ph90 傷だらけのミカエルーsideタイヨウー


「うわぁ!」


 いっっつってぇえぇぇ!尻打った!めちゃくちゃ痛ぇ!!


 俺がお尻をさすりながらキョロキョロと周りを見渡すと、知らない場所にいた。空が見えないぐらいびっしりと木が生えていて、まるで木でできたトンネルの中にいるみたいだった。


「……いつまで情けない姿で座っておるのだ」

「ドライグ!」


 俺がボーッと見た事ない不思議な景色を眺めていると、実体化したドライグが呆れたようにため息をついた。


「命令されるのは癪だが、おヌシは偉そうな若造が言っとったマナ石の元へ行きたいのだろう?ならばわしを待たせるな!わしの気が立つ前にさっさと立たんか小童が!!」

「偉そうな若造って……もしかして、シロガネの父ちゃんの事言ってんのか?」

「それ以外に誰がおる!……全く、偉大な竜であるわしに命令しおって……最近の若いもんは年長者を敬うという事を知らんのか!」


 ドライグにとっちゃぁシロガネの父ちゃんも若造なのかぁ……ドライグらしいっちゃあらしいけど……なんだかなぁ。


 俺はブツブツと文句を言い続けているドライグに何とも言えない気持ちになりながら、とりあえず、マナ石を壊しに行かないとと、立ち上がった。







 時間がないからと走って移動していると、目の前に出口が見えた。


 俺は更にスピードを上げてトンネルを抜け出したけど、目の前にどどーんと大きな木が立っていて、焦って急ブレーキをかけるように足を止めた。


 大きな木の中に埋められるようにでっかい石があって、あれがマナ石かな?と首を傾げていると、ボロボロの姿で倒れてるミカエルに気付き、慌ててミカエルに駆け寄った。


「ミカエル!?どうしたんだ!?ミカエル!!」


 俺が必死に呼んでもミカエルは何も言わない。ぐったりと倒れたままピクリともしない。


 なんで?どうしてミカエルが倒れているんだ?誰がミカエルを傷つけたんだ?それに、シロガネはどうしたんだ?ミカエルの相棒なのに、なんでシロガネは側にいないんだ?もしかして、シロガネに何かあったのか?


 心配で頭の中がグルグルする。考えが全然まとまらない。こんな時、ヒョウガやサチコがいてくれたら……。


「タイヨウくん」


 突然後ろから声が聞こえた。それはずっと心配していた友達のーーシロガネの声だった。俺は嬉しくなって笑顔になる。


「シロガネ!!」


 俺が後ろを振り向くと、シロガネは少し離れた場所に立っていた。シロガネのところに行ってちゃんと無事かどうか確かめたかったけど、倒れているミカエルが心配で、ミカエルの側にしゃがんだまま声を張り上げた。


「無事だったんだな……良かった……シロガネ!聞いてくれ!ミカエルが大変なんだ!すっげぇ怪我してて呼んでも起きないんだよ!!俺のマナじゃ回復出来ないからシロガネがーー」

「まだ生きてたんだ。ソレ」

「…………え?」

「意外としぶといんだね……まぁいいや。タイヨウくん、どいてくれるかい?ソレに止めを刺すから」

「は、はぁ!?」


 シロガネが何を言っているのか分からなかった。けど、今のシロガネが危ないって事は分かったから、シロガネからミカエルを守るように両手を広げた。


「お前、何言ってんだよ……止めって何だよ!」

「天才の僕が持つ精霊は完璧でなければならない……なのに、ソレがレベルアップも出来ない出来損ないだったなんて心底がっかりしたんだよ……そんなモノが僕の精霊だったなんて恥晒しもいいところだ」

「なんっ、だよ……それ」

「今の僕は僕に見合った新しい完璧な精霊を手に入れた。だからソレはもう用済みってわけさ」


 恥さらし?用済み?シロガネは何を言ってるんだ?


「サモナーに捨てられた精霊なんて惨めだろう?なら、サモナー自身の手で消し去るのがせめてもの慈悲だと思わないかい?君もサモナーなら僕の気持ちが分かるだろう?」

「わっかんねぇよ!!」


 本当に分からなかった。シロガネが何を言っているのか、何でこんな酷い事が言えるのか全く分からなかった。


「わっかんねぇ!わっかんねぇ!全っつっっ然分かんねぇ!!お前の言ってる事1つも分かんねぇよ!!」


 見合った精霊ってなんだよ!ミカエルは相棒だったんじゃないのか!?大事な友達なんじゃないのかよ!!出来損ないだとか、消す事が慈悲だとか意味分かんねぇ事言うなよ!!


「友達に完璧だとか、完璧じゃないとかそんなのないだろ!?大事だから側にいる!そういうもんじゃないのかよ!?」

「君って本当におめでたい頭をしてるよね」


 シロガネは今まで見たことないような怖い顔で笑っていた。


「精霊が友達だって?馬鹿馬鹿しい……精霊はサモナーが強くなるための道具。それ以上でもそれ以下でもない。強ければ強い程いい。そうだろう?」

「違う!精霊は道具なんかじゃない!楽しい事も、辛い事も全部分けあって一緒に前に進んでくれる!!大事な大事な友達なんだ!!強いとか弱いとかそんなのない!それに、本当に強いサモナーってのは1番大事な相棒とーー」

「あぁ!もう!うるさいなぁ!!」


 シロガネは怒鳴る。物凄く怒った顔で俺を睨んでいた。


「……僕らの主張は相反するようだ。この手の話題はいくら時間を費やしても平行線にしかならない。時間の無駄だね」


 シロガネはMDマッチデバイスを構えた。


「なら、サモナーならサモナーらしく、公平にマッチで決着をつけようじゃないか」


 マナを込めて、今にもマッチを始めようとしている。


「勝った方が正しい……実にシンプルでいいだろう?」


 シロガネが真っ直ぐ俺を見る。あぁ、本気なんだなって事が伝わった……けど!


「…………っ、出来ねぇ!俺には友達を傷つける事なんて……」


 俺はシロガネを見ていられなくなって目を反らした。


「それに……俺はお前と戦いに来たんじゃないんだ!マナ石を壊してサタンの実体化を止める為にーー」

「じゃあ僕が理由を作ってあげるよ……ステュクス!」


 ステュクスと呼ばれた精霊がシロガネの後ろに現れる。


 ステュクス?ステュクスだって!?それって、シロガネの父ちゃんやケイ先生が言っていた冥界川シリーズの精霊じゃないのか!?なんでそれをシロガネが持っているんだ!?


「君が勝ったら大人しくマナ石を破壊させてあげる」


 精霊狩りワイルドハントしか持っていない筈の精霊をどうしてシロガネが……。

 

「僕が勝ったら、マナ石にステュクスのマナを送り、サタンを実体化させる……精霊狩りワイルドハントとしての責務を果たさせてもらうよ」

「……は?」


 今、シロガネはなんと言った?精霊狩りワイルドハントとしてと言ったのか?じゃあシロガネは……シロガネは精霊狩りワイルドハントの仲間になっちまったって事なのかよ!!


「サタンの実体化を止めたければ僕を倒すしかない」

「そんな……」


 信じられない。シロガネが精霊狩りワイルドハントになっちまったなんて信じられるわけがない!!絶対に何かある筈だ!……けど、俺じゃ何にも分からない……。その何かが分からない……ちくしょう!!何で俺はこんなにもバカなんだ!!サチコやヒョウガみたいに頭が良かったら何か分かったかもしんねぇのに……変わっちまったシロガネを助けられたかもしんねぇのに!!


「うっ……タイヨウ……さま……」


 俺がどうしようと悩んでいると、ミカエルが俺の名前を呼んだ。俺は直ぐにミカエルの方を向いて声をかける。


「ミカエル!!」


 良かった!気がついたのか!


 俺は起き上がろうとするミカエルを支える。無理すんなと言っても、ミカエルは大丈夫だと言い張って体を起こした。


「大丈夫なわけないだろ!そんな傷だらけで……っ!!」


 俺はその続きを聞くのが怖かった。けど、聞かないと何も分からないままだと勇気を出してミカエルに聞いた。


「その傷は……シロガネがやったのか?」


 ミカエルは何も答えない。ただ、悲しそうに笑っている。その表情が全てを語っていた。


 ……そうか……シロガネがやったのか……。


 何だか胸のあたりが苦しくなって、唇を噛みながら下を向いた。


「私の事はいいんです……それよりも、どうか主を……シロガネ様を救って下さい……」

「シロガネを救うって……」


 シロガネを救って欲しいという言葉に、ハッと顔を上げる。


 もしかして、シロガネがあぁなったのには何か理由があるのか?ミカエルはそれを知ってんのか!? 


「……今の主はサタンのマナに支配されています」


 サタンのマナに支配されてるだって!?


 ミカエルに言われて、そういえばと鉱山エリアでサチコが言っていた言葉を思い出した。


 あの時、サチコはシロガネが洗脳されて精霊狩りワイルドハントの手先になったかもしれないって言ってなかったか?じゃあ、今のシロガネは正気じゃない?望んでこんな事をしている訳じゃない!


「サタンの支配から逃れる為には……貴方の助力が必要なんです」


 目の前が明るくなったみたいだった。シロガネを助ける手がかりが見つかって希望がわいてくる。


「助力ってなんだ!?俺は何をすればいい!?どうすればシロガネを助けられるんだ!?」

「主を救うにはステュクスを倒すしかありません……マッチでステュクスに支配された主を倒すことで、サタンのマナから解放されます……だからどうか……貴方のお力でシロガネ様を……うっ」

「お、おい!無理すんなよ!」


 俺はミカエルをゆっくりと寝かせながら、シロガネと向き合うように立ち上がった。


「……分かった……それしか方法はないんだな……」

「はい……全ては私の力不足ゆえ……シロガネ様のご友人にご迷惑をーー」

「迷惑なんかじゃねぇよ」


 洗脳されてんなら、今までの言葉はシロガネの本心じゃない。その事がホッと俺の心を落ち着かせた。


「友達を助ける事が迷惑なわけがない!!」

「タイヨウ様……」


 シロガネが操られているってんなら、元に戻った時、絶対にアイツは傷付く。辛くて、苦しくて……すっげぇ落ち込む筈だ。


 これ以上シロガネが傷付かないように……シロガネに酷いことをさせない為に……絶対に俺が止めるんだ!


「分かった。そのマッチ受けてたつぜ!」


 もう、何度も間違えた。間違え続けてシロガネも、ヒョウガもサチコもみんな傷付けちまったんだ……だから、今度こそ間違えない!俺はシロガネを救ってみせる!!

 

「楽しいマッチにしようぜ!コーリング!ドライグ!ツァイトウルフ!ノミノノーム!」

「正義の侵犯を始めよう。コーリング。ステュクス、クレイトス」



「レッツサモン!!」





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