ph100 討伐チームーsideヒョウガー

 俺達は、道六エンラという奴の力によってサタンのいる氷山エリアの上空に転移した。


 原理は分からないが、巨大な魔法陣が足場となっているおかげで空中でも立てている。


 目の前には結界を殴り続けているサタン。俺達の存在など気にも止めず、外に出ようと暴れていた。


「父さん!!」


 俺はサタンの肩の上で、黒いマナに覆われ苦しんでいる父さんに向かって叫ぶ。


 さっきは言えなかった言葉を伝える為に、今度こそ父さんを止めるために。


「もうやめてくれ!!」


 五金総帥は父さんの目的が精霊の殲滅だと言っていた。ネオアースを使い、精霊界を消滅させようとしていると。

 

「こんな事をしても母さんは喜ばない!!……もう、帰ってこないんだ!頼むから……これ以上はやめてくれ」


 父さんがそんな思いを抱いたのは、母さんが関係しているのだろう。なぜなら、母さんは精霊の手によって殺されたのだから。


「俺も一緒に背負うから……」


 アケローンはサタンを封印する為に造られた人工精霊だ。……いや、アケローンだけではない。コキュートスも、ステュクスも冥界川シリーズ全ての精霊は人工精霊だった。


 それがサタンのマナによって操られていると言うことは、母さんに痣をつけたのはサタンだったのだろう。そして、父さんはその事に気付いていたんだ。だからあの時、母さんの痣を消すためにはサタンの実体化が必要だと判断した。けれど失敗し、母さんは死んでしまった。


 きっと、母さんが死んで、父さんは狂ってしまったのだろう。全ての精霊を恨む程、仇の力すら利用する程に壊れてしまったのだ……そんな父さんの憎しみが、辛さが俺には分かる。初めて罪を犯した罪悪感も、後悔も、それを上回る程の憎悪も俺には分かるんだ。


 だって、俺はずっとアケローンの持ち主が憎かったから……母さんを死に追いやった奴が憎いと……母さんと同じ痣を姉さんに刻んだ奴を絶対に許さないと……そう決意を抱いて精霊を狩っていたのだから。


「どんなに時間がかかっても、父さんと一緒にこの罪を償うから!!だから!!」


 俺も父さんと同じなんだ。知らなかったなんて免罪符にはならない。俺もサタンを実体化させる為に精霊を、人を傷つけていた。この事態は俺が招いたも当然なんだ。


「もうやめてくれ……昔の、優しい父さんに戻ってくれ……」


 だから、これ以上父さんが憎悪にも罪悪感にも囚われないように絶対に止めてみせる。そして、出来る事ならあの頃のように……家族で笑って過ごしたあの頃に戻りたい。例え何年、何十年間かかったとしても取り戻してみせる!!


「父さん!」

「……あはぁ……いい、天気だぁ…」

「……とう、さん……?」

「空が闇に覆われ……黒きマナの雨が降っている……」


 何だ?父さんの様子がおかしい。よく分からないが、物凄い違和感を感じる。すごく、変な引っ掛かりのような……そんなもどかしい違和感を……。


「さいっっつっこうに滅亡日和じゃあないかぁーっはっはっはっはっはっ!ひぃっ!あはっ!あひゃっ!あひゃははははははははは!!」

「!?」


 父さん?いや、これは本当に父さんか?見た目は父さんなのに、まるで父さんの皮を被った異物でも見ているような気分だ。


「な、なんだ?シロガネの父ちゃんも変わってたけど、ヒョウガの父ちゃんもちょっと……うん、アレだな……何て言うか……凄いな!」

「違う。アレは、父さんではない……もっと別の……違う何かのような……」

「……君の心情は察するよ。けど、その嘘は苦しいんじゃないかい?潔く認めなよ。あの変な笑い声を上げてるのが父親だって」

「そういう意味で言ったのではない!俺はただ!父さんがーー」

「フン、キサマの言うことは当たらずとも遠からずといったところか」

「ニーズヘグ!」


 俺がニーズヘグの方を振り替えると、ニーズヘグは目を細めながら父さんを見ていた。


「黒く、不愉快な気配を感じる。サタンとは違うもっと不快な気配だ……昔よりも酷くなっているようだな……いや、酷くなり続けている……」

「それは……っ!?どういう事だ!ニーズヘグ!!」

「知らん。我に分かる事はそれだけだ」

「くっ!」


 サタンとは違う不快な気配だと?昔よりもという事は、父さんは昔からそれに?ならば、ソレはいつからだ?いつから父さんはその存在に!?


「よく分かんねぇけどさ、ヒョウガの父ちゃんは操られてるって事か?」

「分からない……が、今の父さんが正気ではない事は確かだ」

「そっか……じゃあ、全部ソイツが悪いんだな!ヒョウガもヒョウガの父ちゃんも悪くねぇ!」

「は?」


 俺はタイヨウの発言に、ポカンと口をあける。


「た、タイヨウくん?それはどういう意味だい?」

「だってさ、ヒョウガの父ちゃんはソイツのセイで変になっちまったんだろ?ならサタンを実体化させたのもソイツのセイだ!」

「それは流石に難しいんじゃーー」

「俺は!ヒョウガも、ヒョウガの父ちゃんも幸せになって欲しい!」

「!」

「詳しい事は分かんねぇけどさ、ヒョウガの父ちゃんがサタンを実体化させようとしてたのは、すっげぇ辛い事があったからだろ?ヒョウガだってずっとずっと苦しんだんだ」


 タイヨウは悲しそうな顔で俯き、奴らしくない自信のない声で呟いた。



「これが俺のワガママだってのは分かってる。ヒョウガの父ちゃんのセイで傷付いた人がいることも、全部が全部そうする事は出来ないってのは分かってるよ。でも、ちょっとぐらいいいじゃんか……俺は、これ以上ヒョウガが辛い思いをすんのは嫌だ……少しでも良くなるなら、俺はその可能性にかけたい」

「タイヨウ……」


 急にらしくない事を言うと思ったら……本当にお前は……。


「全く、何処でそんな悪知恵を覚えたんじゃ」

「ドライグ!」

「あの陰気臭い小童のせいかのぉ」

「……陰気臭い小童?」

「サチコさんの事だね!」


 タイヨウの疑問に、五金シロガネが意気揚々と答える。


 コイツは……本当に影薄の悪口には嬉しそうに反応するな。……まぁ、影薄が陰気臭いというのは否定できないが。


「が、小童の言うことは一利あるぞ。つまり、小童はあの若造が何者かに洗脳されていることが証明出来れば、情状酌量の余地があるとみなされ、刑を軽くできるのではと言いたいのじゃろう?」

「そうそれ!じょうおうしゃくりゃう!」

「で、どうなんじゃ?白い小童」

「肯定はできないけど、否定はしないよ」

「ならば先ずはサタンの暴走を止め、その何者かの正体を暴かねばならんのぉ」


 ドライグが羽を広げながらタイヨウを一瞥すると、タイヨウはそうだなと頷いた。


「じゃあ、俺たちがやる事は1つだな!」


 タイヨウは笑いながら拳を前に出す。そして、サタンを巻き込むようにバトルフィールドを展開し、奴の意識を此方に向ける。


「なななんななんだ?これは……なんのマネだぁあぁ?」


 今気付いたと言わんばかりに、父さんの姿をした何者かは俺達を睨んだ。


「わたわわわたしわたしわたわたしの邪魔をするすすするのかぁ?」

「そうだと言ったら?」

「ゆ、ゆゆゆゆ許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さんんんん!!わたわたたしの俺の邪魔するものは死をををををを!!」


 俺はタイヨウの隣に並びながら、デッキに触れた。


「やれるものならやってみるがいい!!返り討ちにしてくれる!」

「天才の僕に喧嘩を売るとはいい度胸だね。後悔してもしらないよ?」

「あぁ!俺達なら何だって出来る!」



「倒すぞ!サタン!!」



 俺達3人は構えながら腕輪にマナを込める。



「正義の審判を始めよう!コーリング!ミカエル!エウダイ!」

「敵を凍てつくせ!コーリング!ニーズヘグ!ウェンディコ!」

「楽しいマッチにしようぜ!コーリング!ドライグ!ツァイトウルフ!ノミノノーム!!」


「キタレ絶望おお!!愚民に死の制裁をををを!コーリング!魔王サタンんんん!!」


「レッツサモン!!」









「わたおれわわたしのフェイ、ズ……ドロー」


 父さんの姿をしたナニカはカードをドローすると、腕を下ろしてサタンを見た。


「ええええMP5を消費してサタンのスキル、闇の使徒生成を発動おおお」


 サタンから黒いマナが放たれ、黒い、気味の悪いモンスターがフィールドに現れる。


「こここ効果はレベル0、体力1のモンスターを召喚するるる。このモンスターは攻撃する事ができないぁぃ。ままままたぁ、相手はこのモンスター以外攻撃出来ないぃ……わ、わたしにフェイズは終了、だ」


 なるほど、厄介なスキルだ……早めに処理をしたいところだが、集団戦は全員の1フェイズ目が終わるまで攻撃出来ない。今は態勢を整える事に集中しなければ。


「じゃあ俺のフェイズだな!ドロー!!」


 タイヨウが勢いよくカードをドローする。そのまま手札に触れて一枚のカードを取り出した。


「俺は手札から大地の宝玉をドライグに装備させる!装備したモンスターの攻撃力を1プラスしてドライグの攻撃力は3になる!俺のフェイズは終了だ!」

「ならば僕のフェイズだね。ドロー」


 タイヨウに続くように五金シロガネがカードをドローした。五金シロガネは引いたカードを手札に加えると、元々持っていた手札に触れる。


「僕はMP2を消費して天界の盾を装備するよ」


 五金シロガネは、奴の様子を伺いながら盾を構える。奴に動く素振りはない。五金シロガネはチラリと手札を確認すると、静かにフェイズを終了させた。


「……俺のフェイズだな」


 俺のフェイズが終了すると同時に、攻撃が始まる。慎重に備えなければ。


「ドロー!……俺はMP1を消費して氷結魔導銃を装備!更に手札から道具カード、氷像魔導士の造形刀を使用!防具を装備できなくなる代わりに、現在自身が装備している武器をコピーし、装備する事ができる!」


 氷龍の宝玉が手札になかったのは残念だが攻撃の準備は整った。手札も悪くない。


「俺のフェイズは終了だ!」


 俺がフェイズを終了させると、父さんの姿をしたナニカはカードをドローする。そして、不気味な笑みを浮かべたかと思うと口を開いた。


「わわわわわたしは手札から道具カード、人工精霊製造機を発動おおおお!!自身のフィールドにいるレベル0のももももモンスターを複製するううう!!」


 悍ましい機械がフィールドに現れる。その機械は黒い精霊を取り込んだかと思うと、錆びた金属音のような不愉快な音を出しながら2体の精霊を吐き出した。


わたしは手札からサークル魔法、魔王の遊戯場を発動ぉ!さささ更にいぃぃ、MP1を消費して魔の外典を自身に装備いいい!!」


サークル魔法の効果によって、バトルフィールドの景色が変わる。バトルフィールドの結界は黒いマナに覆われ、足元には様々な死体が転がり、蛆虫が這い回っていた。


「うわっ!?なんだこれ!?」


 タイヨウが虫や死体を避けるように後ろに下がる。


「……趣味の悪い魔法だね」

「私も主と同じ意見です」


 サークル魔法はフィールド全てに影響を与える魔法カードだ。主導権を握られる前に破壊しなければならない。


「さささサタンよ!ミカエルを攻撃ぃい!」

「させるか!俺はMP1を消費してツァイトウルフのスキル、強固な結晶を発動!1フェイズに一度だけ、相手から受けるダメージを0にする!!」


 サタンの攻撃がツァイトウルフによって止められる。


「タイヨウくん!」

「大丈夫か!?シロガネ!」

「う、うん!ありがとう!助かったよ」

「おう!」

「……わたしのフェイズは、終了だ」


 奴はサタンを攻撃させただけでフェイズを終了させた。此方の動きをみるために温存しているのか、動く様子はない。


「じゃあ俺のフェイズだな!ドロー!!」


 いや、今は考えても仕方がない。数的優位はこちらにある。落ち着いて対処すれば問題ないはず。


「俺はMP1を消費してノミノノームのスキル、鍛冶士の打ち直しを発動!このフェイズ中、装備しているカード1枚の攻撃力を2倍にする!俺は大地の宝玉を選択!これでドライグの攻撃力は4になるぜ!更にMP2を消費して手札から赤龍の軍旗を装備だ!」


 なるほど。流石タイヨウだ。これで奴が何か仕掛けても赤龍の軍旗の効果で躱せる。


「バトルだ!ドライグ、闇の使途を攻撃だ」

「まかせ……!?ななな、なんじゃあ!?」

「え!?どうしたんだ!?」

「体が動かん!!」

「なんだって!?」


 本当に動けないのだろう。ドライグは腕を振り上げ、不自然な格好で止まっている。


 何故だ?奴は何もしていない筈!


「そうか!タイヨウくん!闇の使途の効果だ!!」

「……そういう事か」

「え?な、なんだ?どういう効果だ!?」


 闇の使途の効果は相手はこのモンスター以外攻撃出来ない。攻撃対象を自分に縛る効果を持っているのだ。そんなモンスターが2体もいるということは、どちらも攻撃出来なくなってしまう!!


「やられたな……俺達は今、闇の使途の効果によってモンスターの攻撃を封じられたんだ」

「えっと、つまり攻撃が出来ないって事か?」

「そうみたいだね」

「ええええ!?そんなんアリかよ!俺何も出来ねぇじゃん!!」


 タイヨウは頭を抱えながら座り込む。


「落ち着けタイヨウ!封じられたのはモンスターの攻撃のみだ!」

「うっ……俺の手札じゃ動けねぇ」

「なんじゃと!?情けないにも程があるわい!」

「し、しょうがねぇだろ!ないもんはないんだから!!俺のフェイズは終了だ!」

「この瞬間!魔王の遊技場の効果を発動だぁ!」

「え」

「攻撃できるモンスターに攻撃をさせずにフェイズを終了した場合、そのモンスターの攻撃力分の効果ダメージを受ける!!」

「うわぁあぁぁ!!」

「ぐぬぅ!」

「タイヨウ!」

「タイヨウくん!!」


 くそっ!奴は此方の動きを封じ、効果ダメージで体力を削るつもりか!!


「大丈夫かい!?」

「へ、いきだ……ドライグは!?」

「ワシもなんともないわい!!」

わたしは魔の外典の効果を発動ぉ!相手のモンスターに効果ダメージが発生した時、そのモンスターの数だけMPを回復する!」


 MPを回復だと!?これで奴のMPは2から5なってしまった!サタンのスキルが使えてしまう!


「攻撃できないなら効果ダメージだ!僕のフェイズだドロー!僕はMP3を消費してミカエルのスキル、審判の光を発動!」

「…………王の御膳、だ……わたしはMP1を消費して手札から魔法カード、魔王への謁見を発動!このフェイズ中、相手モンスターはスキルを発動できなぃ!分をわきまえろムシケラぁあぁあ!!」

「僕を見くびるな!MP2を消費して手札から魔法カード、天罰を発動!!」


 五金シロガネは不適な笑みを浮かべながら奴を見る。


「効果ダメージに対策をしているだろう事は分かってたさ……無策で仕掛けるわけがないだろう!僕は相手の魔法カードの効果を無効にし、相手モンスター1体にダメージ1を与える!!」


 サタンの体力か25から24に下がる。


「さぁくらうがいい!審判の光だ!!ミカエルの攻撃力分のダメージを相手モンスター全てに与える!!」

「ぐっ!」


 闇の使徒は消滅した。サタンの体力も22まで下がった。


「すげぇ!流石シロガネだ!」


 奴のMPは4になり、サタンのスキルは使えない。手札は4枚も残っているが仕掛けるなら今だろう。


「僕は手札から道具カード、光の羽を使用!このフェイズ中、光属性モンスターの攻撃力を元々の攻撃力分加算する!更に手札から韋駄天の羽をエウダイに装備だ!攻撃力1のモンスターはダブルアタックが可能となる!!」


 五金シロガネも同じ考えなのか、自身のモンスターの攻撃力を上げる。攻撃さえできれば効果ダメージを受けないのだ。闇の使徒がいない今なら安心して上げられる。


「バトルだ!エウダイ!ミカエル!サタンを攻撃!」

「はっ!」

わたしはMP1を消費して闇の配下召還を発動!消滅した自身のレベル1以下のモンスターを2体までフィールドに戻す!この時のモンスターの体力は1となり、スキルを使えない!」

「なっ!?」


 闇の使徒が戻り、羽を広げたミカエルが不自然な格好で止まる。攻撃を封じられたドライグと同じように。


 スキルは使えない筈ではないのか!?それとも、闇の使徒の効果は対象外ということか!?あくまでもサタンの効果であって闇の使徒のスキルではないということか!?


「攻撃、できないのならば受けてもらおうか……魔王の遊技場の効果を!!」

「あああああああ!!」

「っ!ある、じ!」

「シロガネ!!」


 魔王の遊技場の効果により、モンスターの攻撃力分のダメージを受けたミカエルの体力は11に、エウダイは9となった。


 更に魔の外典の効果によって奴のMPが3から5になる。


「大丈夫か!?」

「問題ない、よ……僕のフェイズは終了だ」

「俺の番か……」


 くっ、やはり魔王というだけあって一筋縄ではいかないな……此方は3人だというのに押されている。


 このフェイズでドローすれば、俺の手札は4、MPは7となる。相手の場には闇の使徒がいる。生半可な攻撃は通じない。さて、どうするか。


「ふ、ふひゃ……ふひゃひゃひゃひゃひゃあ!!」

「!……父さん?」


 突然、父さんの姿をしたナニカが笑い声を上げた。俺は一歩引きながら警戒を強めていると、奴は歪な顔で俺達を見た。


「お前ら弱すぎなんですけどぉ~!!くっそウケる!!」


 ガラリと変わった雰囲気。明らかに父さんではない。離れていても感じる不快なマナに全身に鳥肌が立つ。


「あ゛ー、あーえーあー……だぁいぶ馴染んだかぁ?」

「貴様はいったい……」

「俺?俺ちゃんはぁ……まっ、なんでもいーだろ。今は楽しもうぜ?このゲームをよぉ!!」

「ふざけるな!!」

「ヒョウガ……」


 タイヨウの心配そうな声が聞こえる。ニーズヘグのたしなめるような視線を首をふって受け流す。


 分かっている。大丈夫だ。俺はまだ冷静だ。


「……貴様か?」

「あん?」

「父さんを……父さんを狂わせたのは貴様かと聞いている!!」

「……そーだと言ったらぁ?」

「っ!!ドロー!俺は手札から氷龍の宝玉をニーズヘグに装備する!!」

「ヒョウガ!」

「分かっている!!」


 大丈夫だ。ニーズヘグ、お前の言いたい事は分かっている。奴の挑発には乗らない。


「おいおい、そぉんなカリカリすんなよぉ。俺ちゃんはぁ、コイツの願いを叶えてやっただけだぜぇ?」


 父さんに取り憑いている謎の存在はサタンの肩から降りると、サークル魔法によって作られている魔王の椅子に座った。


「どぉしても精霊が憎いっつぅから手ぇかしてやっただけだってぇのに酷くなぁい?俺ちゃんマジシンガイ~」

「……今まで父さんを操っていたのか?」

「んなワケねぇだろ。そんな面倒なことしません~。ぜぇんぶコイツの意思に決まってんだろぉ」


 駄目だ。耐えろ。冷静さを見失うな。


「面白そうだったしぃ、俺ちゃんのマナを貸してやったんだよ!……まぁ、それでチョビーっとだけ?ぶっ壊れたみたいだったけどぉ?」


 ふざけた奴だか奴は強い。冷静さを失えば勝てるものも勝てなくなる。


「あー、そぉいえばぁ……あん時のコイツ……なんか女をぉ?ふひっ……あ、痣つけてふひひっ……殺した時なんざふひゃひゃ!泣きながら笑ってんのぉ!くっそ面白くてさぁ!!思い出しても腹痛ぇ!!」

「きっさまああぁあぁぁ!!」

「ヒョウガ!!」


 すまない。ニーズヘグ……俺には無理だった。


「俺は手札から道具カード破氷の槌を使用!!フィールドにあるサークル魔法を1つ破壊する!俺が破壊するのは魔王の遊技場だ!!」

「およ?」


 サークル魔法によって具現化された椅子に座っていた奴の体が、カードが破壊された事によって落ちる。


「MP1を消費して魔法カード、冷気誘引を発動!

自身のモンスターの攻撃を放棄し、相手モンスターに攻撃を放棄したモンスターを攻撃させる事ができる!!対象はサタンとニーズヘグだ!!」


 怒りで全身の血が煮えたぎっている。


「MP3を消費してニーズヘグのスキル、呪縛の鎖を発動。相手モンスターの攻撃力を1にして、下げた分の攻撃力の数値を加算する!!」


 奴だけは絶対に許さないと心が叫んでいた。


 此方から攻撃できないのであれば、相手に攻撃させればいい。そして、氷龍の宝玉の効果を使えば反撃でダメージを与える事が出来る。


 これで奴の顔面に拳をぶちこでやる!!


「くらええええええ!!」

「虫けらにしちゃあ頑張るじゃねぇか……でもざぁんねん!MP4を消費してサタンのスキル、武装解除を発動!!相手が装備しているカードを全て破壊し、破壊したカードの枚数分のダメージを相手モンスター全てに与える!!」


 消費MPが4だと!?サタンのレベルは5の筈なのに何故!?


「あ゛ー、そういやぁ魔の外典の効果を言っちゃいなかったなぁ……魔の外典はぁ、魔王属性のカードを使用する際、MPを1軽減すんだよ!」

「なんだと!?」

「そうはさせるか!僕はダストゾーンの天罰をゲームからドロップアウトさせ、効果を発動!相手モンスター1体のスキルを封印状態にする!封印するのはサタンだ!」

「無駄なんだよぉ!俺はMP1を消費して魔法カード、魔王の防壁を発動!選択されたモンスターはこのフェイズ中、相手の選択の対象にならない!勿論対象はサタンだぁ!!」

「なっ!?」


 冷気誘引の効果でニーズヘグはダメージ1をくらう。しかし、サタンの効果で氷龍の宝玉が破壊されている為、反撃できない。


 そして、俺達が装備している装備カードの枚数を合わせると7枚だ。合計7ダメージが俺達の全てのモンスターに襲いかかる。


「さぁ!死に面さらせやぁ!!」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」


 全身が切り刻まれるような激しい痛みに襲われる。耐え難い激痛に意識を飛ばしそうになるが、奥歯を噛みしめて必死に耐えた。


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