この退屈で美しい世界で、オレはモテたいと叫ぶ

加鳥このえ

第1話 運命の出会い

 オレは女にモテたい。だがしかし、節操がないわけではない。


 あくまで同年代に限る。妥協できても二歳差までだ。


「女にもててさ、いっぱい遊びたいなー」


 とある学校の昼休み。オレ、谷弾歩生やはずふうは勉強もせずに友人と談笑していた。


「帰ったらメイドが住んでたりしないかなー、突然異世界に飛ばされてハーレム作りたいなー。……聞いてる? プー太郎」


「誰がプー太郎だこのやろう」


 プー太郎。もとい濱僅飛太郎はまわずひたろうくんは突然怒り出してしまった。


 あーあ、めんどくさい。


「ごめんよーう」


「誠意がなってねえぞ、この! 楽観主義者が!」


 その通りである。オレは楽観主義者。


 頭の中では素晴らしいことを成し遂げてはいるが、それもまた妄想を過ぎない。


 机上の空論の空論だ。


 とどのつまりクズ。理想だけの男。


 だが、オレは。自分がどうしようもないクズだと自認しているのだ。


「あははー、ごめん、ごめん」


 だからオレは、今もこうして大人しく友人の怒りを受け止めている。


 飛太郎はオレの胸ぐらを掴み、前へ後ろへ揺らす。


「なんか、アトラクションみたいだね」


「アトラクション?」


 飛太郎は真顔でこう言った。


「なんか楽しそう」


「楽しい」


 飛太郎が「ん」と言って制服の襟を持ったから、オレは飛太郎を揺らした。


 楽しい楽しい学校生活。


「さあ、お前ら、薬の時間だぞ」


 まただ。この時間が来た。


 先生はクラスのみんなに薬を支給する。そして先生の合図で一斉に飲んだ。


「よし。それはお前らの体調を崩さないためのものだからな。ちゃんと飲むんだぞ」


 十人十色の返事が飛ぶ。


「はーい」


「まじゅい」


「今日も薬飲んだよっと。フォロワーのみんなに報告かんりょ」


「いてえ、舌噛んだ」


「先生、うんこ」


「先生はうんこではありません」


 オレは高校二年生だ。だがお腹は痛くなる。だからトイレに行った。


「うごえー」


 薬を吐く。心底気持ち悪い。


 それもそのはず。これはの薬なのだから。


「……はあ。つらい」


 約五十年前。世界は震撼した。


 人工生命体の誕生。ある科学者が、命を造った。だがそれには致命的な欠陥が存在した。それは、で死亡するということ。


 しかしそれを巧みに使い、人間様は人工生命体を軍事利用した。奴隷のように働かせ、性の道具としても使う。


「うがい、しよう」


 いつの時代も偽善者はいるもの。あるものはそんな道具を可哀想に思い、救った。


『人工生命体保護法』。それのおかげで、今クラスにいるあいつらは救われたのだ。


 しかし寿命は一年。それを解消するために薬を飲む毎日。


 そこまでして生きたいか? とも思う。


 オレはそんなことを考えながら、うがいをして教室に戻った。


 そして午後の授業を受ける。学校が終わり、友人に挨拶をした。


 帰る時間だ。


「……」


 ふと、上を見る。


 そこには建物があった。


 ある偉大な科学者は、この世界の重力を操ったそうだ。


 鏡のように反射した世界。上には地面がある。なんておかしな世界だ。


「って、あっちの人も思ってるんだろうな」


 なんかエモい、と思うオレであった。


 そんなふうにして帰るいつも通りの日常。


 オレはドアノブを回し、「ただいま」と言った。


 偉大なる科学者。重量の操作。人工生命体の作成。この世で最も科学を弄んだ


「おかうぇり! 愛すべき息子よ!」


 それはオレの母、谷弾巫女理やはずみこり


 筋金入りのマッドサイエンティストである。


「さて、いつものやりますか」


「うん」


 オレは楽観主義者だ。だから死ぬのも怖くない。


「えーと、起動してー」


 オレの名前は谷弾歩生やはずふう


「準備完了! んじゃあ、ここに寝てね」


 識別ナンバー1。


 またも、成長を止めた中学生姿の女に殺される。


「んじゃあ、また明日ー」


 お休みと言う前に、オレは死んだ。


 製品でさえ、寿命は一年。ならプロトタイプは?


 谷弾歩生。彼は人間のエゴで生きていた。


「おはよう! 我が愛すべき息子よ!」


 オレの名前は谷弾歩生。


 一体何度目の朝だろうか?


 今日もまた、平凡な日々が始まる。


「むっ、む、む、む、む……。ん? なんだ電波が?」


 いつもいた母が、消える。


「やはり実体は向こうだったか。ん? お前は噂の……」


 目の前に現れる金髪の女性。彼女は黒い服に身を纏い、銃を持っていた。


 家が半壊していることに気づいた頃にはすでに、オレは彼女に魅入られていた。


「お前は敵か?」


 銃を構える彼女。その裏に見える怯え。


 ああ、かわいい。


 しかも同年代っぽい!


「……好きです」


「……はあ!?」


 赤面する彼女。


 家は半壊、オレの記憶を次のオレへ遺伝させる機械も壊れてある。母親はもういない。すなわちご飯が食べれない。


 つまりオレはもう死ぬ。


 だったらせめて、『ちゅー』くらいしたかった。


「結婚してください」


 彼女はさらに赤面し、


「なに言っとんじゃー! お前!!」


 当然オレは死ぬ。


 意識が薄れる最後、彼女はこう言っていた。


「ボス! 谷弾の家を爆破した! 谷弾はいない。やはり向こうにいる模様!……え? なんで声を荒げてるんだ、だって? うるさい!」


 これにて、オレ、谷弾歩生やはずふうは死亡した。


「……おはよう。愛すべき息子よ」


 そう聞こえた気がした。


「……は!?」


 あり得ない! オレが生き返るための機械は壊れた。なのになんで、生きているんだ!?


 困惑のせいか、オレの視線は細くなる。


 気づくとここは、知らない場所だった。


「……は?」


 命とはなんなのだろうか? 大事なのは体? 記憶? 考え方?


 オレはこう考える。


「おっぱいがある」


 魂が存在する場所だと。オレは鏡を急いで探し、自分の顔を確認した。


 そこにいたのは、クラスメイトの顔だった。


「……どういうことだ?」


 どうやらオレは、まだ生きるらしい。


「……まあいいか。頑張って女の勉強しよう」


 ……いやまて。


 オレはリビングへ向かう。そこにはこの体の主、柊木葉ひいらぎこのはの両親がいた。


 もちろん、この人たちに生殖機能はない。だが政府から支給されてくるのだ。子どもというやつが。


 オレは台所から包丁を取り出し、首を切った。


 最後に聞いた言葉は、柊の両親の「どうしよう、困ったな」だった。


「おはよう、愛すべき我が息子よ」


 目が覚める。すかさず鏡で確認すると、そこにいたのは濱僅飛太郎はまわずひたろうだった。


「なるほど」


 なんとなく状況は察したので寝た。次の日、先生が悲しそうに柊木葉と谷弾歩生が死んだと言っていた。


 オレは友達に「谷弾のこと、残念だった」と言われたから、「全然大丈夫だよ。気にしないで」と言った。


 さて、困った。友達がいなくなった。飛太郎がいなくなったら誰とお弁当を食べればいいのだろうか?


「……」


 ふとよぎる金髪の女の子。


「あーあ、モテたいなあ」


 オレ、濱僅飛太郎は、ふとそう呟いた。


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この退屈で美しい世界で、オレはモテたいと叫ぶ 加鳥このえ @guutaraEX

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