたい君は?」
「緊急事態だ。言うとおりにしてくれ」
「ちょっと!」
3mはあろうかという金属塊がブリガルドの目前に迫る。青年は背中から大振りなブレードグリップを抜いただけ。青白い光輝がひるがえり斜めに一閃。きれいな断面を見せる二つの金属塊は、一方が頭上を越えていき、もう一方が砂を蹴立てて逸れていった。
「なんちゅう技を!」
「とんでもない速度だったのに!」
見事に両断した。
デラに耳に細く吐く呼吸音が聞こえる。この異常事態に、妙にゆったりと青年は構えを取った。
次の瞬間、目にも留まらぬ速さで腕が振るわれはじめる。閃光が舞い、遅れて転がってきた無数の礫が分断されていった。その破片はブリガルドはもちろんラゴラナ二機からも外れて落ちる。
「か、神技!」
「なにをどうしたらあんなことが?」
彼女には見ることさえ敵わないのに、ラフロはすべての軌道を見切って斬り裂く。あまつさえ、破片がラゴラナに当たらない方向へ逸らしているのだ。ただ斬っているのではなく、一つ次元の違う剣技を見せていた。
「嘘でしょー!」
「私、奇跡を見てるの?」
唇をわななかせて呟く。
「超絶技巧なんな。
「それ、正気?」
「ひねりで割れたあとの軌道まで手を加えてるから動いたら駄目なんな。下手に動いたら当たるかもしれないんなー」
デラには無数の影が周りを行き過ぎているのしか見えていない。ビームもかくやという速度で、轟音をあげて金属塊が彼らを避けていく。
現実にはビームほどのスピードではないが恐怖がそう感じさせる。たった一つでも直撃すればラゴラナなど一瞬で粉砕されそうだった。
「ふん!」
砂を蹴立てて転がってきた十数mはある金属塊。ラフロは切っ先を下に滑り込ませると、上に振りあげて真っ二つに。
抜きの寸前でひねりを入れたと思われる破片は、三機の両サイドを駆け抜けていった。磨いたかのごとき断面にデラは目を瞠った。
(極めればこんなことが可能なの? 生身ならともかくアームドスキンでよ? それこそミリ単位で自分の身体を動かすように駆動させることができなければ絶対に不可能)
異常とも思える剣技を、まだ二十二年しか生きていない青年が披露している。人生のどれだけの時間を修行に費やせば到達できる領域か。逆にいえば、それしかなかった彼の人生を不憫に思うべきか。
(わかるのはただ一つ。私たちがまだ生きていられるのは彼のお陰)
小さいものは逸らしきれずにターナシールドの表面で「カン!」と甲高い音色を奏でている。そのためにラフロはシールドを掲げるように言ってきたのだ。
「ふっ!」
振り抜かれた剣身が砂を大きく跳ねあげる。ブリガルドはそのままの姿勢で静止していた。
すると驚いたことに、最後の十m級の金属塊が四つに割れる。一瞬で二閃の斬撃を受けて砂に刺さり、断面に主星オロニトルの光を映して輝いていた。
「いくらか払うべきかねぇ?」
芸当と呼べるほどの剣技。
「そんな軽口を叩けるのは彼のお陰。まずは感謝の言葉を捧げるべきじゃない?」
「もっともだ。ありがとう」
「君に依頼して正解だったわ、ラフロ」
青年は力場を消したブレードグリップを背中のスロットに戻す。その背中には満足げな色もない。当たり前にできることを当たり前にやっただけという空気。
(剣の主という要素が凝り固まって人の形になったみたいな感じ。まさに具象化した剣士ね)
デラはラフロという存在をようやく理解できたような気がした。
◇ ◇ ◇
結果を問えば、
(合金の特性や生成方法となると、帰って専用の設備を使わないと無理ね。めぼしいものが見つかると祈るのみ)
手応えは感じている。
イグレドはブブアレバのテンテロイ宙区支部に戻っている。サンプルコンテナを運びだし、あとはラゴラナを降ろすだけになっている。
「協力ありがとう、ノルデ」
かなりの助言をもらった人工知性に感謝を伝える。
「悪くない結果が出ると思ってるわ。わかったら知らせる」
「生成方法はきっとわかるんな。ただ、コストに見合う特性が発見できるかは保証できないんなー」
「もしかして知らせる必要もない? あなたは知ってる物なのかもね」
「ノーコメントな」
美少女はそらとぼける。本当に重要な合金が隠れているのか、現代技術ではハイコストすぎて量産できない物なのかも判然としない。
(彼らが協定者に渡してるっていう専用アームドスキンには当たり前に使用されている素材だったりして)
興味を惹かれて色々と調べてみた。少ないながら、驚異的な性能を発揮している事例が目にとまる。
「フロドもご苦労さま。ラフロも助かったわ、とっても」
「契約の範囲だ」
青年の応えは短い。
「またお願いするわね」
「うん、また会えると嬉しいな。よければご贔屓に」
「その若さでちゃっかりしすぎよ」
少年の髪をくしゃくしゃにする。硬い角の感触にも慣れた。
「ラフロのことも気になるしね」
「おや、惚れたのかい?」
「少なくともあなたよりは頼りになるもの、メギソン」
相方は舌を出す。
「力が必要なら言え」
「ええ」
そう言って青年の頬にキスを送る。意味がわからないというふうな剣士の頬をひと撫でしてコクピットにもぐりこんだ。
「またね」
「うむ」
(とんでもない
青年とはきっと長い付き合いになるだろうとデラは思った。
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