第2話白いロングスカート

 とある日の夕暮れ。

 西の空に金星が見えていた。

 僕は、一人、街の雑踏のなかで、流れに身を任せていた。

 イヤホンを耳に突っ込み、パンキッシュな、ドアーズの歌を聴いていた。

 そう、それは「ジ・エンド」。

 ジム・モリソンの倒錯した世界へと、僕の足は運んでいた。

 中指を立てたい気分だったけれど、金星が邪魔をした。

 僕の胸に、あまりにも、そう、あまりにも清らかすぎる不快な感情が、吹き出していた。

 雑踏。

 とにかく、いらだっていた。いらだっていたから、誰にでも、いいから、夢を語りたかった。

 路上の、空き缶を蹴っ飛ばした。

 カラン、カラン、と空き缶は、転がる石のように、転がっていった。

 空き缶を無視する。

 そう、空き缶は空き缶だ。

 しかし、空き缶がたどり着いた先に、「愛」があった。

 コロ、コロ、コロ。

 一人の女の子が、空き缶を拾った。

「ねえ、きみ」

 と女の子が言った。

 白いロングスカートに、薔薇色の頬、白い。

 僕は、白い、と感じた。

 夕暮れのせいもあったのかもしれない。

 白いスカートが、夕暮れに反射する、僕の眼を、赤く染めた。

「血」のような。

 僕は、とにかくいらだっていたんだ。

「……」

 僕の屈折した感情は、女の子に向かって、こう言わせた。

「ねえ、一緒に遊ぼうよ」

 ナンパだ。

 すると、白いロングスカートの女の子はこう言った。

「馬鹿みたい」

 僕は、さらにこう返す。

「そうだよ、俺はフール。フールなんだよ」

「何なの、変な人」

 と女の子は言った。でもどこか、笑いをかみ殺したような顔をしていた。

 僕は言う。

「これから、マックにでも行って、カラオケにでも行かない?」

 すると女の子はこう返す。

「私は、早く家に帰りたいの」

 でも、好感触。

「じゃあさ、家まで送るよ」

「いいわよ、そんな、何なの、君?」

「俺? さっき言ったじゃん。詩人だよ、あれ、おかしいな、そうだよ、俺はフールな詩人。ジム・モリソンじゃないよ。スバルっていう名前」

「スバル君、今時詩人なんてはやらないでしょ」

「そっか、じゃあ、こう言い換える、俺は、パンクな詩人のスバル」

「え」

 あきれたような顔、でも、好感触。

「あ、今、フランキンセンスの香りがした。まさか、神様?」

「そうだよ。俺は神様、だから、一緒に、天国まで、月光のドライブをしない?」

「バカみたい。私、レラって言うの。フランキンセンスの香水なんて珍しい」

「だから、言ってるでしょ。俺は、神様だって。パンクな神様かな」

「本当に、いかれてる」

 そう言って、レラは、僕と一緒に、マックへ行った。

 歩きながらレラは言う。

「そのポロシャツ、タケオキクチでしょ?」

「ああ、そうだよ」

「ダメージジーンズもカッコいいね、似合ってる。本当、パンクっぽい」

 僕はこう言った。

「とにかく、腹が減ったね」

「私も」

 僕らは速足でマックへ行った、そして、カラオケに行って、そのまま別れた。

 ラインを交換した。

 僕は、少しいらだっていたんだけれど、レラと出会って、何かが変わる予感がした。

 レラからラインが届く。

 僕はベッドの上でうつぶせになって、詩を書いていた。

「憧れの歌」

 それは、僕の向かい合っている、否、逃避する場所

 まるで、いつもの通り、そういう習慣だったんだ。

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